夜に聞こえるお経

 仕事で疲れて眠っていると、遠くから何か聞こえてきた。

アパートの隣の部屋からだろうか?

静まり返った室内で、耳を澄ますと音は一定のテンポで何かをつぶやいている。

音楽かと思ったが、どうも違う。

話声のようだが、相手はいない。一人で何かを囁いているようだ。

目がさえてきた。時計を見ると午前二時くらいだ。

この部屋はアパートの一室だが、どうも安普請で壁が薄く隣の音が聞こえるようだ。

騒音なら苦情も言えるが、この程度なら言いにくい。

何を言っているか気になってきた。声に集中する。

女か、男かもわかりにくい囁き声で、内容も分かりにくいが、何かお経のようだった。

何故、こんな時間に読経しているのかは、わからない。

何か違和感を覚えたが、眠いのでその日は眠ってしまった。


翌朝、何か嫌な夢を見たようで寝汗をたっぷりかいていた。


その夜も同じく読経が聞こえる。

宗派もどこかわからない。

闇夜に不気味な声だった。


次の日、隣の部屋を確認してみた。

そこは空き室だった。自分の部屋は角で隣の部屋は一室だけ。

管理会社に尋ねてみたが、だれもお経など聞いたことがないという。

不気味な予感があり、アパートを出た。

しばらくして、前住んでいたアパートは家事で燃えてしまったらしい。

死者が出たかどうかは確認しなかった。

それから、お経は聞こえたことはない。

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