ちょっと奇妙な話集

海青猫

一章

愚痴と猫

月灯りが道を照らす。

すでに日付も変わろうとしている。

仕事が忙しく。残業もかさみ。疲れ果てていた。

家路を歩いていると空き家のブロック塀の上に猫がいた。

確か二十歳以上の人間でいうなら老人の域に達している年齢の猫らしい。

近づいても猫は逃げる気配はない。

深夜も近い時間、人通りもない。

猫はこちらを見ている。

思わず、職場の愚痴を猫にぶつけていた。

愚痴は人に話したらすっきりするが、うかつなことを話すわけにいかない。

猫なら人語がわからないので問題はないだろう。

パワハラ上司のこと、得意先の不合理な依頼。生産性のない部下のこと。

色々な愚痴を猫にまくし立てていた。

猫は何も言わずにこちらを見ている。

「こんなことをいってもお前にはわからないか」

猫に対してつぶやいた。

「いや、これだけ愚痴を聞いてやったのだから、何か食べるものでも欲しいねぇ」

猫はにやりとわらった。

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