あの日のあなたへ

暁ねむる

あの日のあなたへ

「青春」と聞いて、なにをイメージするだろう。

普通なら、クラスメイトとはしゃいだり、部活に打ち込んだり、好きな異性に告白する光景を思い浮かべるだろうか。



それを青春と呼ぶなら、あなたにはそんなもの、なかったよね。


つらいばかりの明日がくるのを少しでも遅らせようとして、今日も夜更かししているあの日のあなたに、伝えたいことがある。





林間学校も、体育祭も、文化祭も、みんなの顔色を伺いながら愛想笑いでやり過ごしていたあなたに。


先生は「みんなと仲良くしましょう」なんて言うけれど、うまくできない自分を責めなくたっていいんだよ。

誰だって好きな人がいれば苦手な人もいる。

たまたま同い年で、たまたま近いところに住んでいて、たまたま同じクラスになっただけの人が、お互いをみんな好き合うなんてことがあるだろうか。そんなこと、あるわけない。だいたい、先生だって先生どうしみんな好き合ってはいないじゃないか。

嫌いな人がいたっていい。必要なのは、みんな仲良くするんじゃなくて、嫌いなまま相手の存在を認めること。




知らない男に、すれ違いざま、「脚、太えな〜!」と笑われて、ショックを受けているあなたに。


あなたは、モデルのように細くない自分を責めるけれど、どう考えたって相手のほうが悪いよ。

あなたは自分に問題があると考えているけれど、これは、女の脚の太さが気になってしまう問題を抱えている相手が、自分自身と向き合うこともせず、それをあなたに押し付けているだけなんだ。

いつかあなたには、分かるときがくる。100人いれば100通りの美しさがあるのに、あのときの男は、ほんの数通りの美しさでしか世界を理解できない貧しい人だったのだな、と。




「俺が稼いだ金で買ってやったんだ」と口にするパパの前で、こうべを垂れているママを見ているあなたに。


パパとママの仲が悪いのも、パパの前で飲み込んだ言葉をママがあなたに投げつけるのも、全部あなたのせいじゃない。

あなたが傷ついているのは、心のどこかで、いつかきっとほんとうの優しい父親になってくれるだろうと期待しているからだ。親子は愛し愛されるべきで、まだその状態になっていないだけだと思っているからだ。その責任の一端は、自分が期待通りの子どもになれないせいだと感じているからだ。


期待をかける価値のない相手に、期待なんてしなくていいんだよ。親子だからといって、分かり合わなくたっていいんだよ。

たとえ家族だって、別々の人間だ。たまたま家族になっただけで、愛し合ったり、なんでも考えを理解し合えるとは限らない。当然のことだ。気が合わなくたって、嫌いだっていい。

あなたがいま悲しみや苦しみを抱えていることに、罪悪感なんか持たなくたっていいんだよ。




これからあなたが生きる未来の世界では、残念だけど、辛いことや悲しいことがたくさん起こる。良くなるどころか、もっと悪くなっていることもある。

でも、こんなふうに、誰にも顧みられることのなかったはずの、青春のリアルを書き留めることはできる。


びっくりするくらい青春らしくないあなたの青春時代を肯定する人間がいることを、いまここで、あなたに伝えたい。

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