第10話 王城にはとんでもないものがあるようだ




「ほえー。すっごいなぁ……」


 王都に住んでいるというのに、ここにくると田舎者になってしまう。

 おそらくこの王城は世界一の大きさだろう。

 この大陸の七割を統べる巨大国家なのだから、城もまた巨大で当然なのである。

 というか、改めて近くで見ると、城というよりも、まるで都市国家のようだ。城の中は更に用途と階級ごとにいくつかの城壁で区切られていて、王城の関係者が数万人も暮らしているという。

 地方では数千人で大きな街、一万人もいたら都市という扱いなのだから、この王都の大きさたるや。


 アレクセイは最初の門番に神父から預かっている書状を見せると、親切に行き先の細かい道順まで教えてもらって中に入った。


「……マジか。マジかマジか」


 歩きながら、さっき門番に聞いた言葉を思い出して、つい期待に頬をゆるませてしまう。


 ――プロトヤドニィ山までの移動装置ですね、それなら……。


 さりげなく言われたけど、この移動装置って言葉……。


 古い言葉で言えば<門>!


 王城に<門>があるなんて、そんな話は酔っ払いの与太話、眉唾物だと思っていたんだけど、まさかの本当だった。

 そういえば白鉄騎士団の団長であるライヤが<門>がどうのと、変な道具で話したときに言っていたような気もするけど、あの時は話がまったく分からなくて頭がまわっていなかった。


 そうかぁ。

 まさか<門>が使えるとは!

 アレクセイはにまにまとしながら王城の中を進んだ。


 しばらく進むと自分と同じ<門>待ちの人達の集まりを、開いているドアの向こうに見つけた。なぜ分かったかと言えば、スコップである。

 そこにも衛兵がいたので、神父から預かった書状を見せた。

 すぐに「どうぞ」と方向を示されると、おそらく教会関係者の集まりと思しき集団があった。


 一歩、中に足を踏み入れると、アレクセイはまずこの場所に驚いた。

 そこは神殿かと思うような天井の高さだった。

 そしてあった――。


「あれが<門>……」


 奥に、二階建ての建物よりも更に高い、三角錐の不思議な柱が二本そびえていた。

 とんでもなく強力な魂と同じような力を感じる。

 すごい――。


 これでソロコフ領の聖山まで一気にいけちゃうとか!

 奇跡すぎるだろ、それ!


 アレクセイがそんなことを考えていると、後ろから聞き覚えのある声がした。


「<門>の起動がなぜこんなにも時間がかかる? いったいどうなってる!?」


 白鉄騎士団団長のライヤだ。揃いの上着を着こんでいる騎士達に向かって怒声が飛ぶ。


「それが教会からの要請があり……」


 ライヤの眉間に深く皺が刻まれた。

 現地は国境沿いで隣国と小競り合いをしているソロコフ領なのだが、当然そこにいるはずの駐屯軍とも連絡がとれていなかった。そんな状態だというのに、今度は<門>では教会絡みでごたごたしている。これでは理性的でなんかいられない。

 今この瞬間にも理の外の炎が、ふもとの町を襲うかもしれないのだ。


 ライヤは「教会ぃ?」と悪そうな顔をして、教会関係者の集まる方向に振り返った。


 と、アレクセイと目が合った。

 ライヤは本気で驚いていた。


「……まさかあの子はよりによって教会にいるのか」


 くちおしそうに漏れたそのつぶやきは、もちろんアレクセイの耳には届かない。


 その時、教会側と話をつけていたらしい騎士が、ライヤの元にかけてきた。


「彼らが祈りを終えたら、<門>を開くそうです」

「おい、私は詳しくないのだが、神への祈りってのは人殺しのためにあるのか? 一分一秒遅れるだけで被害は広がるんだ。すぐに<門>を開け。今すぐだ」


 教会関係者全員に聞こえるボリュームでライヤは言い放った。不敬な態度だ。だが、聖堂騎士らしき男が厳しい目を向けただけで、誰からも文句は出なかった。

 <門>の前の技術者が「は、はい」と慌てて、開くための操作をはじめた。


 二本の柱の間に雷のような光が走る。

 光が落ち着くと、まるでやわらかい風に波打つ湖面のようにその空間が揺れた。


「白鉄騎士団出るぞ。敵は理の外、神のポイ捨て――」

「イエスマムッ!!」


 騎士達の迫力ある声がその場を支配する。

 そしてライヤを先頭にして、彼らが真っ先にあの揺れる空間に向かって動き出した。

 アレクセイは迫力に圧倒されながら、その背中を見送った。


 いよいよ自分も<門>へ――。

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