~ソロウエディング~

あいる

第1話 ひとりぼっちの花嫁


 たったひとりで笑顔になれるはずもなくて、アルバムの中のウエディングドレス姿の私は寂しそうに笑っている。


 コロナ禍で新婚旅行を兼ねて行うはずだったハワイ挙式は中止になった。


 オアフ島のモアナサーフライダーのチャペルで二人で挙げるはずの去年のゴールデンウィーク。

 思いがけないウィルス蔓延でキャンセルを余儀なくされた。


 一生に一度の晴れの日になるはずだった、南の島でのチャペルウエディング、ワイキキ青い海風とプルメリアの香りの風に包まれて大好きなタケルと一生の思い出を作るはずだったのに、悲しすぎる。


 せめて二十歳代のうちにと、ようやく街中の小さな教会でフォトウエディングを行うことになっていた。


 待ち合わせ時間は11時の予定なのに、新郎タケルが来ない。


「新郎さまからのご連絡はございましたか?」


「それが、何度も電話をかけてるんですけど、スマホの電源が切れてるみたいで」


 医療機器の販売会社で営業の仕事をしているタケルの勤務時間は長い、個人病院の医師にアポイントを取って、話を聞いて貰うのには診療時間が終了する時間にお話を聞いて貰うしかない。


 新型コロナの影響も多少あるが元々営業不振の会社に勤めていたタケル、是が非でもこの契約をしたいと思っていたのだろう、私が言うのもおこがましいが、真面目で誠実なのは一番知っている。

 頑張りすぎるのだ。


 そんなタケルだからこそ一生を共にしたいとも思った。


 でも、それとこれとは話が違う、花嫁をたった一人にして彼はどこに行ったのだろう。



 やっぱり一緒に来たら良かったと後悔しても遅い、タケルのことだ大方の察しはついている。


 スマホの充電もせずに爆睡しているはずだ。


 今朝から何度も連絡してても彼からの返信はなかった。



「新婦さま、そろそろ次の予約の方が参ります」


 やっぱり来なかったのだ、とりあえず花嫁だけの写真は撮り終えて、式場をあとにした。


 まるで、新郎に逃げられた寂しい女にしか見えていない。




 抜けるような青空の下、ひとりぼっちの花嫁の私は手作りのブーケと袋に入れたウエディングドレスを手に家路を急いだ。


 今日から住むはずの新居へと向かうタクシーの中から、流れる景色を眺めていたら涙が溢れる。


 このウエディングドレスだって二年前に亡くなった母が何日もかけて縫ってくれた形見だった。

 夜中に針仕事をする母の姿を思い出すと切なさが込み上げてくる。


 楽しく暮らすはずの二人の部屋には西日が当たり始めていた。

 新しく揃えたテーブルの上には、二人で提出するはずの婚姻届が寂しそうに置き去りにされている。


 荷物を床に下ろして、ソファーに倒れるように座り込んだ。


 どのくらいの時間がたったのだろう、ふと目が覚めると、私の横にタケルの姿があった。


 いつしか部屋には夜の帳がおりていて、明かりも灯さずにウトウトするタケルの横顔を見てるとほっとして涙が溢れた。


 冷蔵庫から冷えた緑茶をグラスに入れて、飲んでいると流し台にメモが置かれているのに気がついた。

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 謝罪文

 明日香へ


 寝坊してしまった僕は慌てて飛びだした、もちろんスマホはポケットに入れていたし、急いで式場に向かおうとした。

 そしたら、道の真ん中で途方に暮れているおばあちゃんを見つけた、話を聞くと家が分からなくなったという認知症の人だった。近くに交番もなくてようやくおばあちゃんの荷物の中にあった住所へと送り届けることができました。


 でも、明日香が楽しみにしていた今日を台無しにしてしまった。


 ほんとにごめんなさい、こんな僕についてきてくれると言った明日香の事がたまらなく大好きです。


 目が覚めたなら一緒に婚姻届を出しに行って貰えますか?


 タケルより


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 そんな人なのだ、私が愛したのは優しくて、ちょっぴり頼りなくて寝坊ばかりする。初めて出会ったあの日から変わらない気持ちでいられるのは、あなたのそんな優しさのおかげ。


 ソファーに眠るタケルの髪の毛にはいつもの変な寝癖がついている、それを撫でながら頬にそっと口付けをした。


「これからよろしくね」


 今回のことは許してあげるけど、絶対に南の島への旅行だけは連れて行ってね。



 ~了~


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~ソロウエディング~ あいる @chiaki_1116

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