作用

伏見 明

記憶へと

ある春先の話。

僕らは桜が溢れる公園で酒を飲んでいた。


話と言えば小学校の頃や中学校の頃の話。


だだっ広い駐車場の端で三人、コンビニで買ってきたポップコーンを囲みながらただ只管に話していた。

今思えば昔は未来の話ばかりしていた。


高校はどこに行く?とか、進学するの?とか、

YouTuberになろうぜ。とか、みんな就職したらシェアハウスして小さい会社でもやろう。とか。


高校生になってからはみんな違う学校に通った。

毎日学校で顔を合わせていた訳だから、勿論集まる機会は昔に比べて格段に減った。


昔に比べて、随分と過去の話ばかりする様になってしまった気がする。


別に未来を悲観している訳でもないし、過去を羨んでいる訳でもない。と、思う。


正四角形があって、その頂点と底辺には正四角形を右と左に隔てる線がある。

初めは一番左にあって、その線は歳を重ねるに連れて右側へと移動して行く。

初めは右側の四角形の表面積の方が遥かに大きいが、次第に狭まり、同じになりそして、追い越して行く。

その表面積こそが僕たちが想える範囲と言うか、何と言えばわからないのが正直なところだ。


随分と未来を想える余裕が無くなった僕達はきっと自然に過去の話で盛り上がっているのだと思う。


僕はその公園での談笑はとても面白かった。過去のおかしな出来事の話も、真面目な話も、全て面白く感じられた。


だから少し悲しくなった。



変わったのか、僕たちは。

君たちはどう思っているのか。過去の話ばかりになってしまった今を。

焦りはないか?



そのとき、ジョギングをしていた少年が僕達のすぐ側を走り抜けた。


「こんばんは!」大きな挨拶をしながら。


僕はつい「こんばんは!!」彼に負けず劣らずの大声で応え、そして涙した。


この少年の様に生きられたら良かったな。

いや、生きていた筈だった。


後悔か?


多分違う。

きっと立場が違うんだと思う。


「いいな、あの少年。」


友人がふと言った。


「何部か当てようぜ。あの少年。」


もう一人の友人が言った。


「サッカーか野球、、まあでも野球だな。多分。それにしてもこんな夜遅くに凄いな。」



「飲み物でも買ってやろうぜ、未来は明るい。」

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