ソロモン王の秘宝

ペンちゃん

第1話お題「ソロ〇〇」ソロモンでよかとね?

 魔術王ソロモンはある時10つの指輪と知識を10の魔導書に分けそれぞれを弟子たちに分け与えた。

 そう、それは遥か昔の出来事である。

 

 …

 

 「本日全国では新たに2人のコロナウイルスへの感染が確認されました」

 

 現在、コロナウイルスが収まりを見せ以前通りの日常が取り戻されてから久しい。

 

 そう告げるニュースを横目にリュックを背負い家を出る。

 

 「行ってらっしゃい蒼良(そら)」

 

 母の声に応じ今の気持ちを隠す為にも演じて元気よく返す。

 

 向かう先は高校……。

 

 始まった嫌な時間が……。

 通知の溜まったスマホを取り憂鬱な気分でその場所へと足を進めた。

 

 地獄の様なゆっくりとした時間。

 全員の視線がチラチラと感じ笑い声が心を不安にさせる。

 

 ネット上では冷やかしやからかいを受け、学校では孤立。

 

 今、自分はまさに虐めの対象にされていた。

 

 やり口は陰湿で何よりもしつこい。

 

 それに対し助ける手は見えず、一人劣勢ながらも心が完全に折られる事が無いようにと戦い続けている。

 

 頼れるはずの家族は血のつながりのない母が一人と姉が一人。

 両親は自分が幼い頃、交通事故で死亡したと聞いている。

 

 ただでさえ大変そうに働いている今の母に負担はかけたくは無い。

 そして担任の先生に相談した所で事態は深刻化する一方。

 教師は虐めに対し対策を実施した、という事が大事なのだ。

 口頭で注意するのみでそれ以降の報復までは面倒を見てはくれない。

 多分…難しいのだと思う。

 虐めはクラス全体で一人を叩く様な形で行われているから。

 

 …

 

 今日も教室を抜け出し一人屋上で弁当を食べる。

 

 時折ここから飛び降りれば生と言う名の地獄から抜け出せ楽になれるのではないかと思ってしまうが、ここが唯一学校で落ち着ける場所だ。

 

 そしてここには僕だけでは無い、いつも先客がいる。

 どうやって登ったのかは分からないが一番高い場所で食事をしている女性。

 確か名前は、犬飼 優菜(ゆな)。

 同年代で違うクラスだが、僕と同じで何時も一人でいる変わり者だ。

 

 購買に群がり笑っている生徒達の声を聞きビクリとしながら弁当を開け中身を覗く。

 

 中身は…油揚げだった。

 

 「そう言えば母さん昨日、安売りしてるって嬉しそうに言ってたっけ」

 

 貧相な食事に見えるかもしれないが、こう見えても母さんの料理はとても美味しい。

 僕がそれを食べようとした時…それは起こった。

 

 クンクン…ジュルり

 

 そんな音を聞き横を見るとすぐ近くにヨダレを垂らし油揚げをガン見している女性の姿があった

 

 「あの…犬飼さん?」

 

 そう聞くと慌てた様子で優菜は姿勢を正し少し距離を取った。

 

 「あっごめんごめん、別にそんな油揚げが欲しいなー、取っちゃおっかなー。

 なんて考えて無いから、安心して!」

 

 そう言いながらも油揚げから目を離そうとしない犬飼。

 ………どうやら弁当をたかられているらしい…。

 

 「いやー、悪いねぇ君。

 なんか無理やりもらっちゃったみたいで、ありがと」

 

 犬飼はもう満足とお腹をポンポンと叩き僕を見た。

 顔が近づいてくる。


 ペロン

  

 何をするのかと見ていたのだが……間違いない顔を舐められた…。

 

 あの人…やっぱり変わってる……。

 てか、汚い!!

 

 …

 

 「蒼良! 一緒に帰ろ!!」

 

 一人で歩く帰り道、振り向くとそこには知った顔がそこにはあった。

 姉と同じ女子高に通う彼女。

 幼馴染の式見 矢志路(やしろ)が走ってきいる所だった。

 唯一の友だ。

 

 「矢志路…」

 

 小学校の頃から矢志路とは学校から一緒に帰ったりどこかに出掛けたりする間柄だ。

 自分は昔からそんな矢志路に好意を寄せているがこの関係が壊れるのを恐れその気持ちを抑え表に出してはいない。

 

 …

 

 そんな日を繰り返す中、母が僕の演技に違和感を覚えそしてついに気づいてしまった。

 

 「蒼良…母さんの目をしっかりと見なさい。

 クラスの皆からいじめを受けてるんじゃ無いの?」

 

 母は、そう優しく告げ、僕の手を握る。

 一体なぜばれたのだろう、家にいる時はできるだけ元気を演じ続けていたのに。

 それに…母さんには気づいてほしくなかった…。

 ただでさえお金周りで忙しいのにさらに負担を与えたくは無い。


 「大丈夫だよ、母さん。

 なんでもないよ」

 「なんでも無くない……母さんに一言、助けてって言ってくれればいいの。

 できる事なら何でもするから」

  

 それが、その思いやりが辛い。

 だからだろうか…思ってもいない言葉が僕の口から出てしまったのは…。

 

 「関係ないだろ!?

 ほっといて、本当の母親でも無いくせに!!」

 

 僕は家を飛び出しただひたすら走った。

 

 「なんであんな事を行っちゃったんだろ…」

 

 そんな気持ちを組んでか雨が降り始め僕を濡らす。

 公園でそうしてそのままでしばらくいると一人の男が近づいてきた。

 黒いボロ布を纏った怪しい男。

 あきら様に怪しいので警戒する。

 すると男は目の前で立ち止まると一冊の黒い本を差し出した。

 

 「お前の父と母がお前に託した物だ。

 上手に使いなさい」

 

 それを受け取り男から本へ目を移す。

 それは古びた本で見た事もない文字で書かれている。

 

 「父さんと母さんが託した?」

 

 そう言い見上げると男は消えていた。

 

 「あっ、蒼良!

 やっと見つけた、母さんに謝りなさい」

 

 その代わりに姉が傘を差し出し怒ってそう言った。

 

 …

 

 「母さん、あんなこと言ってごめん…」

 母は何も言わずただ抱きしめてくれた。

 

 文字が読めない本それを膝に置き観察する。

 結局のところこれはなんだ?

 一段落つき自分の部屋でその本を開く。

 するとその中から一つの指輪がコロコロと足元に落ちた。

 

 「何だこれ」

 

 指輪に触れた瞬間、まるで電撃が走ったかのような感覚に襲われ思わず手を離す。

 

 『契約の成立を確認』

 

 そう声が聞こえ見ると本が空中に浮かびこちらを見下ろしていた。

 

 『我が名は叡智の書。

 ソロモン様が分けられし10の内の1つ、知恵と力を与える太古に生まれし書物だ』

 

 話す魔導書、その黒い書物はそう告げ指輪を持つ自分に従った。

 

 …

 

 その魔導書はまず僕に力を与えた。

 いじめをしてくる生徒達にちょっとした呪いをかけたり、不幸が訪れる様にした。

 殺す事も出来ると言われたが、そんな物騒な事をするつもりは無い。

 ちょっとした復讐だ。

  

 そんな帰り道、黒い書物は言う。

 

 『あのお前が好意を寄せている女をお前の虜にする事も出来るぞ?』

 

 甘い誘惑だ。

 首にチェーンで吊り下げられている指輪を握る。

 だが…。

 

 「そんな事はしないよクロ」

 

 クロ、これが彼の名前だ、いちいち叡智の書と言うよりは良いと判断してのことだ。

 黒かったからクロ、まるで猫に名をつけるかのように単純にそう決めた。

 

 …

 

 いつもの様にちょっとした呪いを生徒にかけ満足し、屋上へと向かう。

 そこに居るはずの女性は珍しくいなかった。

 

 そうして学校から帰る道すがら、昼に見なかった女性は人通りの無い道で姿を表した。

 

 「犬飼さん…?」

 

 不思議な変わった女性と言った様子では無くいつもと雰囲気が違う。

 

 「君が、高宮くんだね?

 その力…どこで手に入れたのか知らないけど  私に渡しなさい

 あなたが持っていては危険な物よ」

 

 そう告げると僕に近づいてくる。

 

 『まずいな…蒼良、私は逃げる事を推奨する。

 彼女は霊力を宿している』

 

 クロがそう呟いた瞬間、青い炎が現れそれは現れた、白い大きな狼だ。

 犬神、恐ろしいそれを見た瞬間に僕は全力で走り出した。

 殺される…そう思い必死になって逃げた。

 逃げる  逃げる  

 だが…。

 屋根の上も縦横無尽に走る彼女と狼から逃げる事は不可能だった。

 まるで狩りのごとく徐々に追い詰められ最後には行き止まりの道、コンクリートに囲まれた場所まで追い詰められてしまった。

 

 「捕まえた」

 

 腕を捕まれ首にぶら下げられた指輪を取ろうと制服を脱がせにかかってくる。

 

 「ちょっと、やめてください」

 

 力が異常に強く、引き剥がす事ができない。

 暴れ、ゴチャつく中、一人の声が聞こえた。

 

 「蒼良!? こんな所で何してるの!?」

 

 矢志路だった。

 彼女は慌てて二人に近寄り二人を引き剥がす。

 犬飼もこの状況に仕方なく手を離してくれた。

 矢志路には犬神が見えていない様で堂々とその前に立ち僕と犬飼に説教をする。

 

 「こんな所で二人、何してたの!?」

 

 …

 

 それから矢志路は学校を出ると迎えに来る様になり一緒に帰る時間が増える様になった。

 なぜか犬飼も一緒に。

 学校では多数の生徒がいる為襲っては来ない。

 どうやら、矢志路がいなくなる所を狙っているらしい。

 

 そうやって、つなぎつなぎで日々を送っている時にそれは現れた。

 

 何気ないいつもの道の中央に紫の炎に包まれた何か。

 矢志路には見えないようだが、僕と犬飼には見えている。

 

 『ソロモンの悪魔が一人第40の魔神、ラウム。

 力を持つ者よ、我と戦え』

 

 その姿は巨大な烏の姿をしており明らかにやばい存在である事がわかる。

 

 「行きなさい!!」

 

 その存在を前に僕は立ち止まり硬直していた。

 しかし、犬飼の声に目が冷め矢志路の手を引き走り出す。

 犬神を呼び出し戦う犬飼の背を見て逃げる中その戦いの反動で家々のガラスが割れて落ちてくる。

 

 とっさに矢志路を庇った時にそれは現れた。

 ソロモンの指輪が鼓動し一対の魔神を呼び覚ます。

 第11の悪魔グシオン。

 

 その身に宿した力はガラスの破片を砕き退かせる。

 

 『蒼良よ、その力を使い奴を倒せ。

 お前ならやれる』

 

 クロにそう言われ後ろを見るとそこには一方的に押されている犬飼の姿があった。

 逃げる事をやめ振り返る

 

 「矢志路、先に帰っていてくれ」

 

 そう言うと恐怖を振り切り走り出す。

 今までの弱気な自分を捨て。

 その力は目の前の敵を凌駕し一撃の攻撃で打ち破った。

 

 …


  「界解(かいかい)」

 

 犬飼がそう鳥居の前で唱える。

 そこを通ると

 不思議な世界…洋風と和風な昔の建造物が立ち並ぶ巨大な街が遠くに見える丘に出た。

 

 「ようこそ…蒼良。

 すべての場所、力が繋がった地、ヴァルハラへ」

  

 物語はそうして続いていく?

 

 …

 

 とある館にある太陽の光が刺す暗い部屋にて。

 

 「そうか…指輪の所有者をついに見つけたか…良くやった クク」

 

 一人、あざ笑う者あり。

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