本の虫の大人びた少女

キザなRye

全編

彼女は普段から本を読んで実年齢よりも相当年上に見える。

所謂ソロンパだ。

このソロンパという言葉がどこから来た言葉なのかは分からないが、彼女の周辺では彼女を形容する言葉としてそんな言葉が飛び交っている。

悪い言葉のようには聞こえない、彼女への尊敬の思いすら感じられる気もする。


実年齢以上に彼女が見える理由はいくつもあると思う。


一つはその年齢にしては知識が多すぎること。

例えばパレスチナ問題やカシミール問題について聞けば相手の年齢に合わせて言葉を選んで教えてくれる。

歴史的な知識や言葉で伝える語彙力など彼女の手中には何があるか分からないくらいに色々ある。


別のものでは言葉遣いが綺麗であること。

小学生から中学生にかけて言葉遣いが悪くなるのは誰しもの経験からそういうものだと多少は理解できるが、彼女の口から出る言葉たちは神秘のベールを纏ったものばかりである。

大人でも出来ているか怪しい尊敬語・謙譲語の使い分けなんてお手の物だ。


さらには大人から一目置かれていること。

周りはまだ子供なので大人からの目線に自分達の考えが知らず知らずのうちに影響を受けている。

大人から他の人と別の見方をされているということは大人っぽいのかな、みたいな思考に持っていくので一つの理由となりうる。


ただ、彼女はお姉さん的存在として誰かに頼られるようにはなっておらず、どちらかと言えば一人でいるような生活を送っていて周りも好んで近付いてくることは滅多になかった。


彼女が面倒見が良くて人懐っこい性格だったら人気者になっていたのは間違いない。そこが少し残念な部分だ。


人との関わりが彼女に少ない理由、それはちゃんとある。

彼女は孤児なのである。

幼い頃に両親が離婚して母に連れられて生活していたが、彼女が5歳の時に癌で母を亡くした。

彼女の母は親類の反対を押しきって結婚したので母方の親類が彼女を引き取ってくれるはずもなく、彼女の父は新たな家庭を持っていて行く場所がなかった。

幸いなことに養子を欲しがっていた夫婦が彼女を引き取ってくれたので行き場所はどうにか決まった。


継母や継父はとても優しい人だったが、慕っていた母を失った5歳児には新しい環境に容易に馴染むことはできなかった。

その影響で“孤児”色が全面に残る形で小学校に入学していった。

年齢を重ねていくと母のことを忘れたというわけではないが頭の中で占める割合は減っていき、彼女の生活は他の人と同じになっていったもののこれまでの生活の名残は残ってしまって少し浮いていたことに間違いはなかった。


彼女自身が自分は他の人よりも劣っていると感じて一生懸命勉強することで広範な知識を得た。

また実の両親を亡くしているということで色々な大人の話を聞かざるを得ない生活だったので言葉遣いは大人に近くなった。

もちろん、大人からは親を亡くしたのにここまで成長したのかと褒められることも多くて彼女の周りから羨ましがられた。


そして彼女の周りでよく聞く言葉、ソロンパは彼女の過去から来ている。

誰がそんなことを言い出したのか、そんな知識を持っていたのか分からないが“一人”という意味の“ソロ”と“孤児”の英単語の“オーパン”を複合した“ソロオーパン”と最初は言われていた。

“ソロ”は聞いたことがあっても“オーパン”という言葉は初めて聞いた人ばかりで(逆に元から聞いたことがあった人がいたのだろうか)言いやすく変化していって最終的には“ソロンパ”で落ち着いた。


完全に差別の意図が籠っている単語ではあるが、彼女は実は気に入っているらしくて一種の愛称として今後も親しまれていくのだろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

本の虫の大人びた少女 キザなRye @yosukew1616

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説