虹の話


 『虹って、太陽の反対側にできるんだよね、虹の正体は水滴だから、朝虹は雨の前兆だけど、夕虹は晴れを連れて来る。」


 ………やってしまった。

 大晦日。

 この日位は、いいだろうって、お酒を飲んでしまった。そんなに量には飲んでなかったのだけれど、夜明け前、胸の痛みに目が覚めてしまった。息も出来ない。何とか救急車を呼んでまた行きつけの病院へ、検査の結果、膵炎だけだったので、そのまま隣の市の総合医療センターへ、行く事になった。やはりそのまま入院した。この病院は、戻って来た患者には、先生も、看護師さんもあからさまに態度が違っていた。まぁこれが当たり前なのかな。今回の膵炎は、軽症だったらしく、点滴だけで済んだので、売店で本を買って、ずっと読んでいた。10日程で退院となったが、その間、顔を見せられなかった訪問看護や、リハビリには、本当に申し訳ない気持ちだった。

 しかし入院前の日常は、すぐ戻って来た。僕の心の中では、暖かくなったら、仕事をし始めようと思っていた。

 でも、心臓の事もあるし、まだ幻覚や、幻聴もあるし、という事で一度精神科の先生に相談をしてみると、僕は、破滅型である事もそうだし、病気の事もあるだろうし、仕事の事は、一度忘れてみては、と言われ、少し気が楽になった気がしたよ。

 

 1月から兆候はあったが本格的に2月くらいから今度は、日本だけではなく世界中が大変な事になった。新型コロナウイルスだ。

 そう、世界中の生活が一変したんだ。

 ただでさえ怖い病気なのに、正直僕は、心疾患を持っているので、より一層怖い。もっともっと大変な人達がいる事も、もちろん分かっているのだが。

 仕方なく外出する時は、人一倍気を遣っているつもりだし、あまり人の集まる所には、行っていない。終息するまで今は、とにかく家にこもっていようと決めている。

 テレワークでも、仕事がある人はまだいい方だなと思っていたよ。

 僕は、朝起きて血圧計って、検温して、体重を計って、血中酸素濃度を計って記録する。朝ごはん食べて、テレビを見て、昼ご飯を買いに行って食べる。調子がいいときは、小一時間散歩をして、テレビを見て、晩御飯を買いに行って食べ、テレビを見て、朝と同じ記録をとって寝る。当然だけど、毎食後と寝る前は、大量の薬を服用する。

 毎日毎日同じことの繰り返し。職の無い人は同じようなものなんだろうなって思いながら過ごしていたんだ。

 でも、その間も、幻覚と幻聴が纏わり続ける僕は、このままでは、精神がおかしくなると思い、昔、暇があれば、書いていた小説をまた書き始めた。最初はスマートフォンで下書きして、原稿用紙に手書きする方法を取っていた。


 6月に政府から特別定額給付金で10万円が支給された。

 僕の生活は随分色を変えた。

 ノートパソコンを買い、自転車を買い、炊飯器を買い、椅子を買った。

 残っていた家賃と自動車税を払った。

 これで、自己破産の申請が出来る。早速、司法書士さんに連絡を入れた。司法書士さんも、「急いで手続きしますと言ってくれた。

 生活も自転車購入で、移動が楽になるし、行動範囲を広げる事が出来る。

 何よりノートパソコンが、生活を一変させた。安い配信系のサブスクに加入して映画を見たり、小説を書いたりしている。

 ぎりぎりの生活費を節約して、リサイクルショップでパソコンデスクや、パソコン用のスピーカーを買ったり、キャッシュレス決済でたまったポイントで、インテリアランプを買ったりしている。

 部屋もそれなりに見られても恥ずかしくない程度にはなったと思う。

 しかしまだ、幻覚達は消えない。これは、一生付き合わなければならないのかもね。ただ、幻聴は、ほとんど聞こえなくなったよ。

 コロナ、コロナで毎日ネットやテレビのニュースは、同じ事の繰り返しで、気が滅入る時もあるけど、今僕はそれなりに過ごしていると思う。


 一人でもやっていけていた時には、分からなかったが、行き詰まりどん底に落ち、這いつくばって死にかけた僕が、今どうにかでも上を向けるのは、頼る事を覚えたからだ。

 それは決して甘えではないと思う。

精神科の先生に「君も、まだこの先どうなるか分からないよ。」とよく言われるが、僕も不安が無いと言えば噓になる。でも今は、自分を信じて今の気持ちを持ち続けるしかないと思っている。


 今も、これからも、現れるであろう頼れる人達の1人1人が、1色1色集まり、虹になって支えてくれるはずだから。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る