優しさを広げたい、そう思った夕方

 ある日の午後、私が図書館で受験勉強をしていた時のことだ。

 そこは飲食ができる場所だったのだけれど、近くの席で大福か何かを食べている老人がいた。ペチャペチャと音を立てていて、勉強に集中できない。

「やれやれ、なんてこった……」

 私は内心苦々しい思いをしていた。


 しばらく勉強が進まず考え事をしていると、あることに思い至った。

「彼にも何か事情があるのかもしれない」

 例えば、小さい頃に貧しくて甘いものを食べられず、今になって夢中で食べているのかもしれない。

 家で食べればいいものを、なぜ公共の場で食べるのか。それにも何か事情があってもおかしくない。

 妻と仲が良くないとか、医者に止められてもやめられず、家族に怒られないように隠れて食べているとか。

 そう思うと怒りは消え、彼の幸福を祈る気持ちすら湧いてきた。


 図書館からの帰り道、歩きながらふと気がついた。

「僕があんな考え方できたのって、クレアさんのおかげなんじゃないか?」

 私は元々気が短い性格だ。昔ならウンザリして、不満を溜めたまま帰っていただろう。

 今日は違った。それどころか、自分が不快に思っていた相手の立場を思ってすらいた。

 考えてみれば、クレアさんがそういう人だ。

 クレアさんは人の立場に立って物事を考えようとする人で、その姿勢はお悩み相談をはじめとするいくつもの配信に表れている。

 もしかしたら、配信を見ているうちに考え方が似てきたのかもしれない。「ファンは推しに似る」って言葉、たまにネットで見るけどホントにあるんだね。

 だとしたら、その日を穏やかに過ごせたのはクレアさんのおかげだ。


 元々は気が短かった私がそこまで考えられるようになったのは、クレアさんの優しさを知ったからだ。

 クレアさんの優しさが私などのファンの心に広がっていったように、私からさらに優しさを広げていくことはできるだろうか。

 日常や文章の中で、周りの人や読者の方に優しさを広げていきたい。

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