第8章 - 3  1980年 五月三日 土曜日(11)

 3  1980年 五月三日 土曜日(11)




 見れば白髪の混じるまつ毛も濡れて、目尻の方から涙の筋が薄っすら見える。

 ――泣いたのか!?

 そう思うまま、達哉は必死の声を出す。

「父さん! 父さん! 聞こえてるの!?」

泣いたとすれば今の話が聞こえたからで、つまり意識があったということだ。

「父さん、聞こえたの!? ねえ、聞こえたんだよね!」

 続いた達哉の言葉に重ねるように、まさみの声も響くのだった。

「あなた! あなた! 浩一が! 浩一が見つかったのよ! ねえ! 聞こえる!? 浩一がいるの! ねえ! ここにいるのよ!! 見つかったのよ!!」

 ところが声をいくら掛けても、達郎からの反応はない。

「ねえ、お願いよ、あなた、目を開けてちょうだい!」

 再びまさみの声も震え出し、そのすぐ後ろで翔太と千尋が神妙な顔で見守っている。

 そうして結局、達郎が目を開けることはなく、その日の夕刻、まさみと達哉に看取られながら彼は天へと旅立った。

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