第4章 - 1 ジノ・バネリとマイケル・ジャクソン

 1 ジノ・バネリとマイケル・ジャクソン

 



 擦り切れた畳に見上げれば、ところどころ歪んで見える昔ながらの天井がある。

 それでも……なんとも言えないドキドキ感があった。

 薄いピンクのカーテンに小花柄の壁紙、ハート型の座布団なんて男子だったらあり得ない。匂いまでが清々しくて――きっとシャンプーだったり、いろんな香りが混ざったヤツだ――、達哉はいきなり思うのだった。

「そう言えば、俺って、女の子の部屋に入るのって、初めてじゃんか!?」

 天野翔太のことばかりを考えていて、ただただ素直に上がり込んだ。

 ところが玄関から一歩足を踏み入れて、一気に気持ちが舞い上がってしまった。

「何よ、いきなり……変なこと言い出すの、やめてちょうだいね!」

 心に思った言葉が思わず声になっていて、

「藤木くんが言い出したんだよ! 変なこと言うんだったら、やめにするから!」

 千尋が慌てて達哉を睨みつけ、そんな反応を見せたのだった。

 同じ大学で、学部まで一緒だと知った辺りから、千尋は一気に達哉に対してフランクになった。

 きっと元々、〝人見知り〟なんて感じじゃないのだろう。しかしそんな性格のお陰で、嫌な顔一切見せずにこんなことにだって協力して貰える。

「もう、さっさとプレイヤーとか、準備しちゃったら!」

 千尋は呆れるようにそう続け、玄関脇にあるキッチンスペースで何やらゴソゴソとやり出した。

 ――きっとさ、アルコールとかがあった方が、いいんじゃないかな……。

 ――なら、おつまみ作るよ……もちろん大したものは、できないけどさ。

 そんな達哉の提案に、千尋は妙に嬉しそうにそう言っていた。

 きっとこれから彼女なりの〝大したもの〟に向け、準備するのだろう。

 だからそこから達哉の方も真剣に、計画のための準備を始める。驚くくらい小さな冷蔵庫にアルコールを仕舞い込み、家から持ち込んだポータブルプレイヤーを畳の上に静かに置いた。

 小学校入学した頃に買って貰ったものだから、はっきり言ってちゃんと動くか心配だった。

 ところがコンセントに差し込んで、電源を入れた途端にターンテーブルが回り出した。

 電源スイッチが入りっ放しだったのだろう。

 とにかく動いてくれて達哉はホッと胸を撫で下ろすのだ。

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