孤独な集団

あーく

孤独な集団

「はーい、それでは皆さん。二人組のペアを作ってください。」

 先生がまた即死魔法を唱えた。これにより、ペアを組む相手がいない生徒はクラス替えまでずっと羞恥心に苛まれる。「早く友達を作ればよいのでは?」と言えば済む話だが、友達を作ることが不得意な人は少なからずいる。そういった個性を考慮しないのは学校の悪いところだろう。


 タケルは一人悩んでいた。今日も大して仲良くない人と二人組を無理やり作らされた。相手の気まずそうな顔が今も残像として残っている。どうして自分には友達ができないのか。

「…………はぁ。」

「どうしましたか?」

「だ、誰!?」

 タケルの目の前には黒いコートに白いマスクをかぶった怪しい紳士が立っていた。

「私、アローンと申します。何かお悩みのご様子。何かありましたか?」

「ぼ、僕、今日も学校で一人だったんだ………。」

「ほう!学校で一人!友達がいないと!」

「お、大きな声出さないでよ………。僕だって気にしてるんだから……。」

「おっと失礼。で、君は友達が欲しいのかい?」

「う、うん。だって、先生も『友達を作りなさい』って言うし、友達がいないと同級生からもからかわれるし。僕は一人で図書室で本を読んでる方が落ち着くんだけどね。」

「う~ん………。」

「………。」

「ご~かっく!!」

「え?」

「私についてきてください。なーに、変なことはしませんよ。私はあなたの悩みを解決したいのですから。」

「?」

 タケルはアローンの後についていった。学校では知らない人にはついていかないように、と言われていたが、タケルはこの人が自分の悩みを解決してくれる気がした。


「こちら、中へお入りください。」

 タケルはとある施設へ案内された。中に入ると学校のように廊下が続いており、左右に部屋がわかれている。

 アローンに案内された部屋には『おひとり様専用』と書かれた立札があった。中に入ると、自分の他にもいろいろな人がいた。少年、中年、老人、そして、男性、女性、性別が判別できない人もいる。

「この人たちは?」

「彼らが気になりますか?彼らもあなたと同じ孤独な人です。」

「孤独な人?」

「そうです。例えばあそこの30代前半の女性はまだ独身です。結婚願望はありますが、結婚すると自分の時間が無くなると思っています。」

「………そうなんだ。」

「あの人はLGBTQで、周りから『性別が判断できない』と気味悪がられている気の毒な人です。そこの人は売れないバンドマンでソロ活動している人ですね。」

「色んな人がいるんだね。」


 しばらくすると、アローンは教壇の上に立ち、部屋にいる孤独な集団に向かって話しかけた。

「みなさん、お集まりいただきありがとうございます。」

「お前が連れてきたんだろうが!」

「そうだそうだ!」

「お静かに。本日、みなさんに集まってもらったのは他でもありません。孤独は本当に悪なのか?ということです。みなさんは恐らく、他人からの『孤独はいけないこと』『友達が多いことが正義』という意見が刷り込まれた人たちなのだと思います。」

「………………。」

「しかし、安心してください。あなたたちは孤独であることを誇っていいのです。」

「孤独でもいい!?」

「ええ。ここにいる人たちは何かしらコンプレックスを抱いている人が多い事でしょう。しかし、だからこそ他人の気持ちがわかるのです。それがどうです?周りの人はやたら『どんな人にも仲良く接しましょう』だの『協力は大事』だのと言いますよね?人と接することが苦手な私たちにそれを言うということは、私たちの気持ちなど全く考えていないのです!私たちの方が人の気持ちがわかる分、彼らより優れているのです!」

「そうだそうだ!あいつらがおかしいんだ!」

「確かに!」


 その後、孤独の人の方が優れているという男のプレゼンは30分続いた。

「ありがとう!」

「おや?さっきの坊やじゃないか。どうしたんだい?」

「今まで一人ぼっちだったことで悩むことがなくなったよ!」

「そうですか。それはよかった。では、私はこれで。」

 アローンは音もなく去っていった。


「お疲れ、アローン。」

「やあ、君か。ソロ。」

「『天才育成計画』の進捗はどうだ?」

「ああ、順調だ。まず孤独の人のマインドセットを変えるところから実行している。」

「そうか。しかし不思議だな。孤独な人たちが集まっていて、それは孤独と呼べるのか?」

「彼らは孤独ではないよ。孤独な人同士はいつでも繋がることができる。ただ、離れている期間が異常に長いだけだ。」

「なるほど。ところでアローン、このプロジェクトが生まれた経緯は君に伝えたかな?」

「世に出た天才は孤独なことが多い。孤独な人が周りと違うことを極めることでその才能は開花する。例えばエジソンは孤独がゆえに天才的な発想を生み出した。もし周りの人がいてそれを止められたら大発明などできないだろう。」

「そう。だから孤独な人を集め、その中から少しでも天才が生み出されるようにこの計画が立てられたんだろう。人は周囲の人からの影響をかなり受ける。低俗なやからと一緒にいてもらっては天才の芽が潰れるからな。」

「まずは『孤独でもいい』と思えることが第一歩だ。次は強みを活かすということをしてもらうつもりだ。」

「このプロジェクトに君を選んでよかった。みんなも君の活躍には期待しているよ。」

「ありがとうソロ。君はやはり話が早くて済む。君と友でいられることを誇りに思うよ。」

 そう言うと、ソロとアローンは闇夜に溶けていった。

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孤独な集団 あーく @arcsin1203

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