第13話 接触






 俺の推測を聞いた面々は、それぞれ別々の反応をとっている。

 もしも、そういう魔物と相対した際の対策や戦闘方法を思案するヴィルヘルムと何故か目を輝かせ興味津々のメデル。


「ぅー、当分蟲は見たくないわ」

「雪。探索はここまでにして、そろそろ戻らないか?」


 ヴィルヘルムの言葉にメデルが頷き、リツェアが激しく首を縦に振り同意の意思を表現している。


「そうね!このまま森の中にいてもしょうがないわよね!」

「……そうだな」


 適度な休憩をとった俺達は、周囲を警戒しながら森の外に向かう為の準備をする。

 その間、範囲を広げていた俺の魔力感知に、近くで行われている異変を感知した。


「……戦闘か」

「どの方向だ?」

「この森の先だ」


 俺は、更に魔力感知に意識を集中する。

 この魔力は、エルフ族が2人と魔族が1人だ。その周りを多数の魔物が取り囲んでいる。


 状況までは良く分からないが、おそらく戦況は劣勢だろう。


「加勢に行きますか?」


 メデルの言葉に、流石のヴィルヘルムやリツェアも即答できず表情を曇らせる。


「……それは危険だ」

「せめて、少しでも情報があれば対策を立てられるんだけど……」

「……」


 そう言うリツェアに、魔力感知で分かったことを伝えた所、何故か呆れられた。


「雪……何で種族まで分かるの?」

「集中すればわかるだろ?」


 魔族の魔力は、濃度が濃い所為か重い感じがする。獣人族の場合は荒く、エルフ族などの妖精の民と呼ばれる種族は澄んだ魔力をしている。人間族は、正直1番分かりにくい。

 あえて言うなら、どの種族にも当て嵌まらない感じだ。魔物は、種類によって全然異なるが何となく人とは違う感じがする。


 魔力について話していると、俺の顔を3人が珍獣でも見つけたかの様な目で見つめているの事に気が付いた。


「普通、魔力だけで相手の種族までは分からないぞ」

「そうだったな」

「昔から思っていたけど、雪は変人ね」


 そういえば、元仲間達にもそんな事を言われた気がする。


「流石は主です!」


 もし、相手が魔力を偽装していたとしても、並の偽装になら違和感を感じる自信がある。

 冒険者ギルドで会ったカシムとかいう奴は、魔力の偽装はしておらず姿だけ偽装していた。


「俺の事はどうでも良いとして、どうする?」


 魔物に襲われ、状況が劣勢である事を理解した上で見捨てるか、それとも危険を理解した上で助けるか、俺以外の3人は悩んでいるようだ。


 おそらく3人も理解している筈だ。


 対冒険者に適応している魔物がいるという可能性がある中で、万全の準備をしていない俺たちが戦闘に参加するには危険が大きすぎる。それに、最早手遅れとなっているかもしれない。


 だが、メデルは俺たちの中で人一倍“助けたい”という思いが強いのだろう。それでも、自分には他人を魔物から助けられる程の力が無いという事を知っているのだ。


 ヴィルヘルムとリツェアもなかなか答えが出せない。

 なかなか決められない3人に俺は溜め息を吐く。そして、真っ直ぐに歩き出す。


「雪。まさか、助けるつもりか?」

「昨日言っただろ?情報が欲しいってな」

「し、しかし、危険では?」


 メデルの意見は最もだ。


「何も絶対に助ける訳じゃない。状況を見て決める」

「確かに、それなら問題ないな」

「はぁー、もうこうなったらとことんやってやるわよ!」


 リツェア、だから状況を見て決めると言っているだろ。

 再度、今度は露骨に溜め息を吐く。


「リツェア、ミスだけはするなよ」

「大丈夫、任せておいて」


 

□□□□□



 俺はメデルを抱えながら、魔力感知を頼りにヴィルヘルムとリツェアと森の中を走る。


「主、すいません」

「気にするな」


 何故か、メデルは頬を赤らめている。それをさっきから、リツェアがチラチラ見て来ていた。


「戦闘音が聞こえた」


 流石に、獣人族であるヴィルヘルムの聴覚は俺達より優れているようだ。

 俺も魔力感知で、はっきりと先の気配を感じ取っている。


「近いぞ」


 俺達は、一旦速度を緩めると気配を抑える。そして、ゆっくりと木の幹や茂みを利用して距離を詰めて行く。


 戦況を観察すると、やはり劣勢のようだった。


 魔物は、種類の違う蜘蛛系の魔物が木の上に張り巡らせた糸の上を動き回りながら、対する冒険者3人を追い詰めている。

 普通は種類の違う魔物同士が群れを作る事は、滅多にない。これも敵が多いこの森で生き抜く為に、適応した成果なのかもしれない。


 特に、蟲系の魔物の弱点である火属性に耐性のあるウォータル・スパイダーや死ぬ程ではないが神経に作用する毒ガスを広範囲に放てるスモッグ・スパイダーは厄介な魔物だ。他にも、様々な毒を生成する蟲系の魔物が取り囲んでいる。

 しかも、スモッグ・スパイダーは、住む環境によって毒ガスの強さや効果が微妙に変わるので一応警戒した方が良いだろう。そして、遠距離から固めた糸玉を弾丸のように放ち、素早い動きが特徴のショット・スパイダーは、見た目や大きさは他の蜘蛛たちと比べて小型だが、ランクC+に認定される危険度がある。


「う〜、冒険者さん頑張って」


 小声で戦っている冒険者を応援しているメデルの声で、視線を魔物から冒険者たちに移す。

 やはり冒険者は、若いエルフの少女2人と筋骨隆々の魔族だった。


 エルフの少女たちの装備からして、1人はレンジャー、もう1人は魔導師だ。魔族の男性は、額に生える二本の角から鬼族だという事が直ぐに分かった。

 鬼族は、魔族の中でも珍しく魔法よりも接近戦に長けた部族だ。その証拠にあの魔族は、魔法ではなく両手剣を使用し戦っている。


 少しの間、戦闘を見ていた俺たちにメデルがチラチラと視線を送って来る。


「どうです……」


 メデルの問いに、俺達は即答する。


「あの魔導師は何がしたいんだ?光魔法が使えるみたいだが、攻撃も回復もあんな中途半端にしてどうする?魔力の無駄使いだ」

「あのレンジャーも焦って弓の狙いが定まってないわね。多分だけど、格上や不利な状況での戦闘に慣れてないんじゃない」

「その2人をカバーしながら、あの魔族はなかなか良い動きをしているな。だが、鬼族固有の魔法だという呪詛魔法や他の魔法が一切見られないな。……もしや、使えないのか?」


 呪詛魔法とは、鬼族特有の魔法で風巻の固有スキル『呪毒』に近い効果を持つ魔法だ。


 だが、呪詛魔法とはそれだけ集中力や繊細な魔力操作が必要になる。

 今行っている身体強化を見ても、魔力操作が雑な事が分かる。身体強化は、常に身体に循環させる魔力を一定に保つ事で、最大限の効果を得られるのは戦士なら知っていて同然の常識だ。それなのに、どう見ても魔力に偏りがあり不安定だ。


「いや、そうじゃなくて……助けるんですか?」


 メデルの言葉で、3人の視線が俺に集まる。


「俺は問題ない」

「敵が蟲な時点で問題ありだけど、やれるわ……多分」


 3人は、それぞれやる気のようだ。

 俺は一度深く深呼吸をし、周辺の状況を再度魔力感知を用いて確かめる。


 戦闘中の敵の数、乱入してくる可能性のある魔物の数、それらの魔物の動きをある程度把握する。


 俺は、覚悟を決め3人の視線に応える。


「行くぞ!」


 俺の声と同時に3人は冒険者の元に駆け出す。


「……あいつら人命優先なのは良いが、もっと良く考えろよ」


 溜め息をつきながら俺は、魔力を練り上げながら駆け出す。



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