第5話 冒険者登録




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アイアン=登録初期。駆け出し。

カッパー=新人。

シルバー=訓練された兵士級。冒険者の中では、一般的(普通)の実力者。

ゴールド=精鋭兵士級。冒険者の中でも、中堅の実力者。

白金プラチナ=一国の精鋭兵士級。国内の冒険者の中での割合は、20%程度。

ミスリル=冒険者の中でも、かなりの実力を持った精鋭。

オリハルコン=アダマンタイト級には及ばないが、英雄の領域に近い超精鋭冒険者。

アダマンタイト=偉業を成し遂げた英雄的存在。


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 俺達は、紙に書かれた内容を興味深く観察する。


「冒険者の等級の中でも、ゴールド級が冒険者達の区切りとなるランクです」

「区切り?」

「受注又は、ギルド側から斡旋される依頼の危険度が増す事になります。勿論、依頼を受けるかを決めるのは、殆どの場合、冒険者自身ですけど」

「その言い方では、依頼を受けざるを得ない時がある様だが?」


 ヴィルヘルムの指摘に、受付嬢は「はい」と即答した。


「それが、ゴールド級以上と未満の冒険者達の大きな違いです。そして、高難易度の依頼に失敗した場合には、違約金が発生する可能性があります。それに、場合によってはギルド側からの罰則も加わる事になります」

「つまり、階級が上がる程に、依頼の危険度、ギルド側との繋がり、責任の重さが増える訳ですね?」

「その通りです」


 受付嬢の話を聞いて、自分の思っていた以上に白金プラチナ級は、冒険者達の中でも特別な位置にいる事が分かった。



「それで、俺たちはその……仮冒険者登録制度を受けられるのか?」


 ヴィルヘルムの問いに、受付嬢が口を開く。


「もう1つ条件があります」

「まだあるの?」

「ギルドが仮登録制度を受けている冒険者に行うのは、身分の証明のみです。責任は全て、自分達が負うことになります。ギルドは、仮登録中の冒険者が、どのような問題を起こしても仲裁に入ることも責任を負うこともありません」


 受付嬢は、はっきりと俺達の目を見て話す。


「それでよろしいのでしたら、こちらにサインをお願いします」


 受付嬢が新たな紙を取り出して、俺の前に置く。


「しかし、雪さん以外の皆さんには改めて実力を見せて頂く必要があります」

「いや、その必要はねぇよ」


 突然会話に入って来たのは、先程から床に座っていた大男だ。


「白髪の嬢ちゃんは別として、そっちの2人はやべぇ。確実に俺よりも強い」


 男の言葉に受付嬢が目を見開き、ギルド内の数名が息を呑む。


「2人のことは、俺が推薦する」

「有り難いが……良いのか?」


 ヴィルヘルムが受付嬢に視線を向ける。

 先ほどの話を聞いた限りでは、仮冒険者登録制度の対象となるには、白金プラチナ級の実力が必要だ。となると、最低でもゴールド級の冒険者が実力を保証する必要がある。


「カシムさんが宜しいので有れば、条件は満たしています」

「へー、あんたって凄い人なの?」

「俺は、カシム・グランブール。しがない金級冒険者さ。これは、さっきの謝罪みてぇなもんだ」


 カシムと名乗った男は、金級冒険者だった様だ。

 だが、偽装しているとはいえ金級冒険者の実力はあの程度なのか。

 いや、俺と同じように実力も偽装しているのかもしれないし、子供だと思って手を抜いた可能性もある。


「ふむ。だが、一応、礼は言っておこう」

「辞めてくれよ。実力を見誤った俺が、余計に恥ずかしいじゃねぇか」

「皆さん、カシムさんの事を悪く思わないで下さいね?」


 微笑を浮かべながら、受付嬢がヴァーデン王国の冒険者について教えてくれた。


 ヴァーデン王国の冒険者ギルドには、多種多様な人々が冒険者登録にやって来る。流れて来た旅人、居場所を奪われた移民、貧しい子供、国立魔法学園の学生、退職した国の元兵士など、様々な過去を抱えている人達だ。そして、ヴァーデン王国周辺は魔物が出没する危険地帯が広がっており、同時に冒険者が行う依頼も他国と比べて危険となる。

 その為、ゴールド級冒険者以上となると、新人冒険者の育成も強制ではないが、役割の1つとなっているらしい。そして、時には蛮勇を勇敢と勘違いした新人の頭を冷やして、現実を教えてやる役目も暗黙の内に定着していた。


ゴールド級以上の方になると、ワザと喧嘩を売って実力を試したり、諭したりしてくれるんです」

「凄い!冒険者って、やっぱりカッコいい!」


 メデルの目の輝きが増している気がする。受付嬢もそんなメデルが可愛いのか、「ふふふ、そうよ。冒険者さん達は凄いの」と微笑みつつ、メデルの質問に答えていた。


「あ、私はやっぱり無理ですか?」


 すると、急にメデルが悲しそうな顔で受付嬢を見つめる。

 これがもし、狙ってやってるとしたら、相当な策士だ。


「え?いや、でも、え〜」


 涙目で必死に頼み込むメデルに、受付嬢も対応に困っている。

 正直、メデルには白金プラチナ級冒険者どころか、シルバー級冒険者並の戦闘力すらあるのかも怪しい。

 だが、俺の経験上、戦いに強い=実力者ではない筈だ。


「実は、メデルは、稀少な光属性魔法の使い手なんです。それに、才能だってある」


 メデルは、俺の言葉を聞くと、頬を赤らめながら複数の光属性魔法を使用して見せた。それに合わせ、本日何度目になるのかは分からないが、ギルド内に驚きの声が響く。


「それに、固有スキルも複数所持しています。将来性を考えても、ギルドからすれば囲っておきたい人材ではないですか?」

「ぅ……少々お待ちください」


 今度こそ受付嬢は扉から奥の方に歩いて行った。そして、数分後受付嬢は、疲れた様子で戻って来た。


「ギルドマスターから許可がおりました。これより、皆さんの仮冒険者登録を行います」


 俺達は、目の前に置かれた紙に名前を記入する。


「皆さんは、パーティ登録でよろしいですか?」

「それぞれソロで…」

「却下。パーティーでお願い」

「私もパーティーで登録したいです!」

「パーティー登録で頼む」


 俺の言葉を掻き消す様に、3人がサインした紙を受付嬢に渡す。

 受付嬢は、「パーティー登録ですね。畏まりました」と笑顔で返答する。


「……」


 3人に、押し切られてしまった。そして、俺達の名前が刻まれた灰色のプレートを渡された。


「こちらが、皆さんの仮冒険者登録を行った証明です。身分証としても使えますし、入国の際に提示すれば入国料が免除されます。では、早速依頼を受けられますか?」

「いえ、旅の疲れもありますので、明日また来ます」


 そう言って、俺は椅子から立ち上がる。それに続いて、3人も立ち上がり冒険者ギルドを後にした。

 

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