第14話 未だ足りない


 

  敵を観察する。

 ゴブリンやオークの亜種、熊・鹿・蛇などの動物型の魔物、植物系や爬虫類系の魔物もいる様だ。

 全員が殺気と敵意で瞳をギラギラさせている。


「自分の身くらい守れよ」


 俺は背後に立つメデルに振り向かずに言った。

 背後で了解した、と言う気配が伝わって来た事で俺は戦闘を開始する。

 まずは、魔法だ。

 場所が森の中という事で、火属性の魔法を避けて魔法を発動する。


「第三階梯魔法〝風球ウィンド・ボール〟」


 詠唱を完了させると、空中に風が球体状に渦巻く〝風球〟が10個現れ、魔物たちを襲う。


 その瞬間、魔物達が動く。

 数体は今ので倒したが、いくら魔力を余分に消費して攻撃力を上げても、第三階梯の魔法じゃたかがしれている。


 次は剣術と体術。


 身体に魔力を循環させ〝身体強化〟を施し、片手剣にも魔力を纏わせる。そして、魔力を纏わせた剣を眼前に迫っていたまるでサーベルタイガーの様な牙をした狼型の魔物であるサーベルウルフに一閃。


「グギィア!?」


 上下に両断されたサーベルウルフは鮮血やピンク色の内臓を撒き散らし地面に落ちる。


 一体を倒しても休む暇なんてない。

 視界の端に映った敵影に逸早く反応し、攻撃を躱す。

 攻撃して来たのは、ダチョウの様な魔物であるダッシュビークだ。

 伸びている長い首を斬り落とす。


「流石に多いな」


 自分でやっておきながら、少しやり過ぎた感を禁じ得ない。


 それなら、一気に蹴散らす。


「爆裂魔法〝爆裂球エクスプロード・ボール〟」


 先程の風球よりも多くの爆裂球が出現し…。


「パチンッ!」


 ーー爆ぜる。


「きゃゃぁぁあああ!?」


 遠くで悲鳴が聞こえた、様な気がする。

 爆発の余波は、防御系水属性魔法の〝水壁〟で防ぐ。


 爆裂魔法は、魔力を込めた分だけ威力が増す。

 勿論、魔力操作など他の要素も威力を上げるうえで必要だが、爆裂魔法に最も必要なのは爆発に必要な魔力だ。


 海堂の様な魔力操作もろくに出来ない、下手くそじゃ論外である。


 爆発で舞い上がった砂煙を風魔法で散らしていると、視覚から土の塊が飛んでくる。


「!」


 魔法の魔力を感知し交わしたが、タイミングが遅く頬を掠め血が流れる前に『医神の波動アスクレーピオス』の効果で傷が癒える。

 攻撃して来た方向に視線を向ければ、小学生くらいの身長の土人形が立っていた。


 アースドールか。


 ドール系の魔物は人間の様に魔法を使うのが特徴である。


「第四階梯魔法〝土柱アース・ピラー〟」


 アースドールの右腕を地面から突き出した先が鋭利になった土柱が貫く。


「ふっ!」


 俺はアースドールが抜け出す前に近付き、ドール系の魔物の弱点である核を剣で貫き、引き抜く。


 〝身体強化〟は、魔力を体内に循環させ続けなければいけない為、扱いが難しい。それに、過度な負担がかかる事で、強化に筋肉や腱が耐えられず切れたり、骨が折れて自滅する可能性もある。


 だが、俺は、切れても折れても『医神の波動アスクレーピオス』で直ぐに治る。それを繰り返す事は、体への負担でしかないがやるしかない。


 俺は空いている左手に、もう一本の片手剣をアイテムボックスから取り出す。そして、魔力を纏わせ、敵に向かって走る。


「うおぉぉおお!!」


 敵を斬り、魔法を放つ、それを繰り返す。


 躱す、斬る、放つ、鮮血と内臓が舞い、地面を赤く染め上げる。


(ダメだ……もっと速く、もっと強烈に!!)


 俺は、風魔法を発動し更に速度を上げる。

 眼前に迫る複数の魔物。

 双剣に風を纏わせる。


「第四階梯魔法〝風の刃ウィンド・エッジ〟!」


 双剣から放たれる風の刃が魔物たちを斬り刻む。


 苦しい、息が上がる、足も重く感じる。


 それでも俺は止まらない。

 目の前に敵がいる。

 だったら、その全てを殺すだけだ。


「てめぇら全員を殺して、俺の糧にしてやるよ!」



 嗤う元勇者の蹂躙は止まらず、魔物たちは次々と数を減らす。



 ◆



「はぁ、はぁ、はぁっ」


 地面に広がる鮮血の上に、俺は座っていた。

 身体に残るのは気持ちの悪い疲労感と息苦しさ。そこへ近付く足音に視線を向ける。

 メデルの纏っていたローブも所々汚れており、先程よりも少しだけ窶れた様に見えなくもない。


「主、お怪我は?」


 メデルが心配そうに、俺を見つめる。


「………もう治った」

「……では、どうでしたか?」

「最悪だ。弱過ぎる」


 戦闘動作、反射神経、勘、どれもこれもかつての様に働かない。魔法の威力も魔力を余分に消費して、何とか及第点と言った所だ。しかも、今回戦った魔物の中で1番強かったのはおそらくアースドールだろう。つまり、C+以下程度の魔物達に此処まで苦戦したという事だ。

 これじゃ、魔王クラスから逃げ切るのも簡単じゃないな。


 もし出会ったら腕や足の1本くらいは覚悟しておいた………いや、再生するんだった。

 本当に、極限エクストリームスキルはチートだな。


 しかし、この感情を感じるのは久しぶりだ。

 3年前には何度も感じていた筈だが、地球に戻ってからは感じる事が無くなっていた。


「…………強く、もっと強くならないとな」


 木々の間から差し込む陽光が、俺の血に染まった体を照らす。

 俺は空中に手を伸ばし掴む。


 これは俺の癖だ。

 何かを決意する時に、こうやって手を握り締める。


『ねぇ、トウヤ様。こうやって手を握り締めると不思議と勇気が湧いてきませんか?』


 嘗ての元仲間に教えて貰った一種の自己暗示みたいな物だ。


「強くなってやるよ」


 脳裏に焼き付いた嘗ての元仲間達に、俺はそう誓った。

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