【KAC20219】この世界を作った奴相手にこの件は降りさせて貰うって交渉しに行くからお前も付き合えよ。開発が一人でソロ交渉するよりも、お前みたいな奴でも営業が居たほうが安心するだろ?

@dekai3

第1話でかしたぞ、高橋!!

[今度のアナタは上手くいくかと思ったのですが、またも失敗ですね]


 イトさんはそう言いながら【超越者】としての力を解放した高橋をあっさりと塵に還し、次は俺の番だと言わんばかりに生身を取り戻した俺の体へと向き直る。


「た、高橋…嘘だよな……お前が消えるなんて……それに、イトさん……」


 俺は取り戻したばかりの肉体を満足に動かせず、高橋が消滅するのをただ見ている事しか出来なかった。


カッ カッ カッ カッ


[今回は中々面白い変化がありましたが、完成度は100澗を超えた辺りから逆に下がり続けていますね。もう少し初期値に変化を持たせた方がよいしいでしょうか]


 イトさんは硬質の床に足音を響かせながら俺の眼前まで近付き、高橋を塵にした時と同じように腕を俺の頭に置く。


[お疲れ様でした。次のアナタが上手くいく事を願っています]


 そして、俺に向けてではなく自分に向けてねぎらいの言葉をかけ、イトさんは俺の体を足の先から塵へと変化させていった。











◆ ◆ ◆










「おーい、起きろー五十島ー」


 なんだか…声が聞こえる…


「五十島―、あんまり時間ねーんだぞー」


 俺は確か…すごくSF的な設定の世界で高橋のせいで凄く大変な思いをしていて…


「早く起きろってー」


 それで、この世界は神の実験場だとか、俺は新たなる生命の試作品だとか言われてて…それで、俺を助けてくれた高橋がイトさんによって塵に……


「起きねーと胸揉んじまうぞー。って、揉むほど無いか―?」

「は??? これでも寄せればBカップあるわい!!!」

「おー、起きた起きた。で、腕離してちょ」

「うるせぇ! お前いつもいつも他の女の子に対してデリカシー無い発言ばかりしやがって! こう見えて俺も性別上は女だし一応はお前の上司なんだからもっと敬……え、高橋!!??? 生きてたのか????」


 高橋のいつもの予告セクハラとセクハラ発言に反応して ガバッ 起き上がり、スーツの胸倉を掴んで啖呵を切っている最中に、先程イトさんによって塵にされたはずの高橋がこうして生きて目の前に居る事に疑問を持つ。

 あの時、俺とイトさんはロボトピア中枢の俺の部屋に辿り着いて【世界を変える物ワールドブレイカー】のデータをサルベージしてそのまま中枢の保管室に行って全部で21個ある【世界を変える物ワールドブレイカー】の内の18個の内部データを抹消する事で破壊したんだけど、どうも残りの3個はロボトピア自体に組み込まれているんじゃないかって事でロボトピアの管理室まで行ったんだよな。そうしたら管理室周辺に量産型パニッシャーがめちゃくちゃ居て中に入れそうにないから仕方なく俺が操縦していたカエルロボットを遠隔で管理室に飛び込ませてそのまま体内に積んでいた重力波と魔道壁を組み合わせて局所的にしか効果を発揮しない小型核爆弾(そもそも世界をやり直すんだからセーフ)を起爆させて管理室を爆破して残りの【世界を変える物ワールドブレイカー】を破壊したつもりだったんだけど、実はそれは囮だったみたいで俺とイトさんはイトさんのブログの読者だったという【読紡ぐもの】リーダーと呼ばれるインターネット上で自然発生したAIにハメられた事に気付かされて窮地に陥って、AIがペラペラとどうしてこんな世界にしたかとかイトさんのブログがいかに素晴らしいかを語っている最中にパニッシャーが高橋を捕らえて連れてきて俺達はもう終わりだって雰囲気を出し始めた所でパニッシャーに取り憑いた山本さんが【読紡ぐもの】《リーダー》の端末と量産型パニッシャーを一掃してくれて俺の作戦がばっちりハマったのを確認していたら今度はロボトピアの守りが手薄になった事でレジスタンス達が雪崩の様にロボトピアに入ってきて、もう戦わなくてもいいって事を言おうとするもレジスタンス達は俺を狙っている訳だし、人類の裏切り者の高橋とロボトピア最高傑作の処刑人のパニッシャー(in山本さん)を従えている様に見える俺の言う事なんか聞くはずもなくて、とりあえず戦うにしてもレジスタンスの数が多すぎて負けなくても勝てないって事で一旦逃げ出すかって話をした瞬間に大地震が起きて地下が崩壊してみんなと離れ離れになって、そこで俺の部屋によく似たけど明らかに俺が住んでいた部屋とは違う場所に辿り着いて、そこで培養ポッドに浮かんでいる俺の肉体と俺の文字で走り書きされた『真実を知れ』という文字を見付けて、そこでこの世界は管理者によって作られた人工の世界で俺はそのやり直しの対象であって世界を改変する能力を持ったサンプルである事とその能力を完成させて管理者が自在に使える様にする為にこの世界が何回も繰り返されているってのを何兆回も前の俺が突き止めた事を知って、俺は本当に誰かにああしろこうしろと命令されて何をしているだけの存在で自分がやりたい事なんて何にもしてこなかったんだなって事に気付いて茫然としたままだけど、それでも俺は俺に託された思いを継ぐんだとコアユニット内にある半分機械化した脳を培養ポッド内の肉体に差し替えて部屋を脱出した所でレジスタンスのリーダーに見つかり、もう少しで殺されると言う所で本当に三大宗教全部の開祖だった高橋が助けに来てくれたはいい物のレジスタンスのリーダーもこの人類が追い詰められた状態で目覚めたもう一人の【超越者】という事が判明してお互いに空は飛ぶわ肉体はちぎれた側から再生するわの凄い絵面で戦い始めて、どうやら現世の人間の信仰を集めているレジスタンスのリーダーの方が優勢だなってなった所で俺が「負けるな高橋! 勝ったらなんでも好きな事をさせてやる!!」って言ったら高橋がより一層輝き出して羽が生えたりとかしてレジスタンスリーダーを宇宙まで吹っ飛ばして勝利して、そこで俺がこの世界は偽りで俺が全ての原因だけど、この世界を作った奴相手にこの件は降りさせて貰うって交渉しに行くからお前も付き合えよ。開発が一人でソロ交渉するよりも、お前みたいな奴でも営業が居たほうが安心するだろ?って言った所でイトさんが急に現れて「また失敗」という事を言いつつ高橋を塵にして、そのまま俺も塵にして世界がリセットされた筈…


「言っただろ? 【俺は魂が肉体という器を凌駕した超越者】だって」


 俺の疑問に対して、いつもの合コンの時の様に、握った右手の親指で自分を指さしながら無駄にカッコを付けて決めセリフを吐く高橋。

 いや確かにそうだったけど、それはこの作られた世界の中だけの設定で、この世界を作った者からしたらなんとでもなる物なわけで…


「もう、高橋さんったら。ちゃんと説明してあげないとダメですよ」

「い、イトさん!!???」


 裸のまま高橋を掴んで居ると、後ろから懐かしい声が聞こえた。

 いや、声自体はさっきまで聞いていた物と同じだが、この喋り方は500年前に聞いたきりだ。


「はい、私ですよ。山本の方のイトです」


 後ろを振り返ると、そこにはビッグサイズのバスタオルを携えたイトさんが居た。そう、500年前の山本さんが取り憑いていておとしやかな演技をしている方のイトさんだ。


「とりあえずこれを羽織って下さい。ほら、裸んぼのままですよ…」

「え、は? うわ!! おい、高橋見るな!! 目を瞑ってろ!!!」

「はいはい、見ませんよっと」


 今まで気付いていなかったが、そういえば肉体を取り戻した時からずっと裸のままだった。このイトさんは中身が幽霊でおっさんの山本さんかもしれないけど、とりあえずイトさんのなりきりプレイをしているのなら女性とカウントして高橋だけに見るなと伝えてバスタオルを受け取り体に巻く。

 そして落ち着いて周りを見渡すと、どうもここは500年前の会社のオフィスの様だ。それも置いてある物も全て500年前のまま。カレンダーの日付もそのままだし、確か高橋が営業先で貰って来たというバームクーヘン一本丸々の包みが入り口横に立てかけられている。


「どういう事だ…確か俺はあっちのイトさんによってリセットされたはず…」

「ああ、それ。俺がお前に頼んでたもののお陰。リセットされてもここは残るようにしたの」




「は???」


 思わず、声が出た。


「ええ、この世界のループに気付いた高橋君が五十島さんに頼んで色々と作って貰っていたの。この世界をこれで最後にする為にね」

「もしかして…【世界を変える物ワールドブレイカー】……」

「そうそう、それ。向こうだけが使えるのは不公平っしょ?」


 高橋はそう言い、もういいだろと目を開けて俺を見つめてそう言う。

 確かに俺に求められた能力は世界を改変する力で、この世界はその能力の実験場だ。だからって管理者に気付かれずに【世界を変える物ワールドブレイカー】を使うなんて。お前、一体どう誤魔化したんだよ。でも、お前のお陰で助かったんだよな。でかしたぞ、高橋!!

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