3日目:変化する世界

 目を覚ます。見慣れた天井、変わらぬ風景、カーテンの隙間から挿す陽光、響き渡るアラーム。そこまで認識した私は確信する。また、全く同じ日を過ごすことになるのだと。必ず親友が死ぬそんな世界がまた始まったのだと。


 私は部屋を出ていつも通り顔を洗ってリビングへ行く。いつも通りママが朝食を作ってくれている。もう3度目になるスムージーを飲み干して歯を磨く。着替えと準備を済ませていつもと同じ時間に家を出る。


「いってきます」


「いってらっしゃい」


 いつものような足取りの軽さは感じられない。でも、昨日ほど重くもない。なぜなら私は自分がやるべきことを見つけたからだ。正直上手くいくかどうかはわからない。それでも今できる最善の行動を取ると自分の心に誓った。


 もはや慣れたタイミングで親友の後ろ姿を見つける。足早に追いついて声をかける。


「おはよう、恭香。珍しいね、こんな早くに」


「ん?あぁおはようナタリー。最近、高性能な目覚まし時計拾っちまったみたいなんだよ」


「子猫と遊ぶのもいいけどもうすぐテストだよ?勉強大丈夫?」


「うげっ……そうだった……朝から嫌なこと思い出させないでくれ」


 何気ない会話をしながら教室に入る。教室に入るとすぐに心音が話しかけてくる。


「おはよう恭香、ナタリー」


「おはよう心音」


「おはよー」


「珍しいね恭香こんな早くに」


「あぁ、あの猫が毎朝私のことを叩き起こすんだよ」


「それはいい拾い物したね。それはそうと、今日からテスト2週間前だけど勉強大丈夫?」


「どうしたんだよお前ら朝から私の勉強の心配ばっかりしてさ」


「私も心音も恭香の事が心配なんだよ」


「はぁ〜勉強するかぁ」


「いいね、じゃあ今日の放課後にでもやろう!」


「どこでやる?やっぱサイゼか?」


 そこまで会話が進んだ時、私は口を開こうとした。けどそれよりも先に隣にいた心音が話す。


「家の方が近いから私んちでやらない?」


 その内容に私は少し驚く。前まではサイゼに同意していた心音が、ここにきて唐突に自宅で勉強することを提案してきた事が不思議だった。でも、私としても恭香か心音の家を提案する気だったから好都合なので何も言わない。


「ん?あーまぁ、そうだな。家は大丈夫なのか?」


「うん大丈夫だよ。ナタリーもいいよね?」


「うん、全然いいよ」


 そこまで会話したところで始業の鐘が鳴る。自分の席に座って支度をしてまた、あの1日が始まる。何も変わらない時間が過ぎる。


 昼休みになるとまたしても誰からも認識されなくなった。こればっかりは2度目で分かっていても慣れない。だけど私のやるべき事は出来た。後は襲い来る恭香の死をこの身を挺してでも防ぐだけ。


 時間が経って放課後になる。恭香と心音は2人で一緒に帰る様子。私はその少し後ろをついていく。心音には申し訳ないけど恭香を守るためには仕方がないので彼女の家に私も上がらせてもらう。


 しばらく歩くと心音の家に着く。2人が入るのと一緒に私も入る。心音の部屋は綺麗にまとめられていて几帳面な彼女らしい部屋だった。


 2人でテストの範囲を勉強しながら途中途中わからないところあれば心音に聞くという風に勉強している。その時私はふと、心音の勉強机の上にある真っ白な表紙のノートが目に入る。何故か、強烈に読まなければいけない気がした。


 中を開けてみると字が綺麗な彼女らしくない乱雑に書き殴られた文字が書かれているようだ。いるようだ、というのは何故か私はその文字が読めない。なんで書いてあるかわからないのに不思議と内容だけは入ってくる。奇妙な感覚に襲われながらもその内容も理解していく。そこにはこんな感じのことが書かれていた。


『ここは……のよう。あなたと私と彼女……それは……最初の日が鍵。そのための……」


 所々字が霞んでいて読めなくなっていて理解できたのはこの程度だった。この最初の日というのは私の感覚で2日前のことなのかな?ノートの中身は誰が書いたんだろう。この掠れた部分には何が書かれているんだろう。そんなことを考えると2人は勉強をやめて帰り支度をしていた。しばらくして恭香が心音の家を出る。どうやら心音も送っていくみたい。


「疲れた……」


「恭香頭良いんだから普段から真面目に授業受けなよ」


「それができればなぁ……」


 カンカンカンカン!


 踏切の遮断機が降り、2人はその前に止まる。私も彼女たちの少し後ろで立ち止まる。何か、嫌な予感がする。その予感が実態を持った時後ろから足音がする。2人もそれに気づいたようで同じタイミングで振り返る。


「あれ?ナタリー。どうしたんだよ」


 2人は私に対して、ではなく私の後ろからやってきた不気味な笑みを張り付けたもう1人の私に向かって話しかける。まずい、そう思った時には遅かった。もう1人の私は私の横をすり抜け、恭香を突き飛ばす。突然の事に恭香は遮断機超えて線路に出てしまう。私は必死に走って手を伸ばした。その手が後一歩のところで電車が来て恭香は肉塊へと成り果てる。


「あぁ……あぁ……!あぁ!」


 襲い来る絶望。思考が定まらない頭も回らない。3度目でも心は簡単に壊れる。視界が閉ざされる前、泣きながら私に何かを叫ぶ心音が最後に見えた。


「ナタリー!まだ!ダ……ここで落ち……!!」


 そんな光景を最後に私の意識は閉ざされる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る