公子、経験をもとに推理する
「……私も殺されると思いました。ですが、目が合うと、王太子は私の名前を呼ばれて、……闇に
目を赤くして説明してくれたイルマのおかげで、何が起きたかを、大まかに把握することができた。
「私は、昔、王太子の家庭教師をしておりました。途中で外されましたが。当時は、王女とうまくやれていると思っていたから、悔しくて。でも、王女はあんな状態になっても、私のことを覚えていてくれたんです」
イルマの頬を涙がつたっていた。善良そうな彼女には、酷な経験だったろうな。
「<聖なる開花>」
レベル80で覚えた<スキル>を使った。
《 聖なる開花…使用者の周辺に花を咲かせる 花の付近の人間は、生きる活力を取り戻し、絶望から守られる 3日程度の持続効果あり 》
俺を中心に半径5メートルくらいが、花で埋め尽くされた。ピンクと紫の芝桜の絨毯。それに、スズラン、スミレ……、春の花が咲き誇る。
「辛い話をさせて悪かった。休んでくれ」
イルマは花の中に膝をつき、静かに涙を流し続けた。
悪魔たちは、前世で魔人化した俺の代わりを、王女にやらせようとしたらしい。だが、彼女は悪魔の思い通りには動かなかった。
王女はこの地にあった闇の魔力を使い切り、悪魔の誘惑になびきそうな魔力持ちを全て消し去ってしまった。
「これだけの闇魔力を操ったのなら、王女は魔人化していたのよね。でも、悪魔が望んでいたのと、現状は違うんじゃないかしら」
ナディアが首をかしげた。
現状は酷い有り様だが、悪魔の狙い通りに進んだようにも見えなかった。
「悪魔たちが長年かけて準備していた王国内の闇の集積地は、俺たちによって<浄化>された。だから、悪魔たちは、強引な手で戦力を増やそうとしたんじゃないかな。それで、本来は闇になびきにくい王太子を、無理やり引き込んだ。結果、彼女は奴らが意図していたように動いてくれなかったのかもな」
悪魔は王女を制御できなかった。彼女には、悪魔に対する何らかの抵抗手段があったようだ。
悪魔への対抗手段。その筆頭は、聖属性か。
「レオ、俺が教会を浄化していた頃、王女は現場によく来ていたよな」
「ああ」
あの時期は、よく王女と顔を合わせていた。
「王女は聖属性に目覚めていた可能性がある。彼女は何度も聖属性の浄化の光を見ていた」
リヴィアン島のリヴァイアサンを思い出す。あの海龍は、聖属性と闇属性を、共に身にまとっていた。龍ともなれば、2つの属性は両立できる。
「王女は人間とも、魔人とも違う存在になろうとしているのかもしれない」
そう言うと、皆、目を丸くしていた。
「セリム、あなた、さっきから、思考が速すぎるというか、斬新すぎるというか……」
ナディアまで驚いていた。
……何でだろう? 妙にいろいろ分かった気になる。根拠もないのに大した自信? いや。意外と俺は、判断に使える材料を持っていたのか。俺には、悪魔にとりこまれていた前世の経験があったんだ。
現状の見取り図が必要だ。推測を続けよう。
「王女は覚醒直後から暴れ通しだった。影の中で休眠に入ったはずだ。自分の主導権を悪魔に奪われないように抗いながら。この争いは王女の分が悪い。時間が立つほど、悪魔の操り人形として王女が出てくる危険が高まる」
でも、今すぐラファエラ王女が王都に襲撃をかけてくるなんてことは起こらないはずだ。
「カティア、感知魔法の範囲を広げて、闇魔力を見つけられるか?」
「……いえ。この辺の闇魔力は、きれいに吹き飛ばされています」
「不幸中の幸いだ。蓄積された闇の力は、王女が使い切った。サルミエント領にいた他の魔人たちも、影に潜んで必死に力を温存しているはずだ。悪魔はケチだから、自分たちの魔力を魔人に貸し出すことはまずない。チャンスをうかがって待機中ってところだろうな」
酷い事態になってしまったが、悪魔側も燃料切れだ。
不安で消耗している暇があったら、今のうちに動いた方がいい。
俺の説明で、すくに敵が動く可能性が低いことが分かると、皆、少し落ち着いたようだった。
「そうね。その想定で動きましょう。いろいろ悩むには、目の前に問題が山積みすぎるわ。今のこの街は、中枢が破壊されて、行政も警察も機能しなくなっているのだから」
ナディアもすぐに気持ちを切り替えてきた。
「うん。俺は都市を見回りしてみる。さっき使った<聖なる開花>っていう花を咲かせる能力に、人の精神を落ち着かせる効果があるんだ。これを街のいたるところに置いておけば、変なことを考える奴も減ると思う。」
「私の方は、ここで気絶している人たちを起こしてみる。もともとこの都市にいた人たちも、ここに混ざっているみたいだから、都市の行政関係者を探すわ」
「わかった」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます