公子、新着メッセージを確認する

 ナディアに中央を任せて、俺は側近たちと街を巡回した。途中でトラブルを見つけては、その場に配下を数名残して解決させた。


 街中を<聖なる開花>の花まみれにしているうちに、空にオレンジの光が混ざりだした。

 幻想の花々は、煉瓦れんがにも屋根瓦にもお構いなしに咲く。その薄い花弁が、陽の光を透かしていた。

 激動を終えた直後の街の家々で、夕食を煮炊きする匂いが漂いだす。ひとまず、みんな落ち着いていた。


 一通り花の設置を終えて、俺はナディアがいる街の中央に戻ろうと歩き出した。

 そこで、突然、目の前に<システム>画面が出現した。



《 王国内の闇の蓄積地の消滅を確認しました ロック解除の条件を満たしました 》


 は? ロック解除?? いきなり何だ?


《 新着メッセージがあります 》

《 メッセージ:未読2件 》

《  クエストが変化しました New! 》

《   メインクエスト「危機に備えよ」が「聖王国へ」に変化しました 》

《  聖王国へ 難易度★★★★★ New! 》

《   聖王国には、このシステムの製作者がいます。探して面会しましょう 》


 急だな。そして、ロック解除が何のことかの説明は無しか。

 まあいいや、分かるところから見よう。


 まず、<王国内の闇の蓄積地の消滅>。

 3学期に王国中を回って、カティアが闇魔力を感知したところは全部<浄化>していた。あれで、サルミエント領以外は残さず<浄化>できていたらしい。

 そして、ラファエラ王女がサルミエント領の闇魔力を使い切って吹き飛ばし、王国内の蓄積地が消滅したことになったようだ。

 それで、ロックとやらが解除されて、今まで出せなかった情報を出してきた。


 <システム>の製作者が、聖王国にいる。

 教会の総本山、聖王国。そこに、問題を解決する何かがある。




 夜になった。

 ナディアが話をしたサルミエント領の者に、大きな商家を紹介してもらって宿泊した。


 部屋に、ナディアとレオ、ヴァレリー、カティアを集めた。


「聖王国に行きたい」


 単刀直入に意志を伝える。


「理由を教えて?」

「聖王国に、悪魔の問題を解決するヒントがあるらしい。俺の力の、貸し主が言っている」

「そう。それじゃあ、行かなくちゃね」


 あっさりとナディアは納得した。しかし、ヴァレリーは眉を寄せている。


「公子の能力は、今や国宝級です。それを国外に出すというのは……」


 もともと、俺は希少な治癒能力者だと知られていた。さらに、サルミエント家が壊滅し、王女が行方不明になった現状が知られれば、悪魔に対抗できる聖属性持ちは、王都の防衛に張り付かされるかもしれない。


「実家や王家に報告したら、出られなくなりそうだな」


 ヴァレリーが頷く。

 それなら……


「聖王国に行くには、今、このどさくさにまぎれて密かに出国するしかないか」

「…………」


 俺が発言した瞬間、ヴァレリーが、何かものすごく大きなものを飲み込んだような気がした。

 何だ?

 何を見落とした……?


「あ! 却下だ!! 今のは無しっ」


 俺が勝手に国を出て行方不明になったら、誰かが責任をとらされる。その筆頭は、ヴァレリーだ。


「いえ。公子が必要と考えられることをしてください。連れてきた他の者たちが心配なら、責任は全部自分が被ります」


 それはダメだ! 全部の責任を被ったら、処刑されるぞ。


「すまん。不用意な発言をした。忘れてくれ」


 まいったな。

 どうやって聖王国まで行こう。

 正規のルートはとりにくい。2重に障害がある。まず、王国から許可がとれない。そして、聖王国に入れたとしても、俺の立場で行けば、聖王国側の人間に行動を制限されてしまう。


「少し時間はかかるけど、領地に戻って、内々に、お義父とう様に許可をとるのがいいんじゃないかしら?」

「そうだな」


 ふつうの貴族だったら許さないだろう。でも、うちの父だったら、ワンチャンスある。

 独特な父親だからなぁ。それでいってみるか。

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