公子、レベル70になる

 気分が悪い。地面がガタゴトと揺れている。


「公子……、セリム公子……」


 薄っすらと目を開けた。

 真っ暗だ。


「……うぅ」


 頭が痛い。魔力切れの時、十分回復せずに目が覚めるとこうなる。

 しかし、生きている。


 床の振動が激しい。荷馬車で運ばれているようだ。

 この扱い、味方に救出されたのではないな。敵に誘拐ゆうかいされたか。

 荷馬車の中は、血の匂いが充満していて、真っ暗だった。荷台全体が、布か何かでおおわれているらしい。


 内ポケットに入れた懐中時計には、付与魔法でライトがつく細工をしていた。取り出したいが、両手を後ろで縛られていた。その縄は、身体強化を最大にしても切れなかった。


「もしかして……」


 縄に<浄化>を使う。すると、拘束が弱まり、縄から抜け出せた。

 懐中時計のライトで、周囲を照らす。

 近くで、カティアとヴァレリーが縛られていた。


「<神眼>……」


 2人を縛る縄も、闇魔法で強化されていた。再び<浄化>して、縄を切った。


《 浄化…悪魔の力の温床となる闇の穢れを消し去る 》


 さっき2人を治療したときに、レベル70になっていた。

 覚えたてのスキルに、すぐに活躍の場ができるとは。


 馬車全体を覆う幕にも、闇属性の気配がある。<浄化>で消してもいいが、このままにしておけば、外からも俺たちの様子をうかがえないだろう。


《 セリム・ベルクマン 男 15歳 》

《 求道者Lv: 70 次のレベルまでの経験値:1550/7100 》

《 MP: 711 / 8462 治癒スキル熟練: 5903 聖属性スキル熟練: 581 》


 MPが少ない。<森林浴>で補う。

 周囲から、どんどん生命エネルギーを受け取れる。深い森の中を移動しているんだと思う。


 ヴァレリーとカティアの状態を見た。ヴァレリーは無事だ。しかし、カティアは傷だらけだった。致命傷ではないが、今も、血を流し続けている。普通の人間なら、出血だけで死んでしまう。


「治療はしないで下さいよ」


 カティアににらまれた。


「敵の狙いは、公子の誘拐だったようです。どうして我々まで、生きたまま連れて来られたか、分かりますか?」


 鬼気迫る表情で問われた。


「先ほど、公子が迷わず我々を治療されたから、弱みになると思われたんです。公子を脅すのに、我々が利用できると」


 彼女はこぶしを握りしめ、血を流しながら震えていた。


「我々は足手まといです。何かあれば我々は死にます。いいな、ヴァレリー」


 カティアがヴァレリーを見ると、彼も頷いた。

 2人の覚悟を前に、何も言えなくなった。


 黙って、俺は<森林浴>を使うのに集中した。MPを回復しないことには、何もできない。


 村には、レオとギルベルトがいた。

 2人が俺の救出に動いているはずだ。

 すぐにこちらに追い付けていないのは、魔人が複数体いたからだろう。だが、今のレオが数体の魔人に負けるとは思えない。いずれ助けは来る。

 俺は、レベル70に合わせて届いた<メッセージ>を確認した。


《 メッセージ:未読4件 》

《  クエストを達成しました New! 》

《   おめでとうございます。Lv70になりました。レベル上げ(上級)を達成しました。報酬として、浄化スキルを獲得しました 》


《  浄化スキルを獲得しました New! 》

《   悪魔の力の温床となる闇の穢れを消し去ります 》


《 メインクエストが更新されました New! 》

《  闇の発生源を探せ 難易度★★★★☆ 》

《   どこかで、悪魔に力を与える穢れが生じています。探し出して浄化しましょう 》


《  聖守護結界スキルを獲得しました New! 》

《   聖守護結界スキルは、味方にかけると、あらゆる闇属性の攻撃を無効化します 》


 <浄化>に加えて、<聖守護結界>も覚えた。悪魔からカティアとヴァレリーを守れる。

 加えて、<聖鎖結界>もある。

 残りMPに不安はあるが、<聖鎖結界>は<治癒スキル>と違って、燃費が良い。魔人数体だけなら、何とかできる。

 むしろ、敵が人間だった場合の方が厄介だった。上位貴族クラスの人間の魔術師と戦うには、今の俺はMPが少ないし、カティアは血を流し過ぎている。


 などと考え込んでいたら、馬車が止まった。


「縄を掛け直します。縛られているフリをしてください」


 カティアが切ったロープを結びなおした。


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