公子、島に行く2
会場に入ると、先に来ていたマルクが俺に近付いてきた。
マルク・サルミエント侯爵令息。1周目では仲の良い友人だったが、巻き戻った今世では、俺が教会に所属しない治癒術士となったため、敵対していた。
「おや、セリム公子。どうでしたか? 海での狩りは」
彼は、嫌っている俺にニヤニヤ話しかけてまで、言いたいことがあるらしい。
「やれるだけのことはやったよ。マルク卿はどうだった?」
「ふふ。こちらは大成功でしたよ。何せ、今回の対抗戦、我々サルミエント家は王女と合同で参加しましたから」
サルミエント侯爵家派閥と王女のところが合同チームを作ったのか。
1学期に、俺のベルクマン公爵家派とナディアのルヴィエ侯爵家派で合同チームを作って王女を負かしたから、王家も有力貴族と組んで、強いチームを作ったんだな。
「王女は流石でしたよ。この度、同じチームで間近に拝見しましたが、圧倒的な力で魔物を狩っておられました」
マルクは上機嫌だ。
前世で親しかったから知っている。マルクはサルミエント侯爵家の3男で、ラファエラ王女の婚約者になることが目的で、王都の学園に入学していた。だから、王女と同じチームになれたことは、相当嬉しいのだろうな。
「それは良かった。マルク卿のチームが上手くいくように、応援していますよ」
笑顔で返すと、嫌味と受け取られたのか、マルクは憮然として離れて行った。
しばらくして会場に生徒が集まると、対抗戦の結果が発表された。
王女チームの結果がアナウンスされる。
マルクも活躍していたようだ。ほとんどの生徒が50匹未満の討伐数の中、マルクの討伐数は300を超えていた。
そして、王女はもっと凄かった。
会場がどよめく。
王女の討伐数は600匹以上だった。
ここまでは、王女チームの圧勝だ。
続けて、俺とナディアの合同チームの結果が発表された。
「セリム・ベルクマン様、討伐数、0匹」
王女の時とは逆の意味で会場が騒然となった。
「ゼロって、何で? 計測の魔道具が壊れていたのか?」
「公子は我々に勝てないと分かって、手を抜かれたのでしょうかねぇ」
遠くでマルクが嫌味を言って笑っていた。
俺はもちろん、わざと討伐しなかったのである。
生き物を殺すことを嫌う<求道者>システムのルールでは、魔物といえど殺せばレベルを下げられてしまう。
魔物を500匹も殺してしまったら、夏休み中に頑張ったレベル上げが全部パーになってしまう。せっかく、レベル60まで上げたのに。
当初、俺は今回の対抗戦にエントリーしないつもりだった。しかし、ナディアが船の操縦と防御に特化して手伝うように頼んできたので、それで参加した。
「ナディア・ルヴィエ様、討伐数、521匹。パメラ・サティ様、討伐数、462匹……」
俺たちチームメンバーの討伐数が発表されるにつれて、マルクの顔色が悪くなっていった。
トータルでは、うちのチームの勝ちになる。
俺が付与魔法で船を改造して、高速移動しながら魔物の群れに突っ込ませ続けたからな。大技をぶつけるだけで、どんどん討伐数を稼げた。
「レオ・ベルクマン様、討伐数、1198匹」
会場に、本日最大のどよめきが起こった。今まで個人トップだった王女の倍近いスコアである。
「レオ・ベルクマン? ベルクマン姓!? 誰だよ!??」
「セリム様の身内? そんな方いらしたかしら……」
会場の貴族たちが混乱している。
夏休みに、レオは俺の父であるベルクマン公爵と魔物退治の遠征に出かけて、大いに気に入られてしまった。公爵は、王都の孤児であったレオを養子にする手続きを、すぐに完了させた。一応、お家騒動を警戒する家臣たちによって、レオの立場は、公爵家の継承権を持たない条件付きの養子ということになった。しかし、今後のレオは、貴族社会で公爵の息子として扱われる最上位貴族になったのである。
レオ・ベルクマンの登場で、特に、王女の周りの貴族が大慌てしているなぁ。
レオを養子にして公爵家に引き込む手続きには、王家の誰も関心を向けていなかった。おかげで、スムーズに済ませることが出来た。王家の奴らにしたら、大失態だろう。今後、レオの実力が明らかになるにつれて、責任をとらされる奴も出てくるかもな。
《 セリム・ベルクマン 男 15歳 》
《 求道者Lv: 60 次のレベルまでの経験値:4220/6100 》
《 MP: 5901 / 8391 治癒スキル熟練: 5216 聖属性スキル熟練: 0 》
《 スキル 》
《 治癒 》
《 簡易治療…小さな切り傷やすり傷を治す 》
《 体力支援…闘病中の相手に体力の支援をする 》
《 免疫操作…免疫で抵抗可能な病気を治す 》
《 並行操作…免疫操作を7名まで同時にかける 》
《 再生治療…あらゆる身体の損傷を治す 》
《 聖属性 》
《 神眼…聖属性と闇属性を知覚する 》
《 聖鎖結界…闇に近い敵を捕縛し、継続ダメージを与える 》
《 森林浴…植物から余剰の生命エネルギーを受け取り、空腹を満たす 》
《 海水浴…海から余剰の生命エネルギーを受け取り、空腹を満たす 》
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