公子、島に行く1

 船の周囲は、魔物だらけだった。

 海は危険だ。

 フグみたいな丸い魔物が、海から風船のように大量に浮かび上がり、一斉に毒ガスをまき散らす。

 俺はひたすら結界を維持して、その魔物の群れに船を突撃させた。


「爆撃魔法!」

「炎旋風!!」


 火花、爆発、暴風。船の周りで破壊的な魔力が渦巻く。

 かと思えば、海を駆けながら華麗な剣技を披露する者もいた。


「雑魚狩りって、楽し―――い!! うぉっ、ちょっと、魔法向けないでくださいよ!」

「風魔法で魚を吹き飛ばすのも、面白いですわよ!」


 配下のギルベルトが跳ね回る。すぐそばにナディアの生み出した竜巻がせまった。

 風で巻き上がったギルベルトは、結界で守ってやったから、まあ、大丈夫だろう。


 島から連絡用の信号弾が上がった。狩りの時間は終わりだ。30分以内に港に着かないと、減点される。


「距離があるから、急いで戻るぞ」


 俺は、船を改造した大量の付与魔法文字に魔力を通して、戦場から一気に離脱した。



 王都第1魔法学園1年生の最大の行事、王国南東の島にある都市国家、リヴィアンへの研修旅行。学園の2学期は、始まってすぐに、この海洋都市国家へと向かう。

 リヴィアンは、うちの王国と、南にあるマルカ帝国とを結ぶ航路上にあり、中継交易で賑わっている。

 陸よりも危険な魔物が集まると言われる海で、本来なら立ち行くはずもない小さな島は、海龍リヴァイアサンと契約し、繁栄を極めていた。

 魔物だらけの海で、交易用の航路を守るのは大仕事だ。しかし、利益は大きい。王国からリヴィアンまでは、王国が軍船を出していた。マルカ帝国も同じように、魔物の駆除に当たっている。だが、海路が安全なのは、リヴァイアサンの力によるところが大きかった。海龍の魔力と知識が、島を特別なものにしていた。

 人類の歴史が始まる前から生きていたと言われる龍の持つ知識により、リヴィアンは交易都市であると同時に学術都市でもあった。


 リヴィアン島周辺の魔物は弱いが、数だけは多い。研修旅行の時期は、食料にもならない毒フグ型の魔物の大量発生期間と重なっていた。学園の対抗戦にエントリーした生徒たちで、その駆除を手伝う。シンプルに、何匹倒したかを競うチーム対抗戦だ。

 港に到着すると、1人ずつ腕に巻いていたカウンターを学園の魔道具の上に置いていった。これで各人の討伐数がすぐに分かる。発表は、リヴィアンの高級ホテルの宴会場で行われることになっていた。


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