公子、友達の家に行く
学園を1週間休んで、パメラと一緒にサティ伯爵領へ向かった。
俺に同行するのは、勇者のレオ、護衛のカティア、ヴァレリーの3人だ。
お忍びで伯爵領に魔物退治に行くと言ったら、ヴァレリーに大反対された。
しかし、たまたま王都に来ていた父に頼むと、すぐに認めてもらえた。
「あのルヴィエ家の女が勝てなかった魔物か。面白そうじゃないか」
ウォーモンガーの父は、自分が討伐に行きたかったみたいで、羨ましそうにしていた。
サティ伯爵領は、ルヴィエ侯爵領の東、王都を北上したところにある。丸2日馬車に揺られると到着だ。
「パメラ、帰ってきたのか」
「お
領主館のエントランスで、パメラの兄が迎えてくれた。
しかし、兄が妹を見る目は冷たい。兄妹の仲はあまり良くないようだ。
パメラと、フレデリクという彼女の兄は、母親が違うそうだ。
現サティ伯爵は、伯爵家を継ぐのにギリギリの能力だった。他に候補がいないから、その地位に就いたのだ。
彼は同格の伯爵家から、最初の妻をもらった。そして、妻と、引退した両親をはじめとする一族に支えられて、何とか領地を維持していた。
しかし、魔物の大発生が起こり、伯爵は妻と両親を失ってしまう。
伯爵に1人で領地を維持する能力はなかった。
そこで、領地を隣接するルヴィエ家が助け舟を出した。
ナディアの祖父にあたる当時のルヴィエ侯爵は、婚約者を亡くして家にいた娘を、伯爵に後妻として与えた。
侯爵家が娘を伯爵の後妻にするなど、破格もいいところだ。隣接する領地に影響力を持ちたいという、ルヴィエ侯爵の野心があったのは明らかだ。
その後、ルヴィエ侯爵家はナディアの母親に代替わりし、サティ家への野心は薄くなった。しかし、サティ家の後継者がパメラであることは揺るがない。先妻の息子であるフレデリクとパメラの仲が微妙なのは、仕方のないことかもしれない。
「ところで、パメラ、後ろに連れているのは誰だ?」
フレデリクは訝し気に俺たちを指して言った。
「学園の友だちよ。王都の平民で、優秀な魔力があって、推薦入学した子たち。まだ正式な所属がないから、協力してもらうことにしたの」
学園に制服があってよかった。とりあえず制服を着ていたら、身分が分かりにくくなる。護衛のカティアは学生ではないが、エルフの血で若く見えるので、彼女にも制服を着てもらっている。
「お前って、けっこうやり手だったんだな。学校で顔だけの取り巻き作って、王都で何やってたんだよ」
馬鹿にしたように言うフレデリクに、ヴァレリーがキレかけたので、後ろから制服の裾をつまんで抑えておいた。
カティアは美人だし、レオもカッコいい方だからなぁ。
「うちの公子が顔だけだと!? セリム様は外見が良すぎるせいで、他の能力を低く見積もられがちだが、すごい方なんだからな……」
ヴァレリーが小声で何か言ってる。
まあ、美形の才能は顔だけしか認めない人って、ときどきいるから。
館に着いてすぐに、サティ伯爵に面会した。
伯爵は50歳前後と聞いていたが、それより老けて見えた。
「パメラ、よく帰ってきた」
「お父様、お母様は……」
「寝室にいる。後で見に行ってやりなさい。だが、明日には討伐に出てもらう」
「分かっております。民に被害を出すわけにはいきません」
王都から移動してきたところだが、明日はまた遠征か。忙しいが、仕方ない。魔物は待ってくれないから。
話が終わり、伯爵の執務室から退出すると、パメラは急いで母親の寝室に向かった。
伯爵婦人は、ベッドの上で静かに眠っていた。
「外傷は、ないのね」
婦人に目だった傷はなく、ただ眠っていた。
「頭を打ったのです。奥方様は魔力が高いので、目に見える傷は、もう回復されました。ですが、いつまでも目を覚まされないのです」
伯爵婦人付きの侍女が説明してくれた。
頭か。高位魔力持ちに、たまに起こる状態だ。魔力が高いから、生命維持はできても、脳の損傷が治せない。
俺は婦人に近寄って、<スキル>が使えないか試してみた。
《 MPが不足しています MPを回復してからスキルを使ってください 》
ここに来るまで、経験値稼ぎに、移動で疲れた者に<体力支援>を使っていた。だが、そんなに消耗していない。MPは8割以上残っていた。俺の全魔力に近い量が必要らしい。
参ったな。明日は魔物退治に出るのに。
治療が遅くなるが、婦人は魔力が高いので、数日で亡くなることはないだろう。<体力支援>だけ掛けておいた。
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