公子、勇者を見つける
入学から3週間が経った。
困ったことになった。勇者が未だに、全く注目されていない。ただの平民生徒扱いされている。
何がまずいのかというと、この学園は、共通授業だけだとショボいのだ。
魔法の高等技術は、俺がよく使うベルクマン結界のように、各家で代々開発されてきたものだ。大人数に気軽に教えられるものではない。
深いことを学ぶには、コネが要る。
学園は、この国の貴族社会を前提とした構造なのだった。
王都の民だった勇者は、本来なら、王女の派閥に入る。しかし、ただの平民と侮ってか、王家は彼を放置していた。勇者の才能を知らしめて、相応しい育成環境に置かなければ。
「生意気な。痛い目をみないと分からないのか!?」
考え事をしながら、学園の廊下を歩いていたら、怒鳴り声が聞こえてきた。中庭の方が、何やら騒がしい。
複数の生徒たちが、1人の生徒を取り囲んでいた。いじめか?
助けようと、急いで中庭に向かった。
集団リンチだった。殴る、蹴る……。あれ? 全部避けられてる。
多数派の生徒たちは、ムキになって魔法まで使いだした。しかし、全て打ち消され、逆に、風魔法の竜巻を食らって、全員吹き飛ばされた。
あぁ! あの囲まれてるの、勇者じゃないか!!
俺は慌てて、勇者に駆け寄った。
「う…ぐ…」「何だ? 誰か来たのか?」「あれは、ベルクマン公子!」「公子、違うんです、これは…」
倒れた生徒たちが何か言っているが、無視だ。勇者はクールキャラってやつだからな。モタモタしていたら、この場を去られてしまう。
「お前、1人でこれだけ倒したのか? すごいな」
俺が勇者に笑顔で話しかけると、隣のギルベルトが驚いていた。俺の1周目の勇者研究によると、勇者には、笑顔で明るく接するのが正解なのだ。
「手合わせしてみたい。俺に勝ったら、欲しいものをやるぞ?」
勇者の手を取って連れて行こうとするが、
「興味がない。断る」
つかんだ手を払われた。それに、隣のギルベルトがキレた。
「てめぇ、何、失礼なことやってんだ! この人を誰だと思ってる? ベルクマン公爵家の長子、セリム様だぞ!!」
勇者に向かって怒鳴りつける。そういう、権力を笠に着た言い方をしても、勇者に嫌われるだけで、効果はないぞ。
そう思ったのだが、
「セリム・ベルクマン?」
なぜか、勇者は俺の名前を聞いて、こちらを振り返った。
「3週間くらい前に、食中毒の若い奴らを治療しなかったか?」
「……何で知ってるんだ?」
食いしん坊食中毒患者なら治療したが、お忍びで、名前は明かしていないぞ?
「治療してもらった奴らが、調べてすぐ分かったって。アンタの顔、人気小説の登場人物に似ているって、噂になってる」
まさか、ここでも入学式の時の小説の話が出てくるとは。
「アンタには、俺の幼馴染の命を救ってもらった恩がある。手合わせするなら受けよう」
勇者と話すきっかけをつかんだ。
情けは人の為ならず。<求道者>の活動が、珍しく役に立ったな。
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