6. エピローグ

「良い天気だね」

 入子が言う。

「そうだな」

「かずらさんのアパートはあの辺かな」

「スーパーの看板よりは手前だ」

「私んちは、多分あっち」

 二人は柚ヶ丘自然公園のベンチに座っていた。眼下には柚ヶ丘駅を中 心にニュータウンが広がっている。解放されたばかりの公園は、親子連 れやカップル、老人等、老若男女で賑わっていた。砂利を敷かれた地面はあの頃よ り広く感じられる。新たに作られた遊具の上で、子供達が大声をあげて はしゃぎ回っていた。

「大学はどう?」

「相変わらずだよ。成績の良い馬鹿と成績の悪い馬鹿ばっかだ」

「かずらさんはどっち?」

「後者」

「私は中間テストで学年二位になったよ」

「凄いな。確かに勉強はしてたけど」 「でもそんなに嬉しくないな」

「そうなのか?」

「親が喜んでくれるのは良いんだけどね」

 入子は勢いよく立ち上がった。

「ここも変わったね。こんなにきれいになるとは思わなかったよ」

「そうだな」

「でも私は昔の方が好き。今は人工的すぎて味気無い。人も多いし」

「そうか」

 かずらも立ち上がる。

「無責任だよね、前はここにこっそりゴミ捨ててたくせに、きれいにな ったらこぞって遊びに来るなんてさ」

「それもそうだな」

「どっか行こうか」

「どこに?」

「電子レンジ落ちてそうな所」

「必要無いよ」

「もう増やさないの?」

「ああ。あれでいいんだ」

「あの二十個は捨てないの?」

「ああ。あれでいいんだ」

「ふうん」

 入子はかずらの手を取って歩き始めた。

「じゃああの河原に行こうか。もう工事終わってるよね」

「多分な」

 二人はゆっくりと山を下った。今はもう山道ではなく、立派な階段と スロープが出来ていた。擦れ違う人々は何故か皆笑顔だった。何がそん なに嬉しいのかかずらには分からなかったが、それでいいと思った。

 空はいつも通り青ざめていた。だがそれは少なくとももう太陽への恐 怖故ではないだろう。

「あっ」

 バス停に向かう途中で、入子が大声を出した。

「何だ?」

「かずらさん、あれ」

 彼女が指さす方を見ると、小さなゴミ捨て場に白い電子レンジが放置 されていた。入子が駆け寄る。かずらはのんびりと後を追った。

「どうする? ねえ、かずらさんどうする?」

 興奮気味の入子を尻目に、かずらは足下のレンジを見詰めた。

「どうすんの? 二十一個目にする?」

「いや」

 かずらは薄く笑った。

「あれはあれでいいんだ。増えても減っても良くない」

「そっか」

 入子も笑った。

 それから二人はバス停に到着する。そこにニットを着た老婆は居なか ったが、それに関しては何も言わなかった。

 次のバスが来るまで、あと十二分。


                      【完】

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マカロニと不要品 八壁ゆかり @8wallsleft

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