そろそろ本気出すw 上司に会社(高級レストラン)をクビ(追放)にされたが、女性常連客や可愛い料理人が独立した俺の店に流れてきたwコック長よ、今更、俺の力が必要だとか言われてももう手遅れです。

雲川はるさめ

第1話




調理師学校を卒業し、父親の経営する洋食料理屋で3年ほど働いていた俺は、他の店でも修行をしようと、老若男女に愛されていると名高い高級レストランに勤めることになった。


俺の名前は山吹シンジ。現在24歳。


見習い料理人として入った俺だが、

現在俺は。


ひとりの上司に大変こき使われている。


コック長の藤島さんが俺のことなにかにつけて目の敵にしていた。



「とっとと皿洗いやれよ!ったくもう、

どんクセェな!」


「とっとと食洗機にかけろよ!」


「ああ、もう、使えねぇなぁ!

お前は、ホールの仕事やれ、

顔だけはそこそこいいんだから!!」


ある日。

料理人として入ったのだが、接客へと回された。


多分、



調理場にいる女性料理人で俺より若くて

そんでもって可愛い女の子がひとりいるのだが、その子がやたらと俺に

「味付け、これでいいでしょうか?」

などとパスタソースの味見をせがんでくるもんだから、コック長は妬んでいる節があったんだ。


「マヒロちゃん、なんで、シンジに

聞くかな?シンジはさ、味音痴なの!

わかる?塩加減があんまりよくわからない

みたいなの」


俺が味音痴、だと?

あんまり言ったらかわいそうなので

心の中だけで思っておく。

それは、コック長のほうだと思う。

俺は腕のいい料理人だ!

と常日頃、てか、朝礼で必ずといっていいほど豪語してるコック長の作った野菜スープをこっそり味見してみたことがあるが、なんだか

ぼやけた味だった。


たまたまかと思ったが、

何度か違う料理も味見をしたことが

あるが、塩、や辛味、また甘味が足りないな

と感じることが多々あった。



老若男女問わず、人気とされているお店だが、

藤島さんが店の一番上になってからは

客足が落ちた、と二十一歳のマヒロちゃんが

ある日の仕込み中に、

こっそり教えてくれたことがあった。

藤島さんは社長室で事務仕事があり、

調理場にはいなかった。


トマトの湯むきを手早くやりつつ、

マヒロちゃんが、いうことには。


「私、一年前にこのお店に就職したんですけど、その時はコック長は別のひとだったんです。でも、その人が体調悪くしちゃって、

お店辞めちゃって。凄い優しいひとだし、腕も確かだったんですけどね...」


「二ヶ月前に藤島さんが一番上になったんですけど、ワンマンで気に入らないひとはとことん嫌がらせみたいなことするから、

バイトや見習いの出入りも早いし、お客さん差別もするから、売り上げも下がり気味なんです」


「そうなんだ...」


「山吹さん、なるべく頑張って続けてくださいね!私、できるだけ、フォローします!!」


さて調理場を追い出された俺は

いま、ホールに立っている。

お客さんの入りはそこそこの日曜日のディナー。

マヒロちゃんの話によれば、

本当は満席になる筈が、やっぱり

客足は足踏みしてるってほんとうみたい。


「いらっしゃいませ!」


「こちらメニュー表になります」




まぁ、ホールでオーダーをとるのも、修行のうちだと思って、俺は頑張ってやっていた。


ワインの知識も増えるし、

スマートな料理運びもマスターしていて

損はないと思う。


父親のお店にはなかった、高級なワインも

この店には豊富に在庫があるわけで。


また、メニューも色々あって、

その説明も上手くできるようになっとけば、

今後必ずや、役に立つと思ってた。


ホールの仕事にも慣れてきた頃、俺は女性客からの指名も入るようになってきていた。

最初こそ、ワインを上手くグラスに注げなかったり、

パスタの取り分けもうまくできずに苦労したが、二ヶ月もやれば、習うより慣れろじゃないけど、卒なくこなせるようになってた。


詰まるところ。




「テーブル担当、山吹くんがいいな」


「イケメンだし、心配りもできるし!」


みたいに言われ、俺は

接客も悪くないな、と思いながらホールの仕事に勤しんでいた。


しかし。


そんなある日の事だ。


俺はコック長にクビを言い渡された。


「お前さ、辞めてくれないか?」


「え、なんでですか?」


「売り上げが少ないのに、どうして従業員の頭数が揃っているんだ?って話さ」


「人件費がかかるから無能なお前は削る」


「素直に受け入れてくれないか」



俺に対して。


突然出た辞令だった。


突然のクビに驚きを隠せなかった。

帰宅後。

父親に話すと、呑気な父さんは、

「無能だと言われたんだな?」

「うん。言われたよ」

「俺の息子を、無能だと、その

有能な料理長は言ったんだな?」

「うん。言ったよ」

「面白ぇ」

「いや、父さん、俺はめちゃくちゃ気分悪いし、面白くもなんともないよ」

「お前さ。魚料理に特化したレストランやれよ。資金の援助は少しなら父ちゃんしてやるぞ」

「え」

「俺の友人の不動産屋がさ、居抜きでいい物件

紹介してくれたんだよ。俺はこの場所が気に入ってるから移転するつもりは毛頭ないけどよ、

お前さ、レストランやれよ。友達の不動産屋だから仲介料も安くて済むし、居抜きだから

初期費用はふつーより断然かからない」


「どうだ?自分の店を持つ気はないか?」


それから俺は父さんにバーンと背中を叩かれた。


「やってみろ...!父さん、できる限り協力するからなぁ」


自分の店か...


それ、何だか楽しそうだな。


「場所はどこなのさ?

家から近いの?」


「おう!結構近いな。

なんと、高級レストランの右隣なんだ」


「は!?高級レストランの右隣ぃ!?」


「うんうん!空き物件だけど、おまえのいままでの勤務先のすぐそば!

目と鼻の先に位置してるw」


「正々堂々と勝負だ!」


「近過ぎる...」


「もと職場のみんなと顔合わせたくない...」


「気にするな、そんなこと!」


父親はノリノリ。俺はついさっきまでノリノリだったけど、真横と聞いて気が重くなった。

だが。独立して自分のお店を持てるなんて、しかも、破格で持てるなんて、願ってもないこと。


俺は背中を押されて、意を決してやることにした。


自分の店のオープンまで、

父親の店で料理修行と、

隙間時間に季節の魚のパイ包みとかを作っては

お客さんにサービスで出して感想を聞いた。


最初は、


「うーん、ちょっと味が濃過ぎるかな」


などと酷評されてたムニエルとかも

試行錯誤してるうちに上手に作れるようになって、


「美味しい!買って帰りたい!」と

言われ、俺は舞い上がった。



歳月が流れて。

オープン初日。

父親がビラ配りをしてくれたおかげもあってか

店は満席になった。父親の店でバイトをしてくれてる大学生の女の子ひとりが手伝いにきてくれた。非常に狭い店だが、少ないスタッフでやるには

このくらいの広さがちょうどよかった。

結局俺は、

料理人もやり、接客もやった。

俺のこと、覚えてくれてるひともいて、

なんだか嬉しかった。


「え、貴方もしかして、高級レストランに

いた?」


「はい!」


「覚えててくれるなんて光栄です!

こちら、本日のパスタです」


「きゃー、美味しそう!」


圧倒的に女性客が多かった。

想定していた客層は20代から50代の女性客。



「やだ、この鰆、すごく

美味しい!!」



「気に入っていただけて嬉しいです」


「明日も来るわ!!とっても美味しかったから」


「サービスも満点よ!」



お褒めの言葉を頂戴し、一日目はかなりつかれたが、そんな疲れも吹き飛ぶくらいに

お客さんからのことばはとにかく嬉しかった。

お店が軌道に乗ってきた頃。

嫌がらせがあった。

ある日、高級レストランのコック長が

来店して、大騒ぎしだした。

バイトの女の子では太刀打ちできなくて、

俺が藤島さんの前に代わりに立った。


「何だよ、不味いなこのスープ!!

化学調味料で誤魔化したような味だな!おい!!」


俺の店だと知って、

周りのお客さんに聞こえるような声を出した。


「お金は結構です。

今すぐ出ていっていただけますか?」


「ふん..!無能なお前がよくもまぁ、こんな

店を出せたな...!客が入っているが今だけだからな!どーせ、一回来てもう二度と来ない!!」


「お前の店はさ、そんな店だ!!」



「もう一度言います。お金は結構ですので、

退店していただきたく思いま...」


と言いかけたときだった。


お金持ちそうな年老いた美人マダムが席を立ち、

つかつかと藤島さんの前に躍り出た。


マダムはうちの店の常連のお客様だった。


「あらー、一度だけ来て、二度と来ないお店?

それはあなたのお店じゃなくて?

店名は伏せますけどもね、あなたのお店、

この前、初めてうかがいましたが、味に上品さはなくぼやけた味でしたわ。それから、可愛い女の子バイト使ってるみたいだけど、甘やかされて教育がなってないせいか、接客はイマイチでしたよ」


「な...!」


「お前に何が解るって言うんだ...!?」


「申し遅れましたが、私、こういうものです」


マダムは流れるような滑らかな動作で高そうなショルダーバックから名刺入れを取り出し、名刺を藤島さんに一枚渡していた。


「り、料理研究家の...あの有名辛口コメンテイターでありインフルエンサー...」


「私ね、こちらのお店のファンになってしまったの。一週間くらい前だったかしら、初めて

お伺いして、ランチメニューをいただいたんだけど、凄く美味しくて。それから毎日通っているの。SNSでも紹介してしまったし、ブログでも絶賛のコメント文を思わず書いてしまったわ」


藤島さんはガタン、と腰を抜かし、それから

慌てて。


逃げるように店から出て行ったのでした。


俺のお店が。

広告費を使わず、

全く宣伝していないのにもかかわらず、

連日、盛況しているのには、

今、知ったんだが、このマダムの影響力が

あったみたいで。


高級レストランのお客さんは真横の俺の店に流れ。


更に、開店から三ヶ月後の金曜日。


マヒロちゃんは、閉店間際に俺の店に来て。

入り口のところで、俺にこう懇願した。



「人手足りないって噂を聞いたの!

私を雇ってくださいっ!」


と言われ、マヒロちゃんを雇うことになった。


今は。


仕事に追われて恋愛どころじゃないけど。

もうちょっと落ち着いたら、マヒロちゃんを

デートに誘おうと思ってる今日この頃です。


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