「うわっ」


「ども」


「なんでここに」


「別れたからって、関係が切れたわけじゃないから」


「は?」


「復縁を迫りに来た。正確には、復縁をできる余地があるかどうか、確かめに」


「そんなことすんの?」


「するよ。好きだから」


「私の中にいる私は、それでも」


「いいよそのままで。面倒だから」


「面倒?」


「どちらかというと、あなたがきらっている、その内奥にある別のあなた自身のほうが、わたしは付き合いやすい」


「なぜ」


「裏表がないから」


「裏表」


「表面のあなたは、肚の底が分からない。突然別れようとか言い出すし。分からないの。笑ってても、泣いてたり。泣きながら笑ってたり。不安定」


「普通でしょ」


「普通じゃないよ。あなた自身の閉じ込めた、泣きたいときに泣いて、笑いたいときに笑うあなたが、普通なの。あなたは、普通を押し込めて、隠してる」


「それを言いに?」


「違うけど」


「じゃあ今更」


「今更、何?」


 指を差される。頬。初めて、泣いていることに気付いた。


「それよ。普通にしているのに、泣いてる。表面のあなたは、ちぐはぐで不安定。はやく別なあなたと代わって」


 でも。


「復縁の確率が高いほうを狙うわ。あなたにとってのわたしは分からないけれど、わたしにとって、あなたは。ゴールだから。終着点だから」


 ゴール。

 終着点。


「あなたの隣が、わたしの、居場所なの。それだけがすべて」

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