風神町
石村 遥
第1話
ねぇ?君は風神様って知ってる?
…えっ、知らない?
じゃあ教えてあげる。この話は数年前にこの町であったほんとのことなんだって。
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「なぁ、あいつどこ行ったんだよ。もう一週間もいなくなってるのになんでみんな知らないんだよ。」
そう苛立ちながら彰良は石を蹴った。
「分かってたらこんなことにはなってないよ!行くよ!」
澪が彰良のランドセルを叩く。
小学校最後の夏休み直前、蝉の声が大きくなるにつれて海に行こう、カブトムシを捕まえようと周りが話しだしている。僕たち4人もそんな話をしていた。
ある日、机が一つ無くなっていた。欠席者はいない。だけど圭がいなかった。周りに聞いてもそんな人は知らないと言い、覚えていたのは僕と彰良と澪だった。
「なんで俺たち以外はみんな圭のことを知らないんだよ!あいつらも先生も!警察だって聞く耳をもってもらえないし!あー、くそっ!」
「あーきーら!そんなこと言ったってなんにもならないんだから!ほら行くよ!」
そう言って澪が彰良のランドセルのひもを掴み引っ張った。
この日々をずっと繰り返してる。そしてまた今日も何も手がかりを得ることができないままそのまま帰路についた。
次の日、1時間目の算数の宿題を提出していると彰良が勢いよく教室に入ってきた。
「おい、優希!手がかりがあったぞ!これで圭を見つけられる!」
肩を思い切り揺らしながらそう言った。
「圭を見つけることができる!?ほんとに!?」
「こら!彰良、遅刻してんじゃないよ!その話は授業が終わった後聞くから!」
そう言って澪が襟をつかんで彰良を連れて行った。
圭を見つけることができる?どうやって?
僕は授業に集中できなくなっていた。
「なぁ、風神様って知ってるか?」
放課後、教室に3人集まって彰良が話し始めた。
風神様。
この町に住んでいるなら一度は聞いたことはある。この町の守り神として様々な伝説が存在し、毎年風神祭りを行っている
「当り前じゃない、その風神様がどうしたのよ」
「まぁ、落ち着けって澪。…あのな、風神様には古くからこの町を守ってきたって伝説ともう一つあるらしいんだ。それはな、風神様は神様じゃなくて怪物って話なんだ。」
「あぁ、その話は僕も図書館で見たことあるよ。」
「私も見たことあるわ、風神様を祀るのはこの町をまた壊されないようにって。」
「あ?頭ゴリラのお前が図書館なんて行くのかよ」
「うるっさいわね!」
彰良は思い切り叩かれた。言わなきゃいいのに…。
「いってぇ、くそ…。」
「まったく…。で、それがどうしたのよ」
「あぁ、俺はこの話をじいちゃんから聞いてピンときたことがあるんだ。それはな…。」
一呼吸置いて彰良は言った。
「圭は怪物に攫われたんじゃないか?」
帰り道、彰良は頭を抱えていた。
「くっそ頭いてぇ…。」
あの後…
「ばっかじゃないの!?」
思いっきり頭をはたかれてしまった。
「いってぇ!!なんでまた叩くんだよぉ!!」
涙目になってる…、二発目はさすがにきつそう…。
「あのねぇ!!いくらこの町でお祭りとかやってても本当に神様がいるわけないじゃん!!いい加減にして!!」
そういって澪はランドセルを背負い、教室を出ていった。
取り残された僕と彰良。仕方なく帰ることにした。
「なんであいつすぐ叩くんだよ…、しかもめちゃくちゃいてぇし…。」
これにはご愁傷様としか思えない。しかし
「なぁ、優希は信じてくれるよなぁ?」
「ぼ、僕は…」
彰良の問いにうんと返せなかった。この世界には神様なんていない。
「…まぁ、やっぱ信じてもらえないか。ごめんな。」
「あ、彰良…。」
そう言って彰良は走って帰った。その目には少し涙が浮かんでいた。
たしかに圭が消えたことは事実だ。そして僕たち3人以外が圭の記憶がないこともおかしい。本当に神様のせいなのか…?いや、怪物って言った方がいいのか…?
明日、目が覚めてすべてが夢であったらどんなに嬉しいだろう。
しかし、そんなこともなく事態はさらに悪化した。
「ねぇ、優希…、どうしよう。」
教室に入ってきた澪は今にも泣きだしそうだった。
「チョコが…、チョコがいないの。」
チョコは澪が飼ってるまだ小さいトイプードルの名前だ。家に遊びに行ったとき、何度も見たことがある。毎日散歩をして餌もちゃんと用意して世話をしているところはまるで実の妹のようだった。
チョコがいなくなったのは朝起きた時だそうだ。朝のご飯をあげようとしたときチョコがいないことに気づいた。チョコの小屋もおもちゃも何もかもなくなっていた。
「ママに聞いてもそんな犬は知らないって言うし…パパには夢だったんじゃないかって言われて…。ねぇ、優希はわかるよね?」
首を全力で縦に振る。
「まさか…、圭と同じことが起きたの…?私は…どうしたらいいの…?」
僕たち3人だけが残される記憶。消えてしまった圭もチョコも救えるのは僕たちしかいない。そして彰良の言ってた神様のせいは本当なのかもしれない。
彰良は学校を休んでいた。風邪だと言っていたが嘘だろう。
彰良も澪もどんどん元気じゃなくなっている。
このままじゃ…何も解決できない。
放課後、澪に言った。
「彰良のところに行こう、謝らなくちゃ」
チャイムを押すと彰良のお母さんが出てきた。昨日から何も食べてないらしい。
僕たちは彰良の部屋に行った。布団にくるまっている。
「彰良、昨日はごめん。僕たちは彰良のことを全然信じられなかった。」
「優希、別にいいよ。慰めなんて…」
「チョコが消えたの」
澪がそう言うと布団がビクッと動いた。
「チョコが…朝からいないの…。圭とおんなじで…。パパもママもそんな犬は知らないって言うの…。家族だったのに…。昨日も一緒にご飯も食べたのに…。」
泣きそうになりながら伝える澪。
「ねぇ、彰良。僕は神様なんていない、物語だけのものだと思ってた。けど違うんだ。圭も澪のチョコも神様…いや怪物から救えるのは僕たちなんだ。彰良、僕たちで一緒にもう一度探しに行こう。」
僕は震えていた。こんな非現実的なことに立ち向かうなんて無茶だ。怖い、怖い。今にも泣きそうだ。けど諦めたらチョコは…圭はどうなる?
「彰良!僕たちしかできないんだ!ちょうど明後日から夏休みだ!徹底的に探すことができるんだ!彰良、やろう!」
布団をはがした。彰良はずっと泣いていたんだろう、目が真っ赤になっていた。
「優希…ごめん、けどありがとう。俺はどうしようもなくなっていた。圭がいなくなってから俺は全然眠れなかった。けど俺は諦めたくない!なぁ、一緒に風神様を調べて…圭を…チョコを…探そう…」
そう言って彰良は泣きだした。
僕たちはこれから最後の夏休み、今までで最大の自由研究をする。
圭を、チョコを救うために、僕たち3人で。
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