何を伝えたいかって

伏見 明

何を伝えたいかって



 「いや、嘘じゃなくて便器の中に蚊が居たんだって。そのままトイレをした時にお尻とか刺されたら嫌だなと思って手で払った後に"パン"って手のひらで叩こうとしたんだよ。

それで蚊を仕留めたかどうかなんて尿意に掻き消されて知らないけど、咄嗟にトイレの中で手拍子する辺なやつが居るんじゃないかって思われてると思ってさ。

尿意も無くなるし最終的に俺は何を考えてたか分からなくなったって訳。」


町の小さな居酒屋で僕の古い友人の小倉が必死に熱弁している。

片手には箸、もう片手には4分目くらいまで入ったビールジョッキ。

その箸は右往左往しながら彼の話を盛り上げていた。


「ははは、確かに俺が仮にコンビニのエロ本売り場で立ち読みしてたら、驚いてその本を閉じるまでしてたよ。」


僕はと言うと、彼があまりに弁が立つのでついつい飲み過ぎてしまっている。

左手にはもう一口もないほぼ空のグラス、

右手の人差し指と親指で煙草を丁寧に意識しながら持っている。


僕の酒も彼の酒ももう残りわずかなので、店員をチラチラ見ているのだが、

僕らが会話に没入していると思ってか油断して店員同士で談笑している。

BGMとでも表現出来ようか、彼の話もまだ続いていた。



「それでさあ一昨日の夜、仕事終わりに近所の公園で酒飲んでたんだよ。

そしたらいい歳したオッサンがだぜ?

シルバーアクセとかジャラジャラつけやがってさ。

還暦した年代で流行ってんのかね、そういうの。」


「何それ。俺そんなの見たことねえよ。まじやばいね。

お前次なんか酒飲む?」


「あー、俺おかわり。サンキュー。」


「すみせーん。生とハイボールくださーい。」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

何を伝えたいかって 伏見 明 @fushimiaki

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ