第6話
王とサラの婚礼から暫く経った、ある日。西にある『荒地と太陽の国』が、砂と黄金の国に攻め込もうとしているという知らせが斥候から届きました。
これまでにも、蛮族どもが砂の国の豊かな土地や食べ物、素晴らしい宝物を狙って攻めてくることは度々ありましたので、王は慌てることなく、信頼できる将軍に命じて軍備を整え、国境に向かわせました。
ところが、戦いの様子を報告させていた斥候が、青い顔をして帰ってきました。彼は、将軍からの手紙を預かっていました。手紙によれば、なんでも、敵は和平交渉を求めてきたそうで、あちらには、砂と黄金の国の正当な後継者だと名乗る若者がいる。相手側の要求は、現国王を退位させ、正当な王位継承者を即位させることだと。
和平交渉を望んだ、荒地と太陽の国の軍団は、交渉の場に、砂と黄金の国の王によく似た、金髪の美丈夫を連れてきました。動揺する兵士たちを前に、敵方の司令官が言いました。
「こちらにおわす御方こそが、貴国の正当な王位継承者、アレクシス様です。アレクシス様は、貴国の先王と、庶民の女性との間に生まれたお子であらせられます」
つまり、今の国王の腹違いの弟だというのです。歳を聞けば、国王の二つ歳下であるようでした。アレクシスの母の形見だと言って、先王の紋章が刻まれた指輪も見せられましたので、砂と黄金の国の将軍も、アレクシスが先王の関係者であることは認めざるを得ませんでした。しかし、将軍は冷静に言いました。
「恐れながら。我が王は亡き先王とお妃様との間にお生まれになった、まごうことなき嫡子であらせられます。正当な国王は、我が君であることに疑いの余地はないと思いますが」
「……私も、神の御言葉がなければ、砂と黄金の国の王位継承者になろうなんて、夢にも思いませんでした」
アレクシスが口を開きましたので、将軍は目を見張りました。アレクシスの声色は王によく似ていましたが、純真そうで溌剌とした明るい響きがありました。
「幼い頃に母を亡くした私は、修道院で暮らしていました。修道士として神に仕え、一生を過ごすつもりでした。しかし、神が御言葉をくださったのです。砂と黄金の国の現国王を玉座から退かせ、王位につき、人々を救えと」
「……神の御言葉であるという証拠はあるのですか?」
「私だけが聞いた御言葉ですから、証明することは難しいです。しかし、私が神の御加護を受けていることは、証明できるかもしれません」
折しも、その日はどんよりとした灰色の雲が空を覆い尽くしていました。彼が、腰に掲げた剣を抜いて、天に向かって掲げると、見る見るうちに雲が晴れて太陽が顔を出し、彼を照らしたのです。
これを見た人々はどよめきました。砂と黄金の国の将軍も、これには流石に動揺してしまいました。
「現国王にお伝えください。私は争いは望んでいません。おとなしく退位してくだされば、命は取らない。神の御意志を汲んで、どうか賢明なご判断をしてほしい、と」
太陽の下、光り輝くアレクシスの顔は美しく立派で、砂と黄金の国の兵士たちも思わず平伏してしまったのでした。
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