第2話


 巨大で豪華な浴場で入浴を済ませ、絹でできた衣服を身につけ、髪を整えたサラは……どうしても、醜い火傷の痕を隠すことはできませんでしたが……ともかく、身支度を終えたサラは、王の部屋に呼び出されました。

 王は、石膏のように白い肌に、陽光のような眩い金髪、晴れ渡る青空のような瞳の、美しい若者でした。彼の青い瞳が、サラをまっすぐ見つめます。好意的な目ではありませんが、かわりに憐みや嫌悪もありませんでした。サラは火傷を負って以来、こんなふうに誰かにまっすぐじっと見つめられるのは初めてでした。

 王は、サラに言いました。

「初めに言っておくことがある。貴様は、神託によって選ばれし、形式上の妃である。貴様と世継ぎを作るつもりはない。私からの寵愛は期待するな」

「……そんなこったろうと思いましたよ。そうじゃなきゃ、いくら神様のお告げとは言え、あたしがお妃様になんて迎えられるはずがないですからね」

 サラが自嘲して言いました。王は、そんなサラの様子には構わない様子で言いました。

「宮殿の中は自由に出歩いて構わない。しかし、前妃の霊廟にだけは決して入ってはいけない。入った瞬間、貴様の首が飛ぶと思え」

 以上だ、と話を切り上げようとする王に、サラは一つだけ尋ねました。

「王様は、あたしの姿が恐ろしくはないのですか」

「……貴様がどのような姿であろうと、私には関係ないことだ。一ヶ月後、婚礼の儀を行う。今夜はもう休め」

 王はそれだけ言うと、今度こそサラを部屋から追い出しました。サラはその夜、与えられた大きくふかふかのベッドで、一人で泥のように眠りました。


 次の日から、本格的にサラの王宮生活が始まりました。朝は多勢の召使いたちに起こされて、香を焚き染めた上等な絹織物の衣服を着せられます。三食不自由なく食べられる上に、みずみずしい果物や、甘い菓子まで出てきます。家来たちは、サラの火傷に覆われた顔に眉をひそめて、影でひそひそ悪口を言っているようでしたが、そんなことは慣れっこなので気にしませんでした。いきなり石を投げられたり、蹴り飛ばされたりしないだけ、はるかにマシでした。

 ですが、生活しているときに出るちょっとした所作にいちいち注意が飛んでくるのにはうんざりしてしまいました。言葉遣いや礼儀作法を注意されるのはまだ良いとして「前妃様はもっと鈴のなるような可憐な声でお話しされていました」などと、声色にまで文句をつけられるのはあまりにも煩わしいと思いました。

 そうです、王の家来たちは、事あるごとにサラと前妃とを比べるようなことばかり言うのでした。前妃は、王の不興を買って斬り殺されたと聞いていますが、家来には慕われていたようです。彼等は、サラに、前妃のようになる事を望んでいるのでしょうか。だとすれば、それはとても馬鹿げた話だとサラは思いました。

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