第6話 アドリーの寝室、ツクモの思い、そしてGクラスの初勝利

〜ツクモ視点〜


 魔法対抗戦の前日、すでに夜を迎え、寮にいる彼女たちはすでに就寝してるだろう時間だった。


 俺は、アドリーとビアンカの部屋の前に来た。


 本番前、ということで、皆には早めに寝るように言ってあるためか、起きてる気配はない。


 静かに扉を開けた。


 部屋の中はベットが2つに、勉強机が2つある。


 暗くて見えづらいが、数は少ないものの、女の子が好きそうな可愛い小物もいくつかあった。


「アドリー」


 誰にも絶対に聞こえないような声でつぶやいた。


 その声の先にはアドリーがいた。


 布団が少しめくれており、寝間着姿が見えた。


 寝間着が少しはだけており、少し汗ばんだ素肌があらわになっていた。


 横のビアンカは普通の寝顔で寝ているが、アドリーは様子が違った。


 悪夢でも見ているのか、表情が歪み、小さくうめいていた。


 俺はアドリーの不安定さを前々から気にしていた。


 最初にあったときは、無茶な魔法の練習を行ったり、そして、俺が指導するようになってからも、何かに追い詰められてるかのごとく、必死になって練習していた。


「なあアドリー、生きていれば、怖くてたまらない時もある。俺だって同じだし、誰だって同じなのだろう」


 俺は、アドリーの手を握った。


「アドリーには、前を向いてほしい。たとえ怖くても。正々堂々と。俺は見守ってる。ビアンカ、シィ、ディア、3人も仲間がいる」


 俺は精一杯の声援を込めて、彼女の手を握った。


 すると、アドリーの表情はだんだんと和らいでいった。


 俺はしばらくそのまま、彼女を見守った。


***


〜アドリー視点〜


 私はずっと頑張ってきました。


 私には魔力があるにも関わらず、魔法が使えない。


 それが分かってからも、この数年間がんばってきました。


 魔法に憧れてたんだと思います。


 でも、いつからか、その憧れが何なのか自分でもわからなくなりました。


 Gクラスに入ってから、たくさんの子供達と大人達に馬鹿にされるようになりました。


 私には仲間――ビアンカ、シィちゃん、ディアちゃんがいたけど、それでも、だんだん自信をなくして、魔法と向き合うのをやめていくみんなを見るのは怖かった。


 私はどれだけ馬鹿にされてもいいけど、Gクラスの仲間達が馬鹿にされるのは嫌だった。


 どれだけ頑張っても、そんな現実がずっと続いていくことが、怖かった。


 明日の魔法対抗戦、負けてしまうことが、怖かった。


――生きていれば、怖くてたまらない時もある。俺だって同じだし、誰だって同じなのだろう


 これは、ツクモ先生?


 先生も、みんなも、私と同じなの?


――アドリーには、前を向いてほしい。たとえ怖くても。正々堂々と。俺は見守ってる。ビアンカ、シィ、ディア、3人も仲間がいる


 暖かい。


 私の手から優しいぬくもりを感じました。


 ツクモ先生と初めて会った時と同じだ。


 あの時初めて握られた手の暖かさと同じだ。


 ……そうだよね。


 私も、みんなも、先生のおかげで魔法が使えるようになった。


 以前の私たちじゃない。


 前、向かなきゃ、だね。


 ありがとう先生。


 正々堂々、頑張ってみるよ。


***


〜ツクモ視点〜


 魔法対抗戦が始まった。


 ラクロア魔法学園には、初等部、中等部、高等部それぞれにコロシアムがあり、そこで試合が行われる。


 初等部にあるコロシアムには、初等部の生徒が全員集められているが、それだけではない。


 観戦を希望した保護者や、優秀な生徒を引き抜こうとするギルド関係者や学校関係者、そして、お金を払って見に来た一般の観戦客もいた。


 各学年の生徒たちはたくさんの観客の前で、魔法の攻防を繰り広げていた。


「それでは、10分後に、六年一組対、六年Gクラスの試合が行われます。それぞれ選手控えに――」


 水晶から指示が流れる。


 この水晶は魔道具であり、離れた距離から別の水晶を通じて声を出すことが出来る。


 そして、会話することすら可能にする便利なものだ。


「よし行くぞ。大丈夫、君たちならやれる」


「はい! 私がんばります! 先生!」


「いい気合だな。アドリー」


 アドリーは自信満々といった様子に、俺は安心した。


「ようし、一番目は私だからね!」


「ああ、頼んだぞ。ビアンカ」


「まかせて!」


 俺、アドリー、シィ、ディアは控えの席についた。


 そしてビアンカは、魔障壁のスクロールを自分に掛けたあと、大勢の観客の前に出た。


 おそらく、俺たちとユウ先生以外の誰もが、Gクラスの勝利なんて信じてないだろう。


 だからこそ思い知らせてやりたい。


 落ちこぼれを舐めんなよってことを、さ。


***


〜グレゴーラ視点〜


 私は六年一組の控えの席に座り、耐え難い怒りに耐えていた。


「ねえ、君たち。私の指示を覚えてるかしら?」


 その場にいた6年1組の生徒は、ビクン、と体が震えた。


 今日に至るまで、Gクラスに対して、何も手を出すことが出来ない無能さ。


 私の生徒として信じられないほどよ。


「……まあ、いいでしょう。今ここで言及するのはよしておきましょう。あのGクラスの立派な晴れ舞台を直接潰せるのだと今は考えましょう……ビリー」


「……はい」


「あなたの希望通り、落ちこぼれのGクラス戦、わざわざ成績二位であるあなたを選手に選んだわ」


「ありがとうございます」


「今度こそ、正面から捻り潰しなさい!!!」


「もちろんですよ……絶対に潰してやる」


 ビリーは燃えてるようね。


 安心だわ。


 私はビリーが観客の前に向かっていくのを後ろから見守った。


 一瞬だけ、向かい側の席に座っていた、ツクモ先生と目があった。


 楽しみだわ。


 あなたが絶望に悶え苦しむ様をみるのが。


***


〜ビアンカVSビリー〜


 試合開始直前、ビリ―はビアンカに対して、挑発を掛けた。


「Gクラスぅ。……てめえら全員、処刑してやるよぉ……!」


「はいはい、まずは私に勝ってからいいなよ」


 ビアンカは何でも無い調子で言った。


「試合開始!」


 審判が声を挙げた。


「喰らえ!! 中級魔法、ファイアぁあああーボーーーール!!!」


「行くよ!! 中級魔法、ファイアーボール!」


 全く同じタイミングでお互い、ファイアーボールを使った。


 両手から大きな火の玉が現れ、ぶつかり合い、消えた。


「バカな!! 相殺された!!?」


 ビリーは自分のファイアーボールに絶対の自信があり、学年一位を除けば同学年の中でも最強の魔法だと思っていた。


「Gクラスが……中級魔法……? そして、俺のと同じ威力……? ありえない……」


 いいや、そんなのはどうでもいい、とビリーは思いなおした。


「要は勝てばいいだけの話、今は次の攻撃のことだけを考えろ」


 ビリーはファイアーボールの魔力をため直す。


 それと同時に、ビアンカも魔力をため直す。


 魔法にはリキャストタイムがあり、一度撃ったあとは数秒の時間を要するからだ。


(俺のファイアーボールのリキャストタイムは7秒。その記録があのゴミどもに抜けるはずがない。俺の勝ちだ、地獄に落ちろ――!)


 この7秒、同世代としてはかなり早い方だったのだが――。


「これで終わりだね。中級魔法――」


「は――?」


 ビアンカは4秒で終わらせていた。


 目の上のたんこぶである、学年一位と同じレベルの速さだった。


「うそだ――」


「ファイアーボール!!!」


 火球がビリーの体を包んだ。


「ぎゃああああああああああああああ!!!!」


 魔障壁のおかげで、やけどこそ負わないものの、激痛がビリーの全身を駆け巡った。


「いやったあああ! 初・勝利ぃ!」


 倒れ伏したビリーを見たビアンカは大はしゃぎした。


 そして、その光景を目の当たりにした観客たちは、信じられないものを見たせいか、全員が一言も発さなかった。


「し…………勝者は……Gクラス、ビアンカ・ノノ」


 かなり遅れて、審判は勝者の名前を呼んだ。


〜グレゴーラ視点〜


「ねえ、ビリ―。よくも私の顔に泥を塗ったわね」


「ひぃ……!」


 ビリーの顔が恐怖で歪む。


「これは違うんです!! なにかの間違えだ!! ああ、そうだ、もう一度チャンスをください!! そうすれば――」


「言い訳はやめなさい。ゴミ」


 私は心底失望していた。


 よもやこんなゴミを評価していたなんて。


「優秀揃いのグレゴーラクラスに所属しているにも関わらず、Gクラス程度の相手に無様にも負けを晒す。――町中で突然、自爆魔法メガバーストを使うテロリストと全く同じだわ」


「あ……ああ……ちがいます……そんなつもりじゃ……」


 私はひざまずくゴミを処分することにした。


「そういえばあなた、中等部(ジュニア)のゴロツキに喧嘩を売りに行ったみたいじゃない。……よもや私の命令を無視して、Gクラスには目も向けないなんて……」


「そ……そんなんじゃないんです!! 喧嘩なんてそんな……!」


 私は近くにいた生徒に命令した。


「ビリーを中等部の裏路地につれていきなさい!!」


「……ま、まって……」


 ビリーの言葉は無視され、二人の同級生から両腕を掴まれた。


「冗談ですよね……グレゴーラ先生……い……いやだ!! あそこには行きたくない!! いやだ!! いやだあああああああああああああああーーーーーー!!!!」


 ビリーは連れて行かれた。


「これ以上は絶対に負けることは許されないわね。選手交代、ノーベンタ、カラズミ、第二、第三試合はあなた達に任せるわ」


 成績第三位ノーベンタ、成績第四位カラズミは「はい」と返事した。


―――――――――――――――――――


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