乙女ゲームの世界に転生しました。ゲームの世界も現実です
月花たぬき
第1話
門をくぐった瞬間。頭の中で、オープニングムービーが流れた。
ここは、乙女ゲーム「クローバー♡ラバー」と瓜二つの世界で、今くぐったのは舞台となった学園の門だと胸がざわめいている。
そしてわたしは、ゲームではヒロインでも悪役令嬢でもない。攻略対象の一人である大国の王子の妹として生まれた転生者だと気づいた。
乙女ゲーム「クローバー♡ラバー」は、魔法や精霊等が存在するファンタジー色の濃いめな恋愛ゲームだ。
物語は、ヒロインの入学から始まり、各々異なるストーリーを進めながら、攻略対象と恋に落ち、数種類のエンドを目指していく。
オープニングムービー序盤では、プレイヤー目線で学園の門をくぐり、眉目秀麗の攻略対象達と一人ずつ目を合わせて行きながら校舎へ入っていく。
まさに、今私は画面で見ることしかできなかった場所を、実際に体感してるんだ。
ゲームをプレイしている時には分からなかった、外の温度や匂い、周囲の雰囲気を感じることができている。
しかも、今日は私が学園に通う初日だが、ヒロインも今日入学を迎える日だ。
ゲーム開始時期は、どのルートでもヒロインの入学からだった。
つまり、今日。
ゲームのようにヒロインも入学して、攻略対象と結ばれるのか。それとも、別の物語が始まるのではないかという緊張と期待が入り混じった気持ちになった。
私の名前は、セラフィーヌ=エメラルド。エメラルド・クイーン王国の王族で、4人いる王の子の中で、唯一の姫として生まれた。
乙女ゲームでは、攻略対象である兄のルートで、兄がヒロインに話す時のみ文字で登場していた。
王国の王族は皆、宝石目を持っており、美人の家系である。兄の話から、私が歴代の王族の中で最も美しかったとあったが、おそらく王族で最も先祖の血を濃く受け継いだのだと思う。
前世では、サラリーマンの家庭で育った私は、この世界に似た乙女ゲームが好きだった。前世は日本人で、魔法も精霊も空想で、現実には縁がなかったのに、そのゲームには強く惹かれていた。
世界観も好きだったけど、特に、気になるキャラがいた。
前世で「推し」とされるキャラクターが……
「!?」
何気なく見ていた視線の先に、彼がいた。
乙女ゲームで攻略対象の一人だった彼が。木の花を見上げて、儚げな表情を浮かべている。
彼は、いつもそうだった。たしか、彼のルートでは、彼はずっと誰かを探していた。
全攻略対象にて、高評価を得ていたゲームだったが、唯一彼のルートだけ批判されていた。
コアなユーザーには好評だった彼のルートの批判理由は、他のルートではあった攻略キャラとの甘い時間も、彼とは無く。
よく言えば、友達以上恋人未満のような時間が続くような、悪く言えば煮え切らない。
どのエンドに達ても、明確にプレイヤーと結ばれたという表現がないからだった。
この現実の世界でも、彼は誰かを探しているのだろうか?
そう思っていたら、彼と一瞬目があった。
一瞬だったのは、私が目を逸らしたから。
彼と目があった瞬間、ドキッとした。胸が苦しくて、目頭が熱くなった。
ゲームで、一番気になっていたキャラクターが、現実にいたからだろうか。
ふと、頭の中で声が聞こえた。
『……もしも叶うのなら、貴方様のそばにいさせてくれませんか?』
誰の声だったんだろう。
たぶん、ゲームの中のフレーズ。
あの言葉を思い返すと、切なくなる。前世でも、今世でも、誰かが言ったあのフレーズの夢を見た。
乙女ゲームの世界に転生しました。ゲームの世界も現実です 月花たぬき @ana
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