乙女ゲームの攻略対象の妹になりました

月花たぬき

第1話


……もしも願いが叶うなら、ずっと貴方のそばにいたかった

 

 約束しよう……存在するかぎり……




 茜色の陽射しで、目が覚めた。

 今私は、天蓋付きベッドにいる。ひどく混乱した。

 頭の中では、ここにいるのはいつものこととする自分と、寝相の悪い私は布団を好んで使っているはずだとする自分がいた。

 とりあえず、いつまでも寝ているわけにはいかないと思い、ドレッサーの前で身だしなみを整える事にする。でも、ここでも違和感に気づいた。やけに目線が低くなった気がする。不安に駆られて、そっと鏡を覗き込んでみた。

「???」

鏡に、美幼女がいる。一瞬で心を掴まれ、目が離せない。特に、宝石のような目は神秘的で、見るもの全てが魅了されるような魔力のようなものを感じる。でも、この宝石のような目を知っている気がした。

 ……そう。混乱した記憶の片隅に、この目は乙女ゲーム「クローバー、ラバー」にでてくる。「クローバー、ラバー」は、魔法や精霊などがいるファンタジー恋愛ゲームだ。その中で、宝石の目は、四カ国のうちの一つ、クイーン=エメラルド王国の王族の特徴だった。と言うことは、この美幼女は王族という事かと思ったところでハッとした。

 いつまでも考え込んでないで、身支度を整えるためにブラシをとる。そこで、自分の手がやけに小さい事が気になった。

「なんで?」

声も、可愛らしい子供のような声だ。と、ここである事に確信した。

 先程鏡でみた美幼女は、私だったのだと。

「エメラルド=クイーンの王族で、女の子……」

思い出した。

 乙女ゲームの攻略対象の中で、エメラルド=クイーンの王子がいた。その王子ルートで、エメラルド=クイーンの王女について触れられていた。王子の妹君である王女は、病気により、5歳に満たず命を落としたと。

 鏡で見た姿は、それくらいだった気がする。

 

 ……わたし、もうすぐ死ぬの?


そう、絶望したのが昨日のこと。室内に配置されたドレッサーの前へ行くだけでもふらついていたから。その後、もう一度ベッドへ行くと疲れ果ててそのまま寝てしまった。

 今は、ベッドの上。

 昨日の混乱から、まだ誰にもあったことがない。流石に寝過ぎたせいか。または、今が明け方近い時間だからなのか、とても静かだ。

 ベッドから起き上がり、昨日と同じようにドレッサーの椅子に座る。

 うん。あいかわらずの美幼女だ。


コンコンコン……


 ノック音が響いた。

 一応返事をすると、ガチャリと勢いよく扉が開いた。

「姫さま」

 メイド服をきたキレイなお姉さんが、目を潤ませて駆け寄ってきた。

「目が覚められたのですね。良かった……」

 聞くところによると、数日前に倒れて、それから眠ったままだったという。

 その間、なにやらあったようだけど、メイドは話を逸らすばかりで、会話にならなかっので、深く聞くことはやめた。

 メイドは、私が目覚めた事を陛下達に報告を、なんて言い出したので、なんとか先に支度を整える事をお願いすると快諾してくれた。

 ところで、このメイドは乳母らしい。乳母って、中年の女性をイメージするけど、乳母は大学生ほどの年の人にみえる。わたしが知っている乳母が、前世で読んだ小説やアニメくらいだから、本物をみるのは初めてだ。改めて乳母がどんな人か思い返してみると納得する。

 乳母って、お母さん代わりだからね。

 そんなわけで、わたしの乳母の名前は、ケリーと言うそうだ。そして、私はセラフィニア=エメラルドって名前なんだって。

 ケリーは、今日のドレス候補を数着持ってきて、どちらをお召しになりますか、と広げて見せてくれた。

 ドレスは、中世貴族がよく着用していたと想像通りのドレス。しっかりした布地にレースやリボンなどの装飾があしらわれている。おそらく、重いのだろう。

「あの、これを」

 正直、ドレスに詳しいわけではないので困った。その中から、比較的軽そうなものを選んでみる。

「こちらですか。姫様にとても良くお似合いになると思います♪」

ケリーは嬉々として、私に着付けした。

 不思議だった。乳母が持ったときは重そうだったのに、着てみると案外軽くて気にならない。

 シンプルだと思っていたこのドレスは、背中にリボンが大きくついた可愛らしいドレスだった。

「よくお似合いです」

「あ、ありがとう」

なんだか恥ずかしい。

 鏡に映るわたしは、頬を染めていた。

「さあ、魔法をかけましょう」

 座ってくださいと、ケリーに促されるまま、ドレッサーの椅子に腰掛ける。

 何が始まるのだろうと思っていたら、ケリーは手慣れたように、髪のサイドを編み込み、ドレスと同じリボンを髪に留めてくれた。

「元気になられた姫様へ、プレゼントです」

「ケリー、ありがとう」

「では、私めは陛下に報告に行ってきますから、姫様はこちらでお待ちくださいね」

 ケリーは、私を抱きしめた後、部屋から行ってしまった。

 残された私は、疲労を感じてまたベッドに寝転んだ。

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