気に入らない

ゆーく

【短編】








ーー 気に入らない





1位  シャーリー   900点

2位  ローク     898点





姓を持たない庶民育ちであることが大々的に分かってしまう掲示の仕方はどうでもいいが、並ぶ名だけの連なりが癪に触る











ーー 気に入らない





魔道科最優秀賞   シャーリー

魔道科準優秀賞   ローク





数多居る生徒の中から半年に一度決まる優秀賞に名が挙がったことで心根の捻じ曲がった上流階級の奴らに絡まれることはどうでもいいが、連なっている名の順序が癪に触る











ーー 気に入らない





魔術式実力試験 1位   ローク

魔術式実力試験特別賞  シャーリー





数万ある術式を全て暗記していることで実力不足の奴らに不正を疑われることはどうでもいいが、トップに立った筈の自分の下に新たな術式に発展する可能性として名を挙げている者が居ることが癪に触る












ーー 気に入らない





体力試験   1位 ローク

       2位 ビアンカ・シャーク





「なんでおまえ、またそんな仏頂面してんだよ」

「……気に入らないからだ」

「なんでだよ、おまえの大好きな一位だぞ?」



そうやって揶揄い混じりに声をかけてきた赤髪の友人をキッと睨む



「性別の差で勝ったところで僕の実力じゃない」

「間違いなくおまえの実力だよ。二位の名前見てみろよ、ビアンカ・シャーク。れっきとした女が他の野郎を抜いての二位だ」

「彼女は騎士志望だろう。体力があるのは当然だ」

「なんにせよ、おまえもやっとシャーリーに勝てたってことじゃねぇか」

「こんな勝ち方で、僕がっ!この僕がっ!納得するわけ、ないだろう!!」

「めんどくせぇ奴…」







ーー 気に入らない







そう、気に入らないのだ



自分がどれだけ努力しても簡単に追い越していく彼女の存在が


自分が必死になって学んだことを軽々とこなす彼女が


自分が周囲に気を張って得てきた教師からの信頼を平然と得る彼女が


自分が死に物狂いで覚えたことを当然のように熟す彼女が






そうやって、自分を簡単に追い越すくせに氷のように表情を動かさない彼女のことが





気に入らないのだ















「お?噂をすれば」

「む?」

「見ろよ、シャーリーだ。相変わらずモテるな」

「ふんっ、なんであんな氷女が良いのか、さっぱりわからないな」

「まぁー、笑わねぇからなぁあいつ。それでもあの顔なら文句もねぇんだろ。おまえ以外」






気に入らない




腰まである黒髪が艶を纏って光を反射することも

透き通るような肌の白さも

触れれば折れそうなほど華奢な身体も

ガラス玉のように何も映さない青い瞳も





それを人形のように享受する男たちも







「気に入らないな」



















今日の小テストでもあの女と並んでしまった

いや寧ろあの女はまたもや自分で手を加えてアレンジさえしてみせたのだ


そうまでして己の価値を高めたいのか

本当に癪に触る女だ





「おまえ本当は教師に色目使ってんだろ?」




下卑た声が思考を中断させた


声の持ち主は複数味方を引き連れて、気に入らない女を取り囲んでいた




「可愛いツラして実際はエロいとか最高だよな」

「俺らの相手もしてくれよ」

「こういうこと、慣れてんだろ?」







ーー 気に入らない







男の一人が女の腕を掴む


しかし、女は表情を変えずに顔色も透き通った色のまま








ーー 気に入らない






「おい」

「あー?あンだよ、おまえか」

「おー、丁度いいじゃねぇか。おまえもこいつに負けっぱなしで悔しいんだろ?代わりに楽しませてもらえよ」






ー 気に入らない

ー 気に入らない

ー 気に入らない





「ふざけるな」

「はぁ?」





おまえたちに、何が分かる





「僕がこいつに負けているのは僕の実力不足だ。そしてそいつが教師に気に入られているのは、そいつの実力だ。そんなわかりきったことをダシにしないとお前たちは女性に相手にしてもらえないのか」


「は?」


「おまえ達に心配されずとも僕は自分の実力でそいつに勝ってみせる。だから、そいつに戦意を失くさせるようなことをするな。もしこれ以上くだらないことをしでかすなら、こちらにも考えがある」


「ハッ!おまえに何ができるんだよ」


「おまえ達は確か全て騎士志望だったな」


「だからなんだよ」


「おまえ達の顔は覚えた。名前もすぐわかるだろう。安心しろ、今日中にダーウィン家に一報いれてやる」


「なっ!?なんでおまえがンなことできるんだよ!?」


「簡単だ。騎士団長であるロイド・ダーウィン氏の奥方はウチのお得意様だからな」



しがないガラス細工の店の何が気に入ったのかはわからないが、いつも楽しそうに小物を大量購入していく夫人を思い浮かべていれば目の前の男達の顔色が変わった


いいざまだったが今後絡まれるのも面倒だ



「今後の素行次第では黙っててやってもいい」

「本当だろうな!?」

「さぁな、おまえ達次第だ」




舌打ちを残して去っていった男たちにハッと鼻を鳴らしてその場から去ろうとするとクィッと袖が何かに引っかかる

視線を向けると何故か気に入らない女が僕の袖を掴んでいた





「…………なんだよ」





女はガラス玉のような青い瞳でジッと見つめてくる


かと思えば、その瞳を微かに細めた




凍てついた氷の花が溶けたような笑みだった





「………ありがとう」






小さな波紋が広がるような声音で礼を述べた女は返事も聞かずにその場を去って行く


こっちの返事も聞かずになんて無礼な奴なんだと頭の中で文句を言っていればいつの間にか赤髪の友人が隣りに居た







「ローク、おまえ顔真っ赤だぜ。風邪か?」


「~~~ッ、何でもない!!」





やはりあいつは、気に入らないっ!!!







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