第35話 努力義務と特定小型原付

 最近、自分が自転車に乗る時に、よくよく気を付けてみているのは、どれくらいの人が自転車でヘルメットを着用しているか、だ。

努力義務とか言う、ふやけた事を言っているから、田舎でヘルメットを被る人はごくわずかだ。


 私はこの田舎に戻って、自転車を乗るにあたり、一度も欠かしたことはないが、被らない人は、年配だと完全に70以上のご老人。

男女問わず、ヘルメットなんて、なにそれ? なのだろう。

50代から60代後半辺りまでの人は、被る人はちゃんとかぶっている。

40代を超えると、自転車に乗るっていうのは、それなりに理由がある人だけになるからだ。


 田舎では、まず間違いなく車社会であることが最大の理由である。



 若い人はスポーツ自転車の人は大概被っている。

ママチャリの人は、被っていないか、ドカヘル。大抵はノーヘル。


 小学生は男女問わず、自転車に乗る子供はみんな被っている。着用率は100%である。

これが中学生になったとたん、激減する。笑ってしまうくらい減る。

まず女子は9割は被らない。男子も中学一年はまだ3割くらいは被っているが、中学二年になるころには、男子もほぼ9割は被らない。

中高校生の男子で野球部の青少年がバッター用のヘルメットを被っているのは見たが、あれは自転車用ではあるまい。ないよりはましかもしれない程度だな。


 で、国道沿いの車が多い道をノーヘル自転車で走り抜ける猛者もいる。

それが信じられない事だが、本格的なスポーツ自転車で服装も半袖短パンという、ソレなのに、ヘルメットをかぶってない。日本人だけでなく外国の方も多い。

 そういう自転車が出す速度も、30Km以上だ。軽自動車で、前が詰まったので速度を少し緩めたら、そういう自転車の一団にあっという間に抜かれた。

(内心、前方でチャリの連鎖事故だけはやめてくれよと祈ったくらいだ。)

彼等は、事故は絶対に起きないと、勘違いしてるんじゃないだろうか。

40Kmの速度を出す自転車の制動距離がどのくらいなのか、走っている彼らは分かっているのだろうか……。


 その速度を出しながら、ノーヘルか、革のヘッドギアみたいなヘルメット(Casque:発音はカスク。 牛革製)を被るだけっていうのが、もう信じられない。

車のようなABSが働くようなドカ・ブレーキは自転車ではかけられない。

そんな事をしたら、前輪ロックなら、直ちに自転車は前方に転がりながら吹っ飛んでいく。後輪のロックなら、ほぼ瞬時に車輪が横に滑ってそのまま後ろが流されて転ぶ。横転である。だから大抵、そういう自転車はそこまでの強烈なブレーキは掛けれられないか、乗っている人がかけないようにしている。

 それに、そんな速度で転んだら、それだけで大怪我だろうに。



 ここに更に、そもそも動力が付いているのにヘルメット不要|(ヘルメットは努力義務)とか言う、やばいシロモノが、この7月に堂々と公道に出現した。


 特定小型原付の電動キックボードなら運転免許が不要でヘルメットも不要。ただし16歳以上。

2023年7月1日に改正道路交通法が適用(改正時期は4月1日)されて、特定小型原付という新しい区分が出来たせいだ。

あんな小さい車輪で速度20Kmまでだせるとかいうのが、もう信じられない。


 田舎ではまだ2、3度しか見たことが無いのだが、彼らは車の来ない、歩行者専用の道路で、舗装された一直線の道路を全力|(たぶん20Km)で走るのをやっていた。本来は歩道なら6Kmでなければならない。


 その歩道から外れると若干の凸凹があるので、普通の自転車と異なり電動キックボードはまともに走れない。こんなものが公道で走り始めたら、車の方は恐怖である。


 彼等は自転車ではない。

保安基準に定められた装置は売る側の問題だが、ナンバープレートを付ける事と、自賠責は必須で買う人間がやる必要があるのだが、これは販売店の方できちんと指導しないとやらない人間も出てくるだろう。公道に出ない、私有地での使用なら不要だからだ。(ネット通販だと、これは私有地なら、ナンバーはいりません。お客さんの方でお願いしますとか言う、売りっぱなしのやばいケースも多々出てくるのが容易に想像できる。)


 違反はそれなりに厳しいのだが。


 例えば、自賠責保険の証明書を携行せずに運転したことが発覚すれば、30万円以下の罰金なのだ。自賠責保険に未加入で走行した場合は、もっと厳しい。

1年以下の懲役または50万円以下の罰金である。

しかし、警察がそこまでちゃんと取り締まれるかは不明。

規則を守らないヤカラの公道運転で割を食うのは、巻き込まれた歩行者か自転車か、自動車だ。自転車もマナーは酷いので、どっちもどっちというケースも多々出るだろう。

ただ、日本の法律は特に自動車に厳しいので、あんなものが公道を走ってるだけで恐怖しか湧いてこない。


 何しろブレーキランプは小さい。あの小さい後輪の上に、ちょこんと載ってるだけである。

反射板は一応ついてはいるが、位置が低いのであれもかなりやばい。夜間に走られたら、あれが夜間に50m程度、先にいて確実に視認可能かは、自信がない。

(自転車でも視認できない場合があるのに、あんなに低い位置だとさらにやばい)

反射板ではなく、暗くなると自動で点滅するやつ(自転車にはそういうのがある)にして欲しかったと思う。


 小さなハンドルについているウインカーも厳しい。あれが後方から見えるのかと言われると、ちょっとでも体格が大きい人か、または横幅のあるリュックでも背負っていたら、見えないと言い切れる。

 後写鏡、つまりバックミラーが付いてない物も普通に売られている。これはバックミラーが保安基準から外されたせいだ。オプションになってしまったのだ。


 つまり後ろを殆ど何も確認しないで、右折するとか、前にある障害物とかマンホールの蓋を避けるとか、トラックで出来た大きなわだちを避けるために車線の真ん中にヘロヘロと出てくる電動キックボードが、今後増えると言う事を意味している。

 その時にウインカーが見えないのが当たり前だと、思っておくしかない。


 今、車でもウインカーを出さずに曲がる車は増えているのだから。

電動キックボード乗りが真面目にウインカーを出すとは、考えられないのだ。

自転車で手信号を出す人が、どれだけいるかを考えればわかる事である。


 一応最高速度が20Kmを守らせるためのスピードリミッターが付いていることが保安基準条件だが、コレには車検なんて無いのだから、これが外される改造が密かに流行ることは容易に想像できる。

最高速度表示灯は付けなければならないが、それが20Km以上ではないことを保証は出来ないのである。


 信号無視や通行禁止違反、酒気帯び運転は勿論違反だが、これも1回で即逮捕ではない。問題になるのは速度違反だ。20Km以上出ていることをその場で判断して、即、ナンバーを控えて厳重注意できる警察官がどれだけいるというのだろう。


 大きな陸橋の下り坂では自転車でも簡単に27kmから30Kmの速度が出る場所がある。スポーツタイプなら、その2倍は出るだろう。

電動キックボードはこういう場所でも20Kmキープで下るとは考えられない。

例え、かなりの下りでもスピードリミッターでモーターがそれ以上タイヤを廻さないように回転する制御がされているのだろうか? これを実現するのはそんな簡単ではない。

多分、自動でブレーキが働くような物理的な機構を入れる方が現実的だろう。

そんなものも一切ないなら、乗っている人間の恐怖心に任せて、ブレーキを掛けてもらうという方向だろうか。


 さて、これは免許のある乗り物ではないためなのか、違反をすると数回の厳重注意があるらしい。

少なくとも1回で即アウトとは書いていない。

で、、「特定小型原動機付自転車運転者講習」の受講というのがある。

これを無視すると5万円以下の罰金だが、すぐに満額の罰金では無かろう。

2万か3万の罰金を納付せよっていうはがきが来るのであろう。繰り返し無視するようなら5万円の罰金と、下手すると警察までやって来るかもしれない。


 因みに16歳以下であることがばれると、6か月以下の懲役又は10万円以下の罰金という、乗った子供には厳罰なのだが、これが実際に警官によって施行されるとは思えない。

まず本人ではなく、親が払う事になるだろう。

電動キックボードを没収とは書かれていないので、どうせこういう事をやらかす奴は、親の目を盗んでまた乗るのは目に見えている。

その時に大きな事故を起こした場合、目も当てられない。


……


 速度20kmは決して遅くない。普通の人は生身でその速度は出せないだろう。

最低でも自転車とかローラースケートかボードに乗っているから出せる速度だ。

車だと、とてつもなく遅く感じる速度であるのは認めるが、生身でこの速度で転んだりすれば大怪我だ。


 あの小さいタイヤでは、ちょっとした凸凹や下水の「グレーチング」(金網の蓋)ですら危険だ。マンホールの蓋とかもそうだろう。

そこで簡単にバランスを崩して転げる事が想像できる。


 これだけ危険が一杯の乗物なのに、最低限ヘルメットの着用が義務ではない。

 この国はどうかしている。

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