俺は所詮何も出来ねぇモブだからって追放されたけど、癒してたのは俺の能力でしたので、無駄ですね 〜俺氏、ギルドへの返り咲きをするために召喚してみる〜

色夜 零

第1話 何もできねぇのはお前らだ

「ってて、何すんだよテメェ!」

 俺はいきなり蹴ってきた男、ーーギルド総長クリャントンに怒号を浴びせた。この前まで仲良く冒険プレイしてきたのに、いったい何をしたってんだ俺が。

 すると、周りにも俺らのギルド、『紅龍騎士団』の奴らが群がってきた。しかも奴らは口元に謎めいた笑みを浮かべている。まったく、やれやれだ。記憶でも失っちゃったのかお前らは。俺のことわかんねぇのか。

「俺は、お前らと冒険してきたよな今まで! なのに急に何けるんだよ総長!」

「お前らと? 笑わせるなよ。俺らだけでいけるの。俺らが冒険という名のピクニックに持っていくおやつのような存在なんだよオメェは」

 言い返してみると、怒りが返ってきた。クリャントンは珍しく眉間に皺を寄せている。いつもは明るかった。なんで笑わないんだヨォと言わんばかりに。だが今はどうであろうか。

 笑いを顔面から消している。まるで、般若のように。

「ラプラシャン、お前は何もやってねえんだよ。俺らの戦いに役に立つようなことも、役に立たないようなことも、これといったことぁしてねぇ。お前の存在ってのはぁ、つまりプラマイゼロなの」

「それは違うね」

 クリャントンの言っていることは嘘だ。俺はこいつらが戦っている時、いつも傍で《自然回復》能力を使って、こいつらの体を癒していたのだ。だから、こいつらは今まで死なずにすんだのだ。逆に俺がいなければ、こいつらは戦いに挑めばスライム程度は倒せるくらいのクソ雑魚剣士、とても強いやつに出くわしたら一撃で皆死んでいたのだろう。合計で十二回ぐらいか。俺に感謝すべきだ。

 なのに、クリャントンはそんなことはつゆも知らない。クリャントンが知らなければ、俺以外のものは皆知らない。今まで言わなかったのにも、理由はあったしね。

 それは、俺の謙遜心が働いたからだ。でしゃばっても仕方ないと思ったからだ。

 でも、今はでしゃばらせてくれ。

「俺がプラマイゼロ? 笑わせるな。俺はお前らを元気付けてやったじゃねえか」

「はぁん? イキんな。元気付けてるだけじゃ、なんの意味もねえ。戦って日頃の行いに反映するもんなんだよ、冒険者ってのは」

 生意気そうにギルドメイトのウォーチが見下ろした。いいや、「元」ギルドメイトのウォーチ、というべきか。

 俺はうずくまっていた。あえて立たなかったのだ。お前らの下にあるんだぞということをアピールしてやるために。

 ウォーチは、急に俺の方へしゃがんだ。俺は、何かを本能的に察知した。何か恐ろしいことが身に降りかかるということを。ウォーチが、何かやばいことをやるつもりなんだろうということを。

 ちょうど彼のほおが俺のほおと擦りかけた時、見下ろしていたクリャントン総長が、ニヤリといやらしい笑みを作って、唇を動かした。

「やれ」

 自分が死ぬわけではないのに、死刑宣告のような無情な響きを持っていたかのように感じられた。

 ウォーチは、手をほおへ優しく持っていくと、

 べチン、ベチン、ベチン

 と、弾けんばかりの爽快な音を立てて俺のほおをビンタした。音は爽快だったが、とても爽快な気持ちなんかはしない。

 目が覚めた。ーーちょうどいいじゃねぇか。

「お前らだけじゃなんもできねぇんだよ馬鹿たれ! 自分勝手にしておいて、せいぜい己の体を自ら滅ぼして身内を悲しませな。もう俺がいなくなった後のことなんか、知らん知らん」

 なんて強気に言い返してやったが、本当はこいつらの死の知らせなんか聞きたくない。今は敵対していても、昔は仲間みたいに親しかったんだから。だから、いつかの仲間の死を見送るのは辛いのだ。だから、この言葉で過去の仲間を今の仲間に戻してしまおうと思った。

 この気持ちが、総長に伝わっていたらどういう結果になっていたんだろう。伝わっていないから、今は絶望的状況になっているのだろうか。現実は、甘くはなかった。

「ふっ。お前のことなんか知ったこたあねぇ。お前はもうギルドの一員じゃないから、俺らの死を傍で嘲笑っておけば良い。気楽に生かしておきたいから、俺はお前をギルドから追い出すんだ。優しさだよ優しさ」

 嫌な響きだ。こんなことを言う奴に、優しさなんてあるんだろうか。俺はギルドを辞めたとしても、こいつらの死は悼む。少なくとも早朝より俺の方が優しいのではなかろうか。聞けば聞くほど、そう言う自信がぶくぶくと湧いてきた。

 人格が変わっちまったのかよ。あり得ねぇ。

 自分が幻にいるんだと思いたくなったが、まだ先ほどのほおの痛みはジリジリと染み入り、現実だとわかった。

 しょうがねぇ。俺が思いっきり言ってやる。

「ふぅん、ギルドを離れてあげますよ。ただしお前らがもう死なないって言ってくれるならね」

 条件付き。死なない。これで、奴らに俺がいかに必要な要素だったかを見せつけてやりたかった。まくし立てるような口調でやけくそになって、再度加入をノリでしてもらうつもりだった。

 しかし、奴らにはもちろん俺なりの優しさは届かなかったようである。感情をなくした声で、ウォーチが口を開いた。

「いいよ。今日に日付が変わった時点でお前の追放は決定していたがな。十三時間ものインターバルを要して、よく一台決断をしてくれた。ありがとう」

 そして周りの奴らも、

「そうだそうだ」

「そうだ、でてけぇ、十三時間長居すんな」

「追い出せぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」

 などと言った醜い共感を示した。声にされたのが一層いやらしさを増幅させてきやがる。

 うざい。

「じゃあな、お荷物こと、ラプラシャン・クレリア。お気楽な生活と、少し早めの老後を味わってくれたまえ」

「ざっけんな。死んでも助けねえし、追悼しねえよ」

「は? 戯言は聞かねえ。ーー行こうぜ」

 俺の捨て台詞も聞かずに、奴らは高笑いをして、その場を立ち去っていった。

 白昼の中、俺は仲間に捨てられた。明るい時間帯なのに、誰も俺に手を差し伸べてはくれなかった。だから、太陽の存在がないのかと思ってしまった。俺は、孤独になってしまったのだ。 

 俺は間違っていない。

「何もできねぇのはお前らだ」

 チッ、と舌打ちした。

 ただその想いだけが残り、寂しくとぼとぼと過去の仲間達とは反対の方向に歩いていった。その方向には、あれがある。

 礼拝堂。ここで、懺悔するのだ。

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