六本木の猫

@geige

第1話

   吾輩は猫である。名前はまだ無い。

 とか言う小説が人間社会で有名らしいじゃない。

 まあ私の知ったことじゃあないけれどどんな素敵な子猫ちゃんなのかは是非お目にかかって見たいわ。

 わたくしだって名前なんて無いわ。私の前を通るニンゲンどもは皆好き勝手にゴロちゃんだとかミャオミャオとかを口ずさんでわたくしの気を惹こうとするけれども、本当にわたくしの気を惹きたいのならこの世界で1番美味しいマグロでも持ってきなさいって話よ。

 わたくしね、前にニンゲンが捨てていった本を拝借して読んだのよ。確か「竹取物語」とか言うのだったけれど、あれに出てくるお嬢さんは素敵ね。私はそんな安い女じゃないわってところが。

 とにかくね、わたくしはニンゲンがキライなの。男はみんなお金と女に目がなくて、つまらない見栄ばかり張って。女はニコニコしながら隣の女と小さいことを比べて優越感に浸る。わたくしには男より女の方が欲が強いように見えるわ。笑って隠してるけれどもね。まぁそこに気がつかない男どもはただのお馬鹿さんってわけね。

 誤解しないでね、わたくしはニンゲンが羨ましくて妬ましくてキライと言ってるのではないわ。わたくしはわたくしがネコという生命であることになんら不満もないから。むしろニンゲンなんかよりもずっと自由。こんな素敵な人生は無いわ。

 まあ、わたくしがここまでニンゲンが汚らわしいと思うのもわたくしがここ、六本木とか言う町でのんびり生きているからかもしれないけれど。

 噂によれば六本木ってこの世で1番欲にまみれた汚い町だそうじゃない。確かにここのニンゲンは例えるならば腐った泥沼ね。でもね、わたくしここが好きなの。ニンゲンが本能で争うところをとおくで眺めてるのが好き。

 別に悪趣味って訳じゃないわ。わたくしはね、ニンゲンのそうした汚らしい部分があるから、わたくしがニンゲンの前を堂々と凛々しく歩けるの。

 さて、日も沈んだことだし。お散歩でも参りましょうかしら。今日はどんな面白い事が起こるかしら。楽しみね。背筋をぴんと伸ばして。気高く、優雅に、そして凛々しく。気になる?ついて来てもよくってよ。

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