12話 フラグ立てちゃった…
「ハァハァ…ハァハァ…」
フレデリカは肩で息をしながらも、燃え盛る炎と黒煙が舞う先を見据えていた。
彼女が手に持っている銃『ゴッドイーター(UR)』は、フレデリカ専用武器。
先日、イノチがエレナたちから隠れて引いたガチャの結果、手に入った高レアリティの武器である。
このゴッドイーターは、自ら練り込んだ魔法を自身の錬金術により魔力エネルギーへと変換させて射出するものだが、本来、術師自身に練り込まれ、錬金術により変換された魔力エネルギーの粒子構造は不規則かつ動的である。
そのため、そのまま体外へ放出してもすぐに拡散してしまい、相手を攻撃する手段とはならないはずなのだ。
しかし、このゴッドイーターは自身を通った魔力エネルギーの粒子構造を整えるフィルターの役割を果たしており、さらには、通した魔力エネルギーを高密度に圧縮し、その威力を数十倍にも増幅させる効果がある。
イノチがフレデリカの魔法に対して今までと違うと感じた理由は、このゴッドイーターの性能からくるものであったのだ。
しかしながら、デメリットもある。
魔力エネルギーの粒子構造が綺麗に整うことで、魔力変換が想像以上に容易となるため、力の調節が極めて難しいのだ。
現に、魔力操作に長けているフレデリカでさえ、たった一発放っただけでかなり疲労していることが、何よりの証拠であった。
(竜化していてもこれだけの量の魔力を持っていかれるとは…。UR…ゴッドイーター恐るべしですわ。)
未だに燃え盛る黒炎は、ゆらゆらと揺めきながら黒い煙を立ち上げる。
「だけど、手応えはあったですわ…ハァハァ…」
炎を見つめてそうつぶやくフレデリカに対し、イノチもその場に駆け寄ってきて声をかけた。
「フレデリカ、大丈夫か!?」
「えぇ、かなり魔力を使いましたので、疲労感は否めませんが…」
「そっか。しかし、すごい威力だったな。これも専用武器のおかげか…」
イノチはそうつぶやきながら、フレデリカの持つ銃に目を落とした。
「…専用というだけあって、力の引き出し方が凄すぎますわ。魔力調整が難し過ぎて、今の状態じゃ連発はできないですわ。」
「う〜ん、それも考えものだなぁ。ここがゲームとは違うんだって改めて感じるよ…」
確かにゲームであれば、好きなキャラの専用武器を手に入れた時の喜びは大きなものである。
大抵のゲームではそのキャラのステータス上昇、特有スキルの獲得など、様々な恩恵を受けることができるはずだからだ。
だが、その時にキャラの魔力量は足りるかな?なんて考えるプレイヤーがいるだろうか。
答えはノーである。
もしいたならば、それはもうただのプレイヤーではなく、ソシャゲーマーと呼ばれる部類の人間であるだろう。
ちなみにイノチはソシャゲーマーであるのだが…
注:ソシャゲーマーという言葉は現実にはありません…たぶん…
しかし、イノチたちがいるこの世界は現実世界、もしくはそれに限りなく近い世界であり、ゲームのように現実的な要素が省略されているわけではない。
個性やその時の体調など、様々な要素が不規則に関連しているのである。
「フレデリカ、これ使っといて。」
イノチはアイテムボックスから取り出したポーションをフレデリカへと手渡す。
「感謝しますですわ。」
それを受け取ったフレデリカはふたを外すと、喉を鳴らしながら勢いよく飲み干した。
「ぷっは…」
「どうだ?魔力の回復は問題ない?」
「ええ、ですわ。これならもう一度くらいなら撃てそうですわ。」
「よし!あとは奴がどうなったかだけど…」
イノチはそうつぶやいて、ロノスがいた場所に視線を向ける。
「…もし奴がフレデリカのあれを耐えてたら、もはやチートだと思うんだよな。」
「チート?何を言っているのかよくわかりませんが、もし耐えていたならわたくしでは勝てませんですわね。」
「だよね…ていうか俺、今のはフラグ立てちゃったかも…」
「フラグ…?先ほどからBOSSの言葉は分かりにくいですわ!」
「ハハハ…」
フレデリカの言葉に苦笑いしつつ、イノチは内心でまずいと感じていた。
(やべぇな…今のは完全にフラグだわ。マジで警戒しとかないと…)
そして、予想通り、その考えは不幸にも正しかった。
突然、舞い上がる黒煙の中心からガチャンと大きな音が鳴り、強い突風が巻き起こる。
「はぁ…勘弁願いたいですわ…」
「あぁ…俺がフラグ立てちまったからな…」
二人がジッと見据える中、その風は辺りに舞っていた煙を絡め取りながら空高くへと吹き飛ばしていく。
そして、ゆっくりと晴れていくその視界の先、えぐれた地面の中心で熱量による湯気を鎧から立ち上げるロノスの姿があった。
緊張感とともに身構えるイノチとフレデリカに顔を向け、ロノスは口を開く。
「なかなかの一撃だったな。確かにこのレベルが相手ではうちの支部長たちじゃ勝てないか…」
ブツブツとつぶやくロノス。
地面に突き刺さった剣を抜き取り、ガシャガシャと音を立ててゆっくりとイノチたちの前まで歩み寄ってきた。
「お前…なんともないのかよ。あんなの食らって…」
「ん…そうだね。俺の鎧はちょっと特別なんだよ。」
驚きを隠せないイノチの言葉に、ロノスは軽い口調で答える。
「特…別…?どういうことだよ。」
「あー…これは他のメンバーには伝えてないことなんだけど、君になら教えてあげても良いかもなぁ。」
訝しむイノチを見て、ロノスはそう笑いながら話し始めた。
「この鎧は『アークトリア』っていうんだけどさ。俺が最初にこの世界に来た時、初めて手に入れた防具なんだ。」
自分の手を…
鎧の籠手を見つめながら物憂げにそうこぼすロノス。
対して、イノチたちは気を抜くことなく彼の話に耳を傾けている。
ロノスは見つめていた手を握り締めると、静かに話を再開した。
「もともとこれはSRの防具だったんだけどね、今じゃ『SP』にまで成長してるんだ。」
「『SP』…!?」
「いいね、その反応!まぁ驚くよな。普通じゃあり得ないレアリティだし。」
(『SP(スペシャルレア)』なんて、ソーシャルゲームでもあまり設定のないレアリティだぞ…)
驚くイノチに対して、ロノスは面白そうに笑いながら話を続けていく。
「まぁそうなったのも、あることがきっかけなんだけど…」
「あること…?」
「あぁ…あれはこのクランを立ち上げる前のことだったな。俺は一人の神に会ったのさ。」
「か…神…!?」
その瞬間、イノチの頭には彼らの顔が浮かんでいた。
自らを世界を管理する者と呼び、神の使いであると明かした彼らのことを。
(ど…どういうことだ?ロノスは神に会っている?あいつらのことなのか…それとも邪神…)
彼の言葉は全てが突然過ぎて理解が追いつかない。
なんとか表情には出さずにいたイノチだが、頭の中では混乱していた。
そんなイノチをよそに、ロノスは話を続ける。
「彼に会って俺の価値観は変わったんだ。彼の意志に賛同する見返りにこの鎧を強化してもらったわけだ。そして、ある目的のためにクラン『創血の牙』を創り、リシア帝国との関係をここまで築き上げたのさ。」
「…価値観が変わった?いったい何を…その神とやらにお前は何を言われたんだ?」
「それは言えない…。まだ…君たちにはね。」
イノチの問いに対して、ロノスはそう言いながら持っていた剣をゆっくり上げていく。
先ほどとは違う構えを見せるロノスに対して、フレデリカが臨戦態勢に入ったことにイノチは気づいた。
構え終えたロノスの目が兜の奥で光る。
その瞬間…
「いつか話せる時が来るといいなぁ!」
彼はそう叫び剣を振りかざしたまま、イノチとフレデリカに向かって勢いのまま突進を始めたのだった。
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