11話 フレデリカの切り札
「ここまで進んできたけど、あれから創血の奴らは出てこないわね。」
エレナは王宮内の広間の中央に立ってそうつぶやいた。
周りにはレジスタンスたちもいて、彼らはこれから進むべき方向を確認し合いながら、それぞれ警戒にあたっている。
帝国軍との戦いで負傷した者たちもいるが、エレナとアレックスの助勢もあって最小限に留められているようだ。
彼らの様子を見ていたエレナの元に、アレックスがやってきた。
「エレナさん♪BOSSたちと落ち合うのは、ここで間違いないよね♪」
「そうね。でも、まだ来てないってことは何かあったかしら。」
「かもしれないね♪」
それを聞いたエレナは悔しそうにため息をつき、小さく愚痴をこぼす。
「ちっ…ということはあっちが当たりだったってことね。」
「そうだねぇ♪まぁ、BOSSが一緒だから必然ではあったかもね♪」
「…?なんでそう思うのよ。」
アレックスの言葉に首を傾げるエレナ。
そんな彼女に対して、アレックスは自信満々に答えた。
「え〜♪だって、BOSSって意外にトラブルメーカーなとこあるじゃない♪」
「確かに…そうかもね。」
根拠もないが納得するエレナ。
確かにリュカオーンのときも超級ダンジョンのときも、いろいろとやらかしてきたイノチである。
そう思われても仕方はないだろう。
「だけど今回は仕方ないわね。メンバー編成の際、珍しくBOSSの意思が固かったらあんまり反論できなかったし…」
「そうだね♪でも、こっちはこっちで僕は楽しいよ♪」
そんなアレックスの様子にエレナは肩をすくめた。
東門側の守りに当てられていた創血の牙のメンバーは、ハーデとメテル以外みんな大したことはなかった。
そして、その二人ですら一瞬で戦闘不能になってしまい、不完全燃焼さが否めないエレナだったが、今回の作戦ではイノチの想いを汲み取ってもいるのだ。
「…今回は我慢ね。あのバカ竜を復活するさせるためにこの作戦は早く終わらせなきゃならないから。」
ため息とともにそう告げたエレナを見て、アレックスがニヤニヤと笑う。
それに気づいたエレナは、少し恥ずかしげに彼女へ問いかけた。
「アレックス…何よ、何か言いたげだけど…」
「うん♪フレデリカさんもだけどさ、二人ともBOSSのことなんだかんだ考えてあげてるよねって思うんだ♪」
「ばっ…!違うわよ!早くあのバカ竜を生き返らせて一発ぶん殴るつもりって話よ!!」
「はいは〜い♪そうだねぇ♪ウフフ♪」
アレックスの態度にエレナは顔を赤らめたまま、少しあたふたしている。
しかし、その時であった。
ゴゴゴォォォォォンンンンッ!!!
「なっ…!何!?何が起きたの!?」
建物が軋むほどの地響きと揺れに、エレナが怪訝な表情を浮かべていると、広間に走り込んできたレジスタンスの一人が大きく叫んだ。
「西門付近で大きな爆発を確認しました!!」
その言葉を聞いたエレナとアレックスは、急いで外へと駆け出して西門の方向へと視線を向ける。
そしてそこに、大きく立ち上る黒い粉塵を見た。
「あれは…」
「なんだろう…♪」
アレックスが首を傾げる横で、エレナにはそれが何なのかなんとなく予測できた。
あれはフレデリカの炎魔法が放たれた時に現れる黒煙だ。
そして、その大きさから特大の炎魔法が放たれたということも…
「フレデリカのやつ、竜化している…?まさかっ…!!」
嫌な予感が頭をよぎり、駆け出そうとするエレナの服を掴んでアレックスが引き止めた。
それに驚いたエレナが声を荒げる。
「何するのよ、アレックス!!」
「だめだよ、エレナさん♪BOSSからの指示、忘れちゃった♪?」
「…!!」
アレックスの言葉に、エレナはイノチの言葉を思い出していた。
『何があっても持ち場を離れないこと。お前らが持ち場を離れたら、残されたレジスタンスのみんなに迷惑がかかるんだ!わかったな!』
その言葉が大きく胸へとのしかかる。
不安と忠心が心の中でせめぎ合っている。
「BOSS…!」
そんな葛藤の狭間で、エレナは立ち上がる黒煙を見つめながら、不安をこぼしたのだった。
◆
「いきますですわ!!」
竜化したフレデリカは、そう告げてロノスへと飛びかかった。
一瞬で間合いを詰めたフレデリカは、右手に持つファングソードを左から右へと振り払う。
それに対してロノスは構えていた剣でそれを受けた。
目にも止まらぬ剣戟を何度も繰り出すフレデリカに対して、ロノスは全てを読んでいるかのように自らの剣で全てを受け切っていく。
一度間合いを取ったフレデリカ。
「はぁぁぁぁぁ!!!」
今度は真上に高く跳び上がり、その勢いのままファングソードをロノスへと振り下ろす。
…が、ロノスはその一太刀を簡単に受け止めてしまった。
ギィィィィンという透き通った金属音が響き渡る中、フレデリカはファングソードを押し込めようと腕に力を込める。
しかし、ロノスは特に焦る様子もない。
「く…余裕ですわね!」
「うん、これくらいなら問題ないかな!それに…その武器じゃ、俺の剣は越えられないだろ?」
涼しげにそう告げるロノスだが、その見立ては正しかった。
フレデリカの持つファングソードのレアリティは『R』だが、対するロノスの持つ剣はその見た目からも高レアリティであることがわかる。
ファングソードの一撃を受け止めても、傷一つつかないその美しく光り輝く剣身が何よりの証拠なのである。
「俺の剣のレアリティはURだよ。名を『ミストルテイン』と言う。」
「ミストル…それはまさか!!」
そこまで口に出したフレデリカは、目の前のロノスが笑っているように感じた。
フルフェイスの兜をかぶっているためにその表情は見えないが、フレデリカにはなぜだがそう感じたのだ。
しかし、それを確かめる前にフレデリカのファングソードの刀身にヒビが走る。
「早く戦える武器を出しなよ。腕を落とされてからじゃ遅いだろ?」
「ちっ…!!」
見透かされていたことに気づいた瞬間、ファングソードが真っ二つに折れ、ロノスの剣がフレデリカに襲いかかった。
しかし、辛うじて先に反応していたフレデリカはその斬撃をかわすと、ロングスカートのスリットの間からもう一つの武器を取り出した。
「ハハハハ…やっぱり隠し持ってた!」
後方へと高く跳び上がり、体を捻らせながら空中で銃を構えるフレデリカを見て、ロノスは笑う。
「油断するんじゃないですわ!!」
「銃とは面白いね。弾丸と俺の剣、どちらが早いか…試してみよう。」
ロノスは再び剣を構えて迎撃の態勢を整えるが、フレデリカはそれを予想していたかのように笑い返した。
「言いましたですわ!油断するなと…!!」
そう叫んだフレデリカがトリガーに指をかける。
その瞬間、彼女の手と銃の周りには紅蓮の炎が燃え上がった。
赤黒い炎をまとった銃はその全身を真っ赤に染め上げ、エネルギーを収束させるようにキィィィンと音を鳴らす。
その様子を不思議そうに眺めていたロノスを空中から見下ろしながら、フレデリカは容赦なくその言葉を綴った。
「獄炎の焔焔たる意志たちよ、我が手に集いて来たれ、全てを滅せよ!アンファール・バースト!!!!」
フレデリカの叫びとともに、獄炎の炎がまるで竜のような形を成してロノスへと襲いかかる。
「な…なにあれ…!ウィングヘッド倒した時以上の威力じゃん!!」
驚きを隠せないイノチの前で、その竜炎はロノスを飲み込んで巨大な爆炎を巻き起こしたのだった。
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