34話 最終ラウンド
「あいつら…本当にやりやがったぜ!!」
タケルの後ろで、男が叫んだ。
「すごいね…!本当にリュカオーンの防御を突破するなんて…」
「キーマンは彼のようです…ここからでは何をしたのか見えませんでしたが…」
戦いを見守っていたタケルたちは、イノチたちがリュカオーンの正体不明の防壁を突破したことに驚いていた。
「"イノチ"くんか…ぜひともうちのクラ…まずい!!リュカオーンが何かするつもりだ!!」
イノチを見ながら笑みをこぼしていたタケルが、異変に気づいて声を上げる。
「まずい予感がするね…サリー、君は彼を保護して!!ガージュは僕を守りながら彼女たちのところへ急ぐよ!!」
「「Yes Sir!!」」
ガージュと呼ばれた男とサリーは、タケルの指示にすぐに応えた。
◆
《小僧…貴様ぁ…俺に何を…何をしたぁぁぁぁぁぁ!!》
目の前で咆哮をあげるリュカオーン。
その衝撃と恐怖にイノチは足がすくみ、腰を抜かして動けなくなっていた。
尻餅をついて必死に後退りするイノチを、真紅の双眸がこちらを睨みつけている。
そして、周囲に漆黒の丸い歪みが生まれ始めた。見れば、その周りはビリビリと放電しているのがわかる。
(やっ……やばい…これ…死ぬやつだ…)
《死ねぇぇぇぇぇぇぇぇ!!》
イノチが目を閉じた瞬間、バリバリという轟音とともに漆黒の雷があたり一帯に撃ち落とされた。
・
リュカオーンの周りを、広範囲に雷が爆撃していく。岩を砕き、地面を裂いて、その全てを漆黒が焼き払っていく。
周りで起こる激しい衝撃。
その轟音で、耳が麻痺して何も聞こえない。無音の中で、自分に死が迫り来ることをイノチは肌で感じ取っていた。
やがて、漆黒の雷のひとつがイノチを捉え、一直線に撃ち下される。
イノチには、なんとなく雷が自分に向かってきているのがわかった。
(あぁ、これ死ぬなぁ…死んだらペナルティとかあるのかな…再チャレンジしてもいいけど、またあいつの"シールド"を剥がすとこからやるのはだるいなぁ…グェッ!!)
目を閉じて、そんなことを思っていたイノチは突然の襟を引っ張られて、自分の体が持ち上げられたことを感じる。
「なっ…なんだ!?…何が起こったんだ…?」
驚いて目を開けると、その眼下には放たれる無数の雷が見えたのだ。
「あっ…あれ…浮いてる?どうなって…エレナ?」
モンスターから逃げる時にいつも感じている腰を担がれてる感覚に、イノチはエレナの名前を呼ぶが…
「違います…私はサリーと申します…」
まったく別の女性の声が聞こえてきたのだ。
エレナのハツラツとした元気な声でもなく、フレデリカの高飛車な高い声でもなく…
まるで、全てを慈愛で包み込むような優しく静かな声が。
「あっ…あの…これはいったい…」
「タケル様のご命令により、あなた方をお助けします。」
「え…タケル様…?ん…誰…?ってそうだ!そんなことより、エレナとフレデリカは!?」
「そんなこと…」
自分の主人のことを"そんなこと"呼ばわりされて、少し表情を曇らせるサリーを尻目に、イノチはエレナたちの姿を探し始めた。
しかし、地上は雷の爆撃により砂ほこりが広範囲に広がっているため、状況がわからない。
「…もしかして、エレナ…フレデリカ…」
「ご安心を…我が主人であるタケル様と、タンクのガージュが向かいましたので…」
長い跳躍が終わり、サリーは地上に着地すると、イノチを優しく下へと降ろす。
そして、長い銀髪をふわりとなびかせて、リュカオーンの方を指さしてそう告げたのだ。
イノチはその指の先に視線を向ける。
リュカオーンのすぐ近くに、白いフードに黒い短パン姿の人物と、黒と金を基調としたずっしりと重厚感が漂う鎧を着て、その体よりも大きな盾を上にかざした男を捉えた。
その後ろには、エレナとフレデリカの姿も確認できる。
「よっ…よかったぁ…」
「安心されるのは、まだ早いです…」
二人の無事を確認して、ホッと胸を撫で下ろすイノチに、サリーがリュカオーンを見据えて話しかける。
「あれの防御は…攻撃は本当に通るのですか?」
「え…あぁ…とっ…通るはずだ!だってそう"設定した"んだから!」
「…?そうですか…では、あなたはここにいてください…」
「おっ…おいって…!」
イノチの言葉に一瞬、首を傾げたサリー。
しかし、何かに気づいてエレナたちの方を一瞥すると、そう言葉を残して駆け出していく。
イノチは、黒いロングコートをはためかせて駆けていくその女性の後ろ姿を、ただジッと見つめていた。
◆
「なんじゃ、この黒い雷は!!俺さまのタフな体でも、こんだけのダメージを受けるとは…やべぇぜ!ガハハハハハハ!」
「なっ…なによ、このむさ苦しい男は…」
目の前で黒金の鎧を着たごつい男が、大きな盾で黒い雷を防ぎながら笑っている。
状況がわからず、そうこぼすエレナに、フレデリカが声をかける。
「どうやら、我々は彼らに助けられたようですわ…」
「彼ら…?」
その言葉に首を傾げ、自分の後ろに目を向けると、そこには白いフードと黒い短パン姿の男がしゃがんでいたのである。
「やぁ…大丈夫かな、怪我はないかい?レディたち!僕はタケルで、そっちはガージュね!」
「あっ…えぇ…どうも…大丈夫です…」
その男は口元に笑みを浮かべ、キザったらしい口調で話しかけてきた。
突然のことにエレナは、すこし動揺してしまう。
「しっかしさ、君たちのご主人はすごいね!リュカオーンの防御を無効化しちゃうんだから!本当に驚いたよ!!」
「当たり前ですわ!なんたって我々のBOSSなのですわ!」
「…ふふふ、本当そうだね!」
フレデリカの自慢げな言葉に、男は口元で笑みを浮かべるが、フードを被っているため、その表情はわからない。
男のことを少し訝しげに思いつつ、エレナは男に質問を投げかける。
「そのBOSSは…?どこにいるのかしら?」
「安心してよ…彼ならうちのサリーが保護してくれてるよ。ほら…あそこに!」
その指の先には、少し離れたところで黒いロングコートをまとった銀髪の女性と一緒にいるイノチの姿があった。
「よかった…」
ホッと胸を撫で下ろすエレナとフレデリカに、フードの男は再び声をかける。
「安心するのはまだ早いんだよね…僕らはこのリュカオーンを倒したいんだ。だから君たちの協力があると助かるんだけど…」
「素晴らしい提案ですわ、ねぇエレナ?」
「確かに…あたしたちもそれが目的だから構わないけど…あんたたちはなぜこいつを倒したいの?目的は…」
エレナがそこまで質問したところで、ガージュがタケルに話しかける。
「BOSS…そろそろ時間だぜ…視界が晴れてきやがった!」
「ありゃりゃ…仕方ないね!話はこいつを倒してからにしようじゃないか!」
フードの男は口に笑みを浮かべると、エレナたちにポーションを渡す。
「これ、使っていいから!協力してもらえる報酬ってことで!」
手渡されたポーションを眺めながら顔を見合わせるエレナとフレデリカ。
男は早く飲むようにと、晴れていく視界を指さして催促している。
「これは必要経費よ…こっそり覗いてた観戦料ってことで…あとの話はBOSS同士でしてちょうだい!」
「ですわね!」
エレナは大きくため息を吐き出して、タケルに向かってそう言い放つ。そして、もらったポーションを一気に飲み干すと、フレデリカもそれに続いた。
「ありゃりゃ…バレてたんだね。」
エレナとフレデリカは立ち上がると、舌を見せて笑うタケルを一瞥して口を開いた。
「それじゃあ、最終ラウンドと行こうじゃないの!」
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