5話 チュートリアルガチャ②



イノチは膝と手を地面につき、四つん這いの状態で、頭を下げてピクリとも動かずにいる。



(…どっ…どういうことだ…?金色は…Rだと…)



先ほど金色の球の結果が出た。

結論から言えば、イノチはキャラクターを獲得していた。


画面には、茶髪のツインテール、黒シャツの上に白のビスチェを重ね着し、肩からは紺色のマントを羽織っている可愛らしい女性が表示されていた。



【名 前】エレナ=ランドール(R)

【性 別】女

【種 族】ヒューマン

【タイプ】物理アタッカー

【得意武器】短剣(二刀)

【備 考】素早い連撃を得意とする



イノチはもう一度、レアリティの項目に目を向けるが、そこにはやはり『R』と書かれていた。



(…おかしい。俺の予想では金色はSRのはずだったのに…じゃあ虹玉は?あれはURじゃないってことか?!)



突然、イノチの心を不安が覆い尽くした。

予想していたレアリティが出なかったことが、彼の心に衝撃を与える。



(…いや、まだわからない!金色と虹玉の間にも、レアリティのランクがあるかもしれないんだ!!まだ結果が出たわけじゃない…大丈夫だ…大丈夫…)



心を落ち着かせるため、自分に何度も言い聞かせながら、イノチは深呼吸をする。


そんなイノチの様子を、アリエルは理解できないといった表情で見ている。

たかがガチャひとつに…とでも思っているのだろうか。



「大丈夫だ!いける!!俺ならウルトラレアを引き当てられる!!」



イノチは頭を横に振って立ち上がると、気合を入れ直すために、自分の頬を両手で2回ほど叩いた。


そして、再び画面の前に立つと残りの結果を一気に見ていく。



「白…スキップ…白…スキップ…白…」



そして、ついに虹玉の順番がくる。

イノチは画面をタッチしようとしたが、途中で手を止めた。

その手は震えて小さく震えている。


画面では再び、白髪白ひげが虹玉を持ち上げていく。


震える右手を左手でギュッと抑えた。



(…大丈夫、大丈夫だ…ここはスキップせず、演出を見るんだ…)



自分に言い聞かせながら、右手を包み込むように一度抱きしめる。


画面ではすでに、男性が虹玉を投げようとしており、イノチはそれをジッと見据え、結果の行方を追っていく。


そして、虹玉が天高く投げ上げられ、雷が落とされた。

画面からは、白や金よりもまばゆく激しい爆発の衝撃が、イノチの周りで吹き荒れた。



結果…



出たのは、SRの武器だった。





「…っと!…なさいよ!」



(なんだろう…女の子の声だ…)



「起きなさいってば!!」



(…夢だろうか…女の子に起こされる夢とか…最高じゃないか。)



「あぁっ!もう、めんどいわね!!」



ゴスッと鈍い音が響く。



「いっ…てぇぇぇ!!!!」



イノチは頭にとてつもない痛みを感じて飛び起きた。



「やっと起きたわね!ったく…世話を焼かさないでよ!!」


「いてててっ…!うぅ…なんだよ、もう!!」



頭をさすりながら、声の主の方へ視線を向けると、その人物の足下が目に映った。


膝まであるロングブーツ。

短い黒スカートと細身の白い太もも。



「…ん?」



イノチは徐々に視線を上げていく。


腕には肘まである黒いグローブをはめていて、上半身は黒シャツの上に白のビスチェを重ね着している。肩からは紺色のマントを羽織っており、茶髪の髪にツインテールの可愛らしい顔。



「なにジロジロ見てんのよ!」



可愛くも怒った顔が目の前に現れた。

手には短剣が握られていて、イノチは自分の頭を襲った元凶がそれだと、すぐに気づいた。



「たっ…短剣で殴るとかあり得んだろ!」


「あんたがいくら起こしても起きないからでしょ!?」


「…というか、どちらさま?」


「なっ…!!?」



彼女はそれこそあり得ないといったように表情をひきつらせ、顔を真っ赤にして怒り出した。



「はぁっ…?!何言ってんのよ、こいつ!自分で呼び出しといて、どちらさまって、あんたこそ何様なのよ!!!」


「えっ…?自分で呼び出した…って…」



イノチが理解しかねていると、近くで見ていたアリエルが声をかけてきた。



「その方は先ほどのチュートリアルガチャで召喚されたエレナ様です。イノチさんは虹玉の結果を見て、なぜだか気を失われてしまいまして…今に至ります。」



その話にを聞いてイノチは、アリエルとエレナと呼ばれた少女を何度も見返す。アリエルはやれやれといったようにこちらを見ていて、エレナは腕を組んで頬を膨らませている。


徐々に記憶を取り戻したイノチは、一番重要なことを思い出した。



「そうだ!にっ…虹玉の結果!結果はどうなったんだ!?」



その言葉を聞いたエレナは、より頬を膨らましてイノチ詰め寄った。



「あんたねぇ〜!この期に及んで、まだそっちが気になるわけ!?マジでやってられないんですけど!!!」


「そっ…そんなこと言ってもさ、じゅっ…重要だろ…?ガチャの結果は…今後の冒険を左右することなんだし…」


「…ったく、あきれた人ね…あんたって。いいわ、教えてあげる。さっきの虹玉も含めて、これがチュートリアルガチャの結果よ!!」



エレナが指さした方向には、先ほどまで見ていた画面がある。そこには『RESULT』という表示の下に、10個のアイテムらしきものが並び、浮かんでいる。


イノチはゆっくりと画面に近づくと、ガチャの結果を確認し直した。



『ロングソード(N)』

『木の盾(N)』

『強化薬』

『エレナ=ランドール(R)』

『強化薬』

『魔導の杖(N)』

『強化薬』

『グレンダガー(SR)』

『魔導のローブ(N)』

『強化薬』



「虹玉はSRなのか…トホホ」



がっくりと頭をうなだれて、イノチは悲しそうな声を上げた。その様子を見て、エレナはイノチに声をかけた。



「SRが出てがっかりするとか、意味わかんないけど…そのSRって私の得意武器である短剣ね!やったじゃない!!」



エレナは結果を見ながらそういうと、イノチの背中をバンッと叩いて喜んでいる。



「ってぇ〜なぁ…誰がお前にやるって言ったよ…」


「はぁっ!?何よそれ!いいじゃない、私の得意武器なんだから!私に装備させなさいよ!!」



自分に渡さないつもりでいるイノチに対して、エレナは再び頬を膨らませて凄んでくる。しかし、ソシャゲーマーとし経験を積んでいるイノチはそれを絶対譲らない。



「ダーメだ!貴重な装備品は貴重なキャラや自分に装備させる!!これは鉄則な!!」



エレナの顔の前で人差し指を立てて、チッチッといったように横に振る。その反応にエレナにもさらに火がついた。



「なぁ〜にが『これ鉄則!』…よ!!このオタク野郎が!!あたしは最初にゲットしたキャラなんだから、もう少し愛着を持って大切に扱いなさいよ!!」


「そんなのプレーヤーである俺が決めることだ!お前に言われる筋合いはない!!」


「なんですってぇぇ!?」


「なんだよぉぉ!?」



ギャーギャーと騒ぎ立てる二人を見て、アリエルは頭を抱えている。しかし、何かを気づくと、時間もあまりないのか急いだ様子で、二人に声をかけた。



「イノチ様、そろそろよろしくですか?あまり長くもしていられませんので、先に進ませていただきますね…エレナ様もいったん抑えてもらえますか?」



互いに睨み合いながら、返事をする二人にため息を吐きつつ、アリエルは続きを説明し始めるのであった。

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