須賀煌と遊園地の異変

nekotatu

ソロ○○

その日、須賀煌すがこうは遊園地にいた。


『きゃぁぁぁぁぁ!』


「ここは大変賑やかっすねぇ」


そしてその勢いに圧倒されていた。



須賀は小さい頃から超能力組織『パンドラの管理者』で戦闘訓練を受けた能力者だ。

敵対組織である『新人類の導き手』に捕まったいたところを保護され、それからは『パンドラ』の実務部隊員として育ってきた。

そのため、遊園地について知識はあっても来るのは初めてであった。


「いやー、知識と実物は違うっすわ。ついでに、家族連ればかりで男一人の僕めっちゃ浮いてるっすね。他のメンバーと二人一組で来れたらよかったんすけど」


須賀が一人で遊園地に来たのは、『パンドラ』から命令された任務を遂行するためだった。

今回の任務では他のメンバーも皆一人で別の遊園地に潜入している。


「任務の内容は、これから起こる事件を被害の少ない形に抑えることだったっすね……パトロールでもしますかねぇ」


今回の任務は『パンドラ』の『事件予知』の能力者が『遊園地で能力者が暴れて大事件になる』ことを予知したことによるものだ。

『パンドラ』の活動理念は超能力の管理や平和維持、アーティファクトの回収などである。そのため『パンドラ』ではしばしばこの能力を活用して事件を未然に防いだり、犠牲を少なくするなどが任務として発令されることがある。

『事件予知』の能力は強力だ。

しかし精度や頻度にばらつきがあり、今回も

どの遊園地か、いつどこでどんな能力によって起こるのかなどの詳細な情報は得られなかった。

そのため須賀属する『パンドラ第3部隊』は予想されている全ての遊園地にバラバラに向かったのだ。


「しっかし広い上にうるさい。森もありますし、ちょっと面倒っすね」


須賀が担当する遊園地は大自然と広々とした土地、アトラクションの多さを売りにしており、園内を1周するのもなかなか大変そうだ。


「大事件になるってことは、人が多く死ぬかもしれない。つまりこの人が分散されやすい広い敷地のなかでも、人が集まりやすいところで待つってのが賢いっすかね」


須賀はそういいつつ、園内マップを見た。

候補は食堂、イベント広場、ゲート辺りだろうか。


「イベント広場を基点に、昼は食堂、夕方はゲート付近の店で待機ってところっすか」


「あれ?煌くん!」


「煌、こんなところで何してるんだ?」


これからの予定を決めたところで、須賀の後ろからよく知った声が掛けられる。

振り向くと、昔からの友人である佐都春馬さとはるま栗須純くりすじゅんがフランクフルトを食べていた。


「何やってんすか男二人で」


「次回作の取材!遊園地も超能力バトルの舞台の定番でしょ?」


「佐都がうるさくてな……お化け屋敷だけは入らないからな」


「わかってるって、純は怖いもの嫌いだもんね」


「ちなみに、煌は一人か?」


「そっすよ」


「ソロ遊園地!?煌くんがどうしてまた」


「事情ってやつがあるんです」


いつものようにのんびりした会話を交わしつつ、須賀は内心焦っていた。

栗須にはなぜかトラブルに巻き込まれやすい体質があるのだ。まあ、大抵のトラブルを持ってくるのは佐都だが。

そんな栗須がここにいるということは、かなりの高確率でこの遊園地で事件が発生するだろう。

しかし栗須純を組織のごたごたに巻き込みたくない。佐都も一般人だ。

いつも守ってきた彼らの平和な日常を、ここで崩すわけにはいかない。


「煌も一緒に回るか?」


ここは迷うところだが、一緒に行動していると事件の前兆に気づくことができなくなるだろう。

二人の後ろから注意深く周囲を観察している方がいい。


「お誘いはありがたいんすけど、ソロ遊園地を満喫しなければならない事情があるんで」


「そうか、残念」


「どんな事情なのか根掘り葉掘り聞きたくなるけど……まあいいや!後日聞かせてもらうね!」


「おいこら」


「あまり話してると閉園時間になっちゃうし、そろそろ行こう!」


「じゃあな、煌」


「同じ敷地にいるのでまた会うかもしれませんが、その時はオススメのアトラクションを紹介するっすよ」


「それは楽しみだな」



佐都と栗須を送り出した後、須賀はスマホから『パンドラ』の部隊の情報支援担当、笹崎蛍ささざきほたるに連絡した。


『はいはい笹ちゃんですよー』


「こちら須賀っす。担当の遊園地にて純さんと会いました。他に怪しい人影はないっすけど応援来れます?」


『まじですかー。派遣されていないメンバーは私だけなので、私がそこに向かうしかないですねーメンドクサ』


「本音聞こえてるっすよ。働け」


『はいはい通信切りまーす』


通信が途切れ、須賀は栗須達が歩いていった方へ歩き出した。



「ジェットコースター乗ろう、純!」


「これにか……?マジで?」


二人に追い付くと、ちょうどジェットコースターに乗ろうとしているところだった。

佐都も栗須も遊園地が初めてのようで、見たことの無いものばかりの遊園地に一人は目を輝かせ、もう一人は引いていた。


「その次はメリーゴーランド乗ろう!あの馬のやつ!」


「いやあれは小さい子のいる家族向けもしくはカップル向けじゃないのか?」


「そもそも男二人で来てる時点で気にするだけ意味無いし、なんでも体験してみるべきだよ純!僕は作家としてあれに乗らなければならない!」


「わかったよ。佐都先生の仰せのままに」


「佐都さん元気っすねぇ。もし僕もあそこにいたら確実に巻き込まれてたっすね」


須賀は二人と距離をとったところから周囲を注意深く見た。

異常なし。


「わぁぁぁぁぁぁぁ!」


「舌噛むぞ!口とじ痛てっ」


ジェットコースターから二人の楽しそうな声が聞こえてくる。栗須は舌を噛んだようだが。


「なんなんすかねー、もう。平和っすね」


「仲間になれないからって拗ねるんじゃないよ少年」


到着した笹崎に肩を叩かれ、須賀は嫌な顔をする。


「拗ねてないっすよ、笹崎さん。つか僕の方が年上なんすけど」


「私が23で須賀くんが24。一つしか変わらないならほぼ同い年ですねー」


「お姉さんキャラぶるのはやめてくださいってことっす」


「そういう須賀くんは後輩キャラっぽいじゃないですか」


「僕は昔からこうなんで」


そうこう言っているうちにジェットコースターが終わり、栗須達は次のアトラクションへ向かっていった。

メリーゴーランドはすぐ近くなのでそのまま会話を続ける。


「それにしても思ったより到着早かったっすね」


「第一部隊の『テレポート』の人が近くにいたから送ってもらったんですよー」


「僕は電車で2時間かかったんすけど」


「閉園時間にお迎えもお願いしたんですけど、『テレポート』の人女の子しか送らないから結局須賀くんは電車ですねー」


「やってらんないっすわ」


メリーゴーランドも終わり、次は佐都がお化け屋敷に入ったようだ。

栗須はベンチでスマホを見ている。


「いい天気ですねー。こんな日には、笹ちゃんはゲームをするべきだ」


「仕事してください。つか、手分けしてパトロールした方がよくないすか」


「普通に考えるとそうなんですけどねー、栗須くんの場合は統計的に見てもう事件が起きるなら彼のところしかあり得ないんですよねー」


「純さんバキューム強すぎませんかね」


「ちなみに、事件が起こるなら今とかすごく確率高いんですよね」


「今っすか」


言われて栗須の方を見ると、栗須は遊園地のマスコットの着ぐるみに風船を渡されていた。

その着ぐるみは子供に限らず、大人にも風船を渡しているようだ。


「須賀くん貰いに行ってみては?」


「ジョーダン……じゃなく、本当に貰いに行ってみましょうかね」


須賀は肩をすくめ笹崎の冗談を流そうとして、思い直した。

なんとなく、風船の動きに違和感を感じたのだ。

須賀は栗須と着ぐるみに近づき、話しかけた。


「純さんさっきぶりっすね。着ぐるみの人、僕も風船貰っても?」


着ぐるみは喜ぶように動きながら、風船を須賀に渡した。それは最後の一つだったようで、二人に手を振りゲートの方へ去っていった。


「純さん、その風船知り合いが欲しそうにしてたんすけど、頂けませんかね」


「勿論いいぞ。佐都にでも渡そうとしていただけだしな」


「ではそのかわり、オススメのアトラクションを。この遊園地の奥の方にVRを使ったやつがあるんすけど、純さん好きそうなんでぜひ行ってみてください」


「VRだって?それは気になるな。ありがとう、佐都に提案してみるよ」


「話は聞かせてもらった!今すぐ行こう、純!」


「わかったから佐都、俺の鞄を引っ張るな」


栗須から風船を譲ってもらい、事件の中心地から遠ざけることに成功した須賀はひとまず安堵の息をついた。

この風船は明らかに何らかの細工がされている。

見たところ風船が配られたのはここら一帯であるようだから、奥の方なら大丈夫だろう。

須賀はスマホを取り出した。


「笹崎さん」


『あいよ。着ぐるみを尾行した結果、遊園地の近くの車内でニタニタ笑ってるおっさんを見る羽目になった笹ちゃんです。たぶん12時に合わせて何かするってつもりじゃないですかね』


「12時なら、あと20分っすね。ここからゲートまで10分なので、ちょいと急ぎますかね」


須賀は園内マップを広げ、人の少なそうなルートに目星をつけた。


「いっちょ能力を使うとしましょうかね」


須賀の能力は『身体強化』だ。1日3時間という制約はあるが、重いものを持ち上げたり足を早くしたりと使いどころは多く、便利な能力だ。

今回も人の多い最短ルートを走るより、目撃者の少なそうな遠回りのルートを能力を使って走った方が早いという判断である。


そして実際、それは早かった。

笹崎の待機している地点に到着したのは連絡してから5分後だった。


「あれが対象の車っすね。取り押さえればいいんすかね」


「ゲート付近の人適当に誘導しといたので、パパっとどうぞ」


「どうも」


須賀はさっそく筋力を強化し、車を叩き壊した。


事件はこれで解決され、後の処理は笹崎が担当し、須賀は栗須と佐都と長い帰り道を一緒に帰ることになった。

行きと違って賑やかな電車の旅は、須賀が守った平和だった。

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