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「は?」


 は???????


「ごめん。どういうこと?」


 俺の聞き間違いか?


「だから、私が魚美さんを、あの公園の桜の木の下に埋めたんですよ」


 にっこりと笑う。


「え?」


 え???????


「近くの公衆トイレにスコップが置いてあったのでそれで埋めました。あの辺街灯が全然ないので、先生が来たとき気づかなかったのも無理ないですね」

「は?」

「ふふ、先生、『え』と『は』だけで会話はできませんよ?」


 雨郷は組んでいた手を解き、フォークを握る。そしてあっ、と目を見開いた。


「私は埋めただけですよ。私があの公園に来たときには彼女、心臓が止まっていたので」


 胸元に耳を近づけて確かめたので間違いないです、とスパゲッティを飲み込んで言う。


「あの公園、塾の帰り道から見えるんです。それで先生と魚美さんがあのベンチで会っているのも知ってました。あんなに暗いのに? 私夜目が効くんです。はい。なので見えました。魚美さんが倒れているのも」


 彼女はスパゲッティをくるくると巻きながら、その瞳に間抜けな顔をした男を映している。


「魚美さん、頭から血が出ていました。多分、石かなにかで殴られたんじゃないかな。衝動的な犯行って感じでした。魚美さんは制服を着ていて、周囲にはキャリーバックが転がっていました。直感的に、先生の家に行こうとしていたんだろうな、と思って。だから、私は先生が犯人だと思ったんです」

「ちょっと待ってくれ」


 俺は彼女の前に手を翳す。彼女は俺を見ていたはずだったが記憶の景色を見ていたらしく、突如現実の物体に遮られ、ぴくっと瞼が跳ねた。


「……君が亡くなっている魚美さんを見つけたのはわかった。そして君が殺していないこともわかった」

「はい、そうですよ?」


 彼女は不思議そうに首を傾げる。


「なぜ、埋めた?」


 埋める必要なんてなかったはずだ。そのまま警察に通報していれば。いれば? 何か変わっていた? 少なくとも、こんな悲しい結末を迎えずに済んだのではないだろうか。例えば、内海が死なない未来だとか。そんなことはありえないのだが。


「なぜ????? なぜって……そんなの決まってるじゃないですか」


 彼女はぐにゃりと顔を歪めた。


「人魚は人間の脚を手に入れるために声を失った。ね? 人魚っていうものはそういう生き物なんです。彼女は父親からの虐待を受けていた。私の両親はものすごく優しくて、私に怒ったことなんてないんです。だから私は醜い。彼女は美しい。彼女の美しさには理由がある。魚美さんは美しかった。その死に顔までも美しかったんです。こんな美しい人魚を燃やしてしまうのはいけないと思った。人魚は美しいまま消えるべきだ。そう思って埋めたんです。人魚が泡となって消えてしまうみたいに」


 何を言っているのかわからなかった。いや、確かに魚美は美しい少女だったし、人間を燃やしたくない、というのはわからないでもない。けれど。


「人魚は美しいまま消えたんですよ。あのまま掘り返されることがなければ、それは永遠だった」


 恍惚に浸った目で言う。やっぱりさっぱりわからなかった。


「でも骨が見つかってしまったから美しくなくなってしまった。だから、また美しくしてあげようと思って。じゃあ、彼女の死の真相を暴けば、どうだろう。その犯人を殺せば。ほぉら、とっても美しいじゃないですか」


 誰よりも醜い雨蛙の私が、彼女の仇を討つ。なんて美しい結末。

 そうやってうっとりと呟く雨郷は美しい化粧を施していたが、俺にはちっとも美しくは見えなかった。


「……誰だ、お前は」


 歯の奥から絞り出した言葉に、キラキラとしたアイシャドウの目が三日月の形に歪む。


「嫌ですね。冗談はやめてください。雨郷 花依ですよ、センセ」

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