『出征』

やましん(テンパー)

『出征』


 職業軍人は別として、戦争に取られるのは、若者である、と、むかしは、だいたい決まっていた。


 しかし、マツムラ・コーポレーション・タルレジャ製の戦闘用スーツが安く大量に作られるようになり、情勢は様変わりした。


 この、戦闘用スーツに、身を固めれば、例外を除けば、生きている人間であれば、みな同等の戦闘用人間になる。


 男女の区別も必要ない。


 あらゆる指令は、脳に直接届くから、指揮官の指示は確実に実行される。


 ただ、ロボットや改造人間と違うのは、人間的自己判断が、一定程度可変的に、可能なところだが、これは、指揮官のレベル設定によるのである。


 また、業務終了したら、ただ脱げばよいだけで、もとにもどるのである。


 洗濯も可能である。


 しかし、いったん、このスーツを着用すれば、若き日の力がぐんぐんと甦るから、老人のロマンを掻き立てる側面があった。


 小型の拳銃くらいなら、至近距離でなければ、対抗できるが、機関銃で撃たれれば、とても持たないし、日本刀みたいな、強力な刃物にも、特に強いわけでもない。


 ところが、これにも、うらがあり、強化モードにすれば、核弾頭の火球の中にでも入らなければ、まず、大丈夫なのである。

 

 強化モードにするかどうかは、指導者が決めるのである。


 ここが、みそ、だったのだ。


 これは、機密事項であったから、一般向けの取り扱い説明書には、一切記載がない。


 端的に言えば、かなりの先進各国は、高齢者の処理に困っていたからである。


 


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 で、70歳を越えた、未来のやましんさんところにも、ついに、赤紙がやって来たのである。


 そんなことが起こるなんて、逆立ちしたって、思い付かなかったけど。


 さて、どうするか。


 そこが、問題である。


 表通りでは、川向こうの老夫婦の出征祝いが行われていた。


 近所の人たちが、小旗を振りながら、昔の軍歌を歌っている。


 『勝手に死んだらだめだめよ。


 どうせ、死ぬなら、自分のため。


 幽霊になったらば、うらむあいてを


 ちがえちゃならぬ…………』



 まさか、10年前に、自分が書いたお話しが、ほんとになるなんて、思うわけがない。



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『出征』 やましん(テンパー) @yamashin-2

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