第44会 ティタニス

薄暗い中に見える書斎。


顔出しづらいなー。


「あ、来たわ。」


「ども。」


紅茶を飲んでいるリーフェと、ミカエル様。


「シュライザル、対面に座ってください。」


「ミカエル様、怒ってますよねぇ。」


椅子に座るとミカエルが続ける。


「……まずは、ありがとうございました。」


「ほ?」


「意図を汲んでくださって、と言いましょうか。

私が立場上、手を出すことは許されませんからね。」


「当たってたんですね。」


「あなたの夢ですから。」


「あはは。」


「イリオスですが、除罪のために旅に出しました。

概念的存在ではありますが、感謝しておりましたよ。」


「道理で姿が見えないと思ったら。」


「あなたのおかげで十分に話し合う時間が持てたからね。

私からも感謝するわ。

……悪かったわね。」


「殺されかかったんでしょ。

部外者が口挟んで悪かったのはこっちの方。」


「その私はあなたに存在を確定されたんだけど?」


「いいの、そういうのは。」


「で、シュライザルにお礼というかお詫びというか。」


「何ですか?」


「向こうの床、開くようになっていますでしょう?」


「色が違うところですね。」


「あなたのものを私なりに用意してみました。

喜んでいただけるといいのですが。」


「なんだろう。」


とことこ歩いていき、取っ手をつかんで開いてみる。


「うお、寒……。

なんだ?

霜がいっぱい張ってる。」


「凍ってしまいましたか?

温度が下がってしまったのでしょうね。」


「こっちはそろそろ夏です。

温度は大丈夫でしょうか。」


「天界がどこにあるかお忘れですか。

超高高度にあるんですよ?」


「なるほど。

で、滑り降りるように見えるんですけど、

入っちゃっていいんですか?」


「えぇ。」


滑り台の要領で滑り降りていく。


わずかな時間でスポン、と何かに収まった。


「なんだ……?」


「レディ。」


「うおっ!」


何か声が聞こえる。


「ハジメマシテ、マスター。」


「マスター?

僕で合ってる?」


「シュライザル・レナンダール様ト認識シテオリマス。」


「まさかAI!?」


「イエス。

Talk

Ignition

Truth

Artificial

Natural

Intelligence

System、ティタニストオ呼ビクダサイ。」


「アニメの見過ぎかな、凄い夢。」


「空想、経験ノ及バナイ範囲ハ夢ヲ超越シマス。」


「言うじゃない。

なんか本当に僕に最適化されてる感じ。

動いたりするのかい、ティタニス。」


「答エハ両方デス。

コノママデモ運用ハ可能デス。

最奥ノ部屋ニテ行動スルコトモ可能デス。」


「ほうほう。

ロボットなの?」


「覚エテイマスカ。

地球崩壊後ノ世界ニ行ッタ時ノコトヲ。」


「あれはリーフェの空想じゃなかったっけ。」


「私ハリーフェ様ノ空想ノモトニミカエル様ノ手ニヨッテ生ミ出サレテイマス。」


「ほー。」


「アニマリーナ、トイウ言葉ニ覚エハアリマセンカ。」


「あるね。」


「私ハカノ世界ノアニマリーナデス。」


「おぉ、そうなのか。

挨拶が遅れたね。

よろしくティタニス。」


「コチラコソヨロシクオ願イシマス。」


「これ、出るときはどうするの?」


「出ラレマスカ?」


「もうちょっと話してたい気もするけど、

帰り方が分かんないとちょっと怖いね。」


「デハ、帰還シマス。」


ストーン、とさらに落とされる。


「さらに落ちるの!?

どこへー!?

……え?」


「あら、もう帰って来たわ。」


「どうでしたか、シュライザル。」


「めっちゃ楽しかった。

概念的に送り出された……?

感覚と合わなくて驚くよ。」


「概念的ニ送リ出シテイマス。

ココハシュライザル様ノ夢デアリマスノデ。」


「あれ?

ティタニスの声がする。」


「ティタニスならあなたの右に飛んでいますよ。」


「はへ?」


右を振り向くと、何か丸っこいゆるキャラが浮いている。


「なに、この可愛いのは。」


「シュライザル様、照レマス。」


「あ、ティタニスだったの……。」


「普段ハコノ姿デサポートイタシマス。」


「ありがとう。

ミカエル様、ありがとうございますぅ。

めっちゃ嬉しいー。」


「あなたも童心を忘れていませんね。

贈り甲斐があります。」


「あ。

こんなこと聞いたら失礼かもしれませんが……。」


「あなたが働く失礼には意味があると思っていますし、

そもそも失礼を働きません。

なんですか。」


「エクス、元気ですか?」


「その言葉を待っていました。」


「え?」


シャン、とミカエルが細長い剣を取り出す。


「あら、綺麗な剣。」


「エクスカリバーの改造を施しました。

恐らくナイフでは能力不足で

大剣では重量が邪魔をし、

レイピアでは細すぎて論外です。

よってこのスタイルをとりました。」


「エクスは狭くないんですか?」


「エクスカリバーは容量のある聖霊ですからね。

この剣であれば容量は問題ありません。」


「入るは入るんですね。」


「えぇ。」


キキキキ……。


何か金属音が聞こえる。


「なんだこの音。」


「エクスカリバーが我慢できないようですね。

出たがっているので呼んであげてくれませんか。」


「エクス、おいで?」


パーン!と弾ける音がしてエクスが現れる。


「主様ー!」


「エクス、久しぶりだね!」


「またしばらく会えなかった!」


「あー……。」


「今2024年だもんね。」


「リーフェが刺してきます。」


「その間に思い切って改造処置を施しました。

エクスカリバーも喜んでいましたけどね。」


「あーるーじーさーまー。」


「めっちゃ甘えたそう。

どうしたの。」


「頭撫でてー。」


「ほい、なでなで。」


「えーへーへー。

待った甲斐があるやぁ。」


「聖霊エクスカリバート確認。

ティタニスト申シマス。」


「やや。

かわいーい!」


飛んでいたティタニスを抱っこするエクス。


「エクスカリバー、離シテクダサイ。

熱暴走シマス。」


「なーでなーで。」


「仲良くしているようで何より。」


「あなたはエクスを振るうの?」


「錆びたって聞いてるし、面倒は見なきゃとは思ってるんだけど。」


「一応魔力的に錆びないようにはしました。」


「そうなんですか?」


「魔力防錆ですね。

エクスカリバーのことですから剣に大人しくはいないでしょう。

そこも加味しての改造です。」


「なるほど……。」


「あーるーじーさーまー。」


「今度はどうした。」


「ティタニスちゃんちょうだい。」


「ティタニスは乗り物だよ。」


「そうなんだ!

ティタニスちゃん乗せてー。」


「答エハノーデス。

シュサイザル様ニ最適化サレテイマスノデ

エクスカリバーガ乗ッテモ動作シマセン。」


「ざーんねーん。」


抱いていたティタニスが開放されるとティタニスが近くに寄る。


「ティタニスってロボボイスだけど男性?」


「中間デス。」


「エクスと同乗したら動かない?」


「シュライザル様ガベースデスノデ動作シマス。」


「ほぉん。」


「あーるーじーさーまー。」


「どうしたどうした。」


「抱っこして。」


「椅子に座ってるから、膝に乗るかい?」


「あれ? いいの?」


「それくらいならね。」


「わぁい。」


ポンと膝に座るエクス。

ゆーらゆーらと揺れている。


「エクス、シュライザルが見えないじゃない。」


「私が代わってあげるー。」


「あなたそんなに甘えん坊なの?」


「もともと私自体は甘えん坊じゃないかな。

ただなんだろな。

主様の雰囲気が好き。

ふわふわしてる。」


「体重のこと言ってるのかい。」


「主様結構痩せたんじゃない?」


「9キロくらい落としたね。」


「頑張ったわね。」


「ありがとうリーフェ。

あと15キロくらい落としたら維持に入る。」


「まだ落とすの?」


「今までが多すぎたんだよ……。

不健康な話だけど。」


「あなたやる気になると凄いわよね……。」


「凝り性なんでね。

やるからにはとことんやらないと気が済まない。

そこまでやれないなら、そもそもやらない。」


「食事も変えた?」


「変えたよ。

歩くだけだけど運動もしてる。」


「よくやるわねぇ……。」


「シュライザル様ノ身長カラ適正体重は62.8キロデス。」


「今78キロくらい?」


「そうだね。」


「87キロあったんですね、シュライザル。」


「太りすぎだと思いません?

ミカエル様から見てもみっともなかったと思いますよ。」


「そういった美性は天使に備わっているかは分かりませんが、

バランスの悪い太り方をしてませんでしたけれどね。

ころんとしてました。」


「そういうものかな……。」


「尚、87キロデストBMIは30.4デス。

日本基準デ肥満2デス。」


「ティタニス、今どれくらいなの? 78キロだと。」


「78キロデストBMIは27.3、肥満1デス。」


「あら、結構頑張ってるわ。

本当に。」


「62.8キロになったらBMIって聞いてもいい?」


「21.9デス。」


「当初は52キロまで減らそうと思ってたんだけど、

減らしすぎじゃないかって言われて。」


「52キロデストBMIは18.2デス。

低体重デス、オ勧メシマセン。」


「ティタニスをこんなことに使っていいのか……。」


「私ハ嬉シイデス。」


「あらそう?」


「主様ありがとー。」


「およ。」


羽のように軽いエクスがひょいっと降りる。


「……むむ、足挫かなかったな。」


「どうしたの?」


「前に足挫いたときに湿布貼ってくれたでしょー?」


「あったね。」


「あれ気持ちよかったー。」


「スプレーでも吹いてあげようか?」


「なにそれ?」


「筋肉の疲れをとるスプレーというか。」


「やってー。」


「ほい。」


ポンと手に現れるスプレー。

エクスを椅子に座らせると、足首にスプレーを吹く。


「あぁー、きーもーちーいーいー。」


「エクスが主人みたいですね……。」


「あ、ミカエルに怒られちゃう。」


「いいのいいの、エクスどう?」


「はりゃ? 足が軽くなった。」


「疲れてたんだね。

適度に剣に帰らないとだめだよ。」


「むー。」


「シュライザル様、今夜ハコックピットデ夜ヲ明カシマセンカ。」


「いいね!」


「いってらっしゃい。」


「行ってくるね、リーフェ。」


「私も行くー。」


「ほいほい。」


扉を開けてエクスと一緒にスポーンと入っていく。


「シュライザルが気に入ってくれて何よりです。」


すーっと紅茶を飲むリーフェとミカエル様。

その日はティタニスとエクスと話して夜を過ごした。

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四半世紀以上前から続く明晰夢のお茶会 大餅 おしるこ @Shun-Kisaragi

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