第26会 夢の前の夢

 何だかよく分からないが珍しく自分があの部屋に行く前の夢を見ているようだ。

 リーフェとエクスが話しているようだ。

 知らないうちに夢が進むのはやはりよくあるようだ。


 「……リーフェさん、主様来てる?」


 「あら、エクスったらまた剣を抜け出して。

 シュライザルならまだ来てないわよ?」


 「剣は抜け出してないよ。

 その前に帰ってないもん。」


 「ダメでしょ、怒られるわよ?」


 「うぅ。

 怒られるのは嫌だなー……。

 嫌われたくない。」


 「エクス?」


 「私も分かんないんだけど、何か胸がもやもやする。

 なんだろう。」


 「へぇ、貴女主様に恋してるんだ?」


 「え?これ恋なの?」


 「まぁそうでしょうねぇ。」


 「リーフェさん!こういう時どうしたらいい!?

 剣の私じゃダメかなぁ。

 奥さんの概念体と言ったって、奥さんじゃないし。」


 「もっと積極的になったら?

 あの人は多少押すくらいがちょうどいいと思うけど。」


 「本当?

 ……こういう時、ミカエルならどうするかなぁ。」


 「ミカエル様?

 天使は恋をしないわよ?」


 「うぅ、何で私はこんな感情抱くんだろう。

 つらい。」


 コツコツ。


 「あら、来たかしら。」


 「ひゃあっ!?」


 「こんばんわー……、ってエクスは何でリーフェの後ろにいるの?」


 「あううう……。」


 「リーフェ、何かあったの?」


 「くすくす、いーえー?

 強いて言えばエクスが用事あるくらいかしらね?」


 「リーフェさん!」


 「ん?ん?エクスが何かご用事?」


 「あ、あぅ。」


 真っ赤になっているエクス。

 自意識過剰でなければ多分当たってそう。


 「あー、そうかぁ。

 エクスは遠慮してるんだね。

 確かに妻っぽくはないんだけど、何だろうね。

 自分の子供に一番近そうではあるかな。

 双葉や陽菜よりも。

 まぁ夢でも会えるなら願ったり叶ったりというか。」


 「……剣でも?」


 「それは関係ないかな?

 駆け引きは苦手何で直球で聞くけど、

 どこに惚れる要素あった?」


 「優しいところ。」


 「初対面で割ろうしたけど?」


 「ウリエルを殺そうとしたよ?

 それに私は死にたかった。」


 「優しいだけじゃ成り立つものも成り立たないよね?」


 「だめ、これ以上言うと気持ちが抑えきれなくなっちゃう。

 私、主様が好き。

 主従関係以上に主様が好き。

 告白しちゃった、きゃー。」


 「普通に可愛いんだけど。

 リーフェ、夢の干渉度ってこう言う時どうなるの?」


 「そうねぇ。

 エクスに何かしようとしたら明晰夢かしら。

 エクスに何かされるのを黙って見ているなら問題は無いでしょうけど。

 ただ場合によっては凄いことになるわよ。

 エクス、相当気持ちを溜め込んでそうだもの。」


 「うーむ。

 エクスがどこまで望んでいるかにもよるのか。」


 「どこまで、って?」


 「貴女の主様とどこまで恋人したい?って意味。」


 「リーフェ、その言い方じゃ語弊がある。」


 「んー、分かんないなー……。」


 「何もしたくないのに恋をしたの?

 まぁ、まだ7歳くらいだものねぇ。」


 「主様!私と戦って!」


 「何で。」


 「わかんない!もやもやするから!」


 「くすくす、エクスらしいわね。

 精霊を使わずにエクスを満足させられるかしら。」


 「うぇー……。」


 記憶の回廊最奥の部屋に行き、草原に出る。

 リーフェはティーセットを出して紅茶を飲んでいる。


 ゴゥ、とエクスの周りに魔力が回る。

 幼くても立派な聖剣だ。

 二刀を使えば勝てるかもしれないけど、彼女の気持ちを汲むとそれもダメだろう。

 さて、どうす


 コツン。


 足に何かぶつかった。

 割れかけた剣が落ちている。

 ミカエル様が仮にエクスを宿らせていた剣だ。

 ……これ、意外に使えるかもしれないな。


 ドンッとエクスが飛び出す。

 体を伏せて剣を拾うと同時に回避。

 星空のローブの力を使って飛翔。

 僕の居た位置からエクスが見上げる。


 「主様、もらったぁ!」


 一気に光線を両手から放射するエクス。

 さて、持ってくれよ、身体。


 キィィィン。


 「あっ、バカ!明晰夢を使ったわね!?」


 バシャッ!と水を零すような音がすると光線が真っ二つに分かれる。


 「あれ!?23万ではないにしても7万くらいの精霊力があったのに!?」


 トッ、と右側から音がする。


 「うん?」


 キラキラと輝いている剣がエクスの隣に刺さっている。


 「何これ。」


 「エクス!罠よ!」


 「罠?」


 途端に鏡にでも反射するかのように剣から光が零れる。


 「え?え?何?」


 「よーく狙え。なぁに、ただのコケ脅しだ。」


 一気に光が収束してエクスを巻き込む。


 「きゃあっ!」


 光が収まるが、エクスに何の変化もない。


 「あ、れ?」


 「エクス、一本取られたわね。」


 「あ!これミカエルの剣!?」


 「そうそう、シュライザルが明晰夢で修復して使ったのよ。

 エクスにダメージが無かったのはその意思がなかったからね。

 貴女はシュライザルを取るつもりだったんでしょうけど。」


 「やっぱり主様は優しいなぁ……。」


 サッとエクスの背後を取って頭をポンポン撫でる。


 「あ。」


 「まだ終わってないよ、はい一本。」


 「あるじさまー。」


 「ん?どした?猫なで声だして。」


 「んーん。かっこいいなぁって。」


 「そうかぁ?

 自分の夢くらい自分の好きにしたっていいでしょ。」


 「だったらそれくらい可愛いエクスに手を出さないのも変じゃなくて?」


 「リーフェうるさいよ。

 可愛いからって手を出すことが全てじゃない。

 見てるだけってのもありでしょ。」


 すると回廊の扉が開く。

 珍しい、回廊を使っている時に来客とは。


 「あら、ここに居らっしゃいましたか。

 旧エクスカリバーの気配がしたものですから来てみれば。」


 「あ、ミカエル様。

 こんばんは。」


 「こんばんは。

 エクスとは仲良くやっているようですね。」


 「ミカエルー、胸のもやもやとってー。」


 「え?貴女、恋でもしたんですか?」


 「主様が頭から離れない。」


 「使い手に恋をしましたか。

 アーサー王に恋をしたら面白かったでしょうに。」


 「あんな乱暴な使い方する奴なんか嫌い。

 私、二回も折られたんだよ?」


 「まぁそうですね。

 結論から言いますが、私ではその胸のつかえは取れません。」


 「え?」


 「シュライザルにしか取れませんよ。

 恋をした相手がシュライザルならそのつかえの原因は彼。

 つかえを取りたいならシュライザルを忘れることになりますけど、そのくらいなら手助けができそうですが。」


 「そ、それは嫌!」


 「天使は恋をしないので具体的に何をしたらよいかはご助言出来かねます。」


 「ねぇ、ミカエルはシュライザルの事どう思う?」


 「な、何ですか急に。」


 「私は優しいところが好きー。」


 「特段感情を抱きませんね。

 天使とは元来そう言うものですから。」


 「あ、ミカエル様。

 折角だからお聞きしたいことが。」


 「どうかしましたか?」


 「ウリエル様、かな。

 もう転生されましたか?」


 「っ、本当に恐ろしい人ですね。

 エクスに消滅したからそのような考えを持たれたのでしょうか。

 そうですね、転生しています。

 姿形はそのままですが性格はかなり異なっておりますよ?

 勝ち気な性格をしております。」


 「ウリエル様らしいかな。」


 「受け入れられるんですか。

 長年天使長をやっていますが、貴方のような人は稀です。

 本当に変わった方。

 何なら呼びましょうか?」


 「いえ、僕にそんな権限はありませんから。

 ミカエル様がこうして遊びに来てくださるだけでも大きなお話です。

 ありがとうございます。」


 「……そう言うと思っておりました、残念でした。」


 「へ?」


 「ミカエル様のお願いだから来たけど、貴方何なの?

 ミカエル様に対して礼儀がなってないとか思わないわけ?」


 「あ、こんばんは。」


 シャランと鈴を鳴らせて現れた金髪の女の子。

 そうだね、ウリエル様だ。


 「ミカエル様、こんなちまっこい人間に何が出来るんですか。

 ミカエル様もミカエル様です。

 こんな人間に入れ込んで。

 おかしくないですか?」


 「そうですね、今までの私ならそう思っていたでしょう。

 しかしウリエル、今の発言は私に礼を失していませんか?」


 「ミカエル様のためを思って言っています。」


 「そうですか?

 ではそこの貴女の言うちまっこい人間に勝てたら受け入れましょう。

 少なくとも私は彼には戦いを挑みません。」


 「ふーん、こんな人間に何ができるって言うのよ。

 ちょっと聖剣を手懐けたくらいでいい気になって。

 構えなさい、名前なんか聞かないわ。」


 「ミカエル様、僕ウリエル様と戦うのはつらいんですが。」


 「では、こう言ったらよいですか?

 分からせてあげて下さい。」


 「……よろしいので?」


 「えぇ。」


 こうして初めてのエクスとの共闘が始まった。

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