四半世紀以上前から続く明晰夢のお茶会

大餅 おしるこ

第1会 出会い

 あるときたのしいゆめた。

 

 そのときぼく気付きづいた。

 

 ゆめ世界せかい生活せいかつすればいいんじゃないか。

 それからネット世界せかいあさり、明晰夢めいせきむという単語たんごった。

 

 明晰夢めいせきむつづけると、自分じぶん精神せいしん弊害へいがい可能性かのうせいたかいらしかった。

 だが、この世界せかい未練みれんはない。

 

 まよこともなく明晰夢めいせきむ訓練くんれんはげんだ。

 

 ゆめるためにはねむりをあさくさせなけなければならない。

 方法ほうほう危険きけんなのでくわしくはかないが、身体的しんたいてきにも精神的せいしんてきにも過度てきどつかれてはいけないのだ。

 

 はじめたころゆめれないもあった。

 

 訓練くんれん開始かいしして1カかげつ程経ほどたころには次第しだいゆめことにもれ、いくつか固定こていしたゆめるようになった。

 

 3カかげつころにはらないゆめ展開てんかいをやりなおすことが出来できるまでにコントロールするほどになっていた。

 

 あるとき気付きづいたことがあった。

 

 すこくら空間くうかんで、茶色ちゃいろいちょっとかたそうなおおきめの椅子いすすわっている少女しょうじょゆめつづけてていることに。

 

 かみ桃色ももいろぼくおなじ11さいか、12さいくらいだろうか。

 

 でもながさが椅子いすすわってるにもかかわらず地面じめんびているほどに、ながい。

 今日きょう調子ちょうしかった。

 

 勇気ゆうきしてその少女しょうじょちかづいてみることにした。

 ほとんひとはなさなくなっていたこともあり、なんこえをかけていいかからなかった。

 

 足取あしどりが徐々じょじょおもくなってゆく。

 

 もうまえ、というところまでたら少女しょうじょほうからこちらをいて、くちひらいたのだ。

 


 「わたしに、名前なまえこしなさい。」

 


 「え?」

 

 予想よそうだにしていなかった発言はつげん戸惑とまど自分じぶん

 

 「随分前ずいぶんまえからわたし部屋へやていたわね?」

 

 「あ、うん。」

 

 「ていたわよ。」

 

 「そうなんだ。」

 

 同年代どうねんだいおんなはななんてどれくらいりだろう。

 

 まともにすらわせられない。

 

 完全かんぜんおよいでいる。

 

 

 「都合つごう名前なまえいとこまるの、だから名前なまえこしなさい。

 貴方あなた趣味しゅみでいいわ。」

 

 

 いきなりわれてもこっちもこまる。

 

 

 「つぎるまでに……、かんがえておきなさい。

 今日きょうのところは名無ななしでもかまわないから。」

 

 「はあ。」

 

 状況じょうきょうめずに生返事なまへんじしかしていないとおんなはふくれっつらになる。

 

 「あれ、なにかおかしいことった?」

 

 「貴方あなた、ここにたくていままでゆめ訓練くんれんをしてたんじゃないの?」

 

 「そうだけど。」

 

 「それがかなったのよ?

 すこしはよろこんだらどう?

 それともわたしじゃ不満ふまん?」

 

 「まさか。」

 

 意思いしがはっきりしてきた。

 

 そうだ。

 ぼくはここにるために、自分じぶん居場所いばしょつくるために訓練くんれんしていたんじゃないか。

 

 いえにも、学校がっこうにも居場所いばしょなんてかったし、勉強べんきょうしろと口酸くちすっぱくわれてなか強制的きょうせいてきあたえられた通信教育つうしんきょういく教材きょうざい正答用紙せいとうようし自分じぶんることはく、自身じしん正答用紙せいとうようしにある回答かいとうすまでたたかれ、なぐられるという勉強べんきょう

 

 たしてこれは勉強べんきょうなのだろうか。

 

 学校がっこうではいじめをける日々ひび

 

 だれたすけてはくれない。

 

 ぼく一体いったいなにをしたというのだろうか?

 

 えるだけ。

 

 ただ、んでないだけの日常にちじょう

 

 ねむときだけが唯一ゆいいつ自分じぶん時間じかんだった。

 

 明晰夢めいせきむ危険性きけんせいがある?

 

 関係かんけいない。

 それが、たとすべてをてることになっても。

 

 「つぎるまでには名前なまえかんがえておくよ。

 ……へんなのかもしれないけど、真面目まじめにはかんがえるからわらわないでね。」

 

 「あら、わらうものですか。」

 

 ふくれっつらになったかとおもうときゅう向日葵ひまわりのように表情ひょうじょうあかるくする少女しょうじょ

 

 あぁ、これがぼくもとめていたか。

 

 ふととすと少女しょうじょ膝元ひざもと見覚みおぼえのあるものえる。

 

 「……チンチラだ。」

 

 「そうよ、ねこじゃないほうのね。」

 

 こんなに大人おとなしくまるまってひとひざねむれるものなのか。

 

 少女しょうじょでられるとチンチラはっすらけてびをする。

 

 「やっと私達わたしたちまれられたわね。」

 

 そうかたるとチンチラは椅子いすを、器用きよううつりながら少女しょうじょかたる。

 

 「ちょっと……、おもいわよ。」

 

 とうのチンチラはうれしそうな表情ひょうじょうをして少女しょうじょほおずりしている。

 

 「まったくもう……。」

 

 「まれられた、とは?」

 

 「うん?

 ああそうね。

 貴方あなたゆめ訓練くんれんをしなければ、私達わたしたち貴方あなたゆめ世界せかい生誕せいたんすることが出来できなかった、そういたいのよ。」

 

 「ぼくが、きみした……?」

 

 「そうね。」

 

 そんな大仰おおぎょうことをした感覚かんかくいだけに、ちょっと戸惑とまどう。

 

 「ひ、ひとついていいですか。」

 

 「敬語けいご、いらない。」

 

 「ひとつ、いていい?」

 

 「どうぞ。」

 

 「ここって……、うーん……。」

 

 「自分じぶんでもバカバカしいことこうとおもってるってかおしてるわね。」

 

 「え。」

 

 図星ずぼしだった。

 

 「いいわ、おしえてあげる。

 ここでは魔法まほう使つかえるし、そらべる。

 貴方あなたのぞむことはなんだって出来できる。

 たった3カかげつだったかしら。

 よくもまあ、ここまでれたものだわ。

 ……苦労くろうしたわね。」

 

 「……あれっ?」

 

 不意ふいにぽろっとなみだこぼれる。

 

 「そっちからはねむらないとこちらへは干渉かんしょうできないけど、こちらからはいつでもそちらの状況じょうきょうかるのよ。

 のない精神せいしんゆめもとめるなんて普通ふつうかんがえつかないとおもうけど。」

 

 「ははっ、たしかに。」

 

 「でも、そのなみだなによりの証拠しょうこ

 こんな言葉ことばひとつでこころらぐほど貴方あなたこころまってる。

 ……間違まちがっても自死じしなんてしないでよね。

 私達わたしたちんじゃうんだから。」

 

 「大丈夫だいじょうぶ居場所いばしょ出来できた。

 ぼくこころはとっくのむかしこわれているよ。

 それに、きみ出会であって気付きづいたことがあるんだ。」

 

 「なぁに?」

 

 「自分じぶん攻撃こうげきするものからにげげるためにえらぶのはあやまりではないかとおもうんだ。

 だって、ぼくなにもしてないんだから。」

 

 「上出来じょうでき。」

 

 「でも精神せいしん侵食しんしょくするようなことをしてるんじゃ、あまりわらないかな……。」

 

 「そうでもないわ。」

 

 少女しょうじょ人差ひとさゆびを立てる。

 

 「いい?

 きていることんでいないことたしかに同一どういつじゃない。

 でも貴方あなたいまきることをつけた。

 それがたとえリスクをともなことでもわたし努力どりょく結晶けっしょうだとおもうわ。

 私達わたしたちえることをきにしてもね。」

 

 「ありがとう。」

 

 「お紅茶こうちゃむ?」

 

 「いただきます。」

 

 反対はんたいせきすわり、紅茶こうちゃそそぐ。

 くちにするとあまりれないあじかおをしかめる。

 

 「あら、くちわなかったかしら。」

 

 「これ、何茶なにちゃ?」

 

 「アッサムだけど……、まぁ特別とくべつところからせたからわったあじはするかもね。」

 

 「ぼくってるアッサムじゃない……。」

 

 「……ん、今日きょうはここまでみたいね。」

 

 「ここまで?」

 

 「時間じかんたのよ。」

 

 「時間じかんって……。」

 

 突然とつぜん、フラッシュするように周囲しゅういあかるくなる。

 何事なにごとかとおもうと……、ベッドのうえめていた。

 

 それが彼女かのじょとのはじめての出会であいだった。

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