エフェクター(仮
@NIAzRON
第1話始まり
親が離婚した。
俺が小学4年生の時だ。
あの日は酷い雨だった。
だから雨は嫌いだ。
俺と妹は母親に引き取られた。
祖母と一緒に生活し寂しさはなかった。
俺が中学生になった時、妹が熱を出した。
あの日も雨が降っていた。
医者が言うには、日本じゃ治療が難しい病気らしい。
何でそんな病気に?と聞いたら原因不明とのこと。
そしてこうも続けた
「今娘さんは10歳ですよね?…このままだと成人は迎えられないかもです」
「そんなっ!?どうにかならないんですか!?」
母親が医者に食ってかかる
だが慣れているのか医者は冷静な態度で
「手術すれば何とかなると思います。ですが、先程も言いましたが日本じゃ厳しいです」
そんな会話をしていたのを覚えてる。
妹の病気を簡単に説明すると、妹の体内に悪い菌が入ってしまったらしい。
その菌は、体内に吸収される筈の栄養を横取りする菌で
横取りをした栄養を吸収し増殖するらしい。
遅くても10年後には、その菌が体内を埋め尽くすとのこと。
元々その菌は日本には存在してなくて、その菌を倒すワクチンは海外でしか作れないらしい。
勿論菌が少ない内に手術をすれば、そんなに長く入院する事もないのだが、、、それでもウチにはお金が無さすぎた。
なんとかしてお金を稼がないと妹が死ぬ…だけど、そんなに一気にお金を稼ぐ方法なんてあるのか??
毎日そんな事を考えていた。
そんなある日、いつもの様に人気のない所に1人でいると女同士の会話が聞こえてきた。
「あ、知ってる?今って動画配信が熱いんだよ!」
「知ってる!マネキンでしょ!?モノマネが上手い人!」
「そーそー!あの人結構稼いでるみたいだよ」
動画配信??
俺はすぐに調べた。
調べてる途中に今度は男同士の会話が聞こえてくる
「に、しても
「あんぐらい可愛かったら生着替えの動画配信したら凄い事になるんじゃね!?」
「間違いないよな!良いな〜女は簡単に金儲け出来てさ〜」
季節美衣子か……。思いがけない名前を聞いて驚く。
俺には幼馴染…と言えるかは分からんが、昔からの知り合いが居る。
そいつとは小4ぐらいまでは一緒に遊んだりしたが、小5から中3の現在まで会話と言う会話はしてない。
ただ、母親同士が仲良いし近所だからたま〜に会う事はある。その程度の付き合いなので幼馴染と言えるかは分からない。
何を隠そうその相手こそ季節美衣子なのだ。
「季節美衣子か……」
そう呟いた。
その日の学校の帰りに俺は家に帰らず家から少し離れた場所に待機した。
家の囲いに背を預ける。
それから少ししてお目当ての女の子が姿を現す。
「よっ!」
軽快に挨拶をする
「
驚きながら季節美衣子は返事を返す。
「ちょっと頼みがあってさ」
「頼み?私に?」
「みぃはさ…動画配信って興味ある??」
「へっ?動画配信!?!」
「実はさ――
「ちょっと待った!!」
とみぃが俺の話を遮る。
「話長くなるでしょ?ウチ上がりなよ」
「え?いや、急に来たらおばさんもビックリするだろ?」
「大丈夫だよ、今日お母さん遅くなるって言ってたから」
おじさんは確か単身赴任してるから……なるほど!みぃと2人きりか!それなら大丈夫だな!
って!!!大丈夫なわけないだろ!!!
中3の男と女が一つ屋根の下に2人きり!?不味いだろ…それは不味いだろ!!!
俺だってそう言うのに敏感な年頃だぞ!?そりゃ女の子が目の前に居たら……いやいや、待て待て相手はみぃだぞ。
でも……改めて見るとこいつ滅茶苦茶可愛くなってね!?!
あれ?俺の中のみぃのイメージは、野山を駆け巡ったり泥だらけになったり…どちらかと言うと男っぽい奴だったのに…
そりゃさ?たまにすれ違ったりはあったから見てたけど、こんなにじっくりは見てないだろ?
男子が噂するのも分かる…これは間違いなくマドンナだ。
そんな奴と2人きり??んな馬鹿な。
「いや、だったら後日でも良いよ」
「なんでよ?…あっ!もしかして変な事考えてる?」
「ばっ!ばっか!ちげぇよ!!」
図星を突かれ焦る
「大丈夫大丈夫!アンタと私で間違いなんか起きないんだから!」
「何でそんな事言えんだよ」
「えっ?だって私の方が強いから!」
そう言って腕を曲げて強さをアピールする。
確かにこいつの言う通り昔はこいつに負けっぱなしだった。
かけっこにしろ腕相撲にしろ…色々と負けてた。
でもまあ、、大丈夫だろ。そう決断しみぃの家に入る。
「お邪魔します」
玄関で靴を脱ぐ。
「2階行ってて」
そう言われ2階のみぃの部屋へ行く。
この家には昔来たことがある。
玄関からすぐの階段を登ると、二つ部屋がある。
手前の部屋がみぃの部屋で奥の部屋が倉庫兼客室だった筈。
あの時は子供だったからみぃと一緒に寝たりしたが、今泊まったら間違いなく客室に案内されるだろうな。
「ふ…」
そんな事を考えてると思わず笑みが出た。
さて、みぃの部屋に入るか。
ガチャ
ドアノブを下げて扉を引く。
眼前には色鮮やかな世界が広がる。
カーテンは青色でベッドはピンクだ。
勉強机は白色で、何個かぬいぐるみとかある。
部屋はざっと8畳ぐらいか?薄い赤色の敷物が敷かれてる。
可愛らしい机も置いてありテレビも置いてある。
そして何より…
「良い匂いがする…」
思わず声に出してしまった。
石鹸の匂いと言うのか?何か良い匂いがする。
「ふぅ…」
心を落ち着ける為、息を吐いた。
雑念は捨てろ!
そうだ、よくよく考えたら俺はみぃにお願いをしに来てるんだ。
こんな変な事を考える事は失礼にあたる。
ぱちん、と自分の頬を叩いて喝を入れる。
丁度その時、トントンと階段を上がる足音が聞こえてきた。
そして{ガチャ}っと扉が開き飲み物を持ってみぃが入ってきた。
「お待たせ〜お茶しか無かった〜」
「お構いなく」
そうしてテーブルにお茶の入ったコップを置き、対面する様にみぃがベッドに座った。
「それで?何だっけ?」
みぃが話を振ってくれた。
「動画配信だよ!俺と一緒にしてほしい!」
「動画配信ってさ?今話題の動画アプリの事?」
「そう!tubeNEOだよ!そこに動画を配信するクリエイターになるんだ!」
「それって動画配信を職業にするって事?」
「うん。ネオエイターって言うんだっけ?それにならない??」
「無理だよ。現実的に考えてネオエイターなんて一握りだよ!?そんな簡単になれる物じゃないよ」
「いや、大丈夫だ!結局はさ?動画を見て貰えれば良いんだ!ならやりようはある!」
「何かネタがあるって事?」
「ある!100万再生も夢じゃない!」
「どんなネタよ?」
「それはつまり!エロだ!!」
「は??」
みぃは間抜け面で気の抜けた声を出す。
「例えばみぃの生着替えとかさ…」
「…はぁ…」
今度は深いため息を吐くみぃ。
「何かコスプレするとかさ!」
「あのさ夏火?」
「ん?」
「それマジで言ってるの?」
「マジだけど??」
「これ私怒って良いんだよね??」
「えっ?いや、待て待て勘違いするな!ちゃんと隠す所は隠すし!裸になれって言ってるわけじゃ――
バコオォン
俺の言葉を遮って強烈な肩パンがヒットする
「いってぇな!!」
「当然の報い!全く…久々に話しかけてきたと思ったら変な事言い出すし!一発じゃ足りないぐらい!」
「ま、そりゃそうか…」
自分でも分かってたよ。変な事言ってるってさ。
一応言ってみただけだ。断られて当然。
「じゃあ本題に入るよ」
「今の冗談だったって事?」
「半分な」
「半分マジだったの?」
{はぁ…}と呆れるみぃ。
「正直な話、俺はグループでやりたいと思ってるんだ」
「グループ?何人ぐらい?」
「5人ぐらいかな」
「じゃああと3人?ツテはあるの?」
「ねぇよ。俺、友達居ないし」
「浮いてるもんねアンタ」
「だからあと3人!頼むよ!」
「はっ?私に探せと?」
「みぃはコミュ力高いし陽キャ属性あるから友達多いだろ?」
「もしかして私を誘ったのってメンバー探しの為?」
「具体的に理由は3つかな。単純に話しかけられる知り合いがお前しか居なかった事。2つ目はメンバー探し。んで3つ目は、、」
「3つ目は何?」
今から言う事を考えると照れが出る。
俺は{えっと〜}と言いながら痒くもない鼻先を掻いたりして照れ隠しをしながら
「可愛いから…」
と言った。
「は、はぁ?はぁぁ??」
流石のみぃも顔を真っ赤にして戸惑う。
「いや、見た目って大事だろ?告ってる訳じゃないからな?!」
「わ、分かってるわよ!!み、見た目ね…。えっと、あ、ありがとう?」
「お、おう!」
変な空気が漂う。
何故か心臓が{バクバク}と脈を打つ。
何か喋らないと…と思うが、どうにもみぃの顔を見るのが恥ずかしい。
それはきっとみぃも同じなのかな?
お互い何も喋らないまま時間だけが経っていく。
どのぐらい経っただろう?数分か?数十分か?それとも数秒??
時間の感覚さえ分からないまま脈打つ心臓がうるさく、もしかしてみぃに聞こえてる?なんて思ったら更に恥ずかしくなって…
余計な事は考えるなと思うが、なにぶんこの状況も相まって平常を保つのが難しい。
そんな中
「ど、どんなの上げるか決まってるの?」
と、みぃが話題を振った。
どんなの?…あぁ、動画の内容ね。
それはちゃんとマジで考えた。
「俺なりにネオエイターを研究してみたんだけど、商品紹介やゲーム実況とかは皆やってるんだよね。でも誰もやってないジャンルを思いついた!」
「それは?」
「ドラマだよ。俺達でドラマを作って配信するんだよ!!」
「えっ!?!ドラマ!?」
驚きを隠せないみぃだが、興味津々と言いたげな顔をしている。
「ドラマは勿論撮影が大事だろ?カメラやマイクとか。それに編集も大事だ。ネオエイターだってそれらが必須になるんだ。あとはドラマの脚本だ」
「まさか脚本書ける人探せとか言うんじゃないよね?」
「大丈夫。脚本は俺が書くよ」
「え?書けるの?」
「書けるとかじゃなくて書くんだよ」
「あ〜なるほど」
「その為のグループだ」
「でもそれじゃ5人って少なくない?内容にもよるけど最低でも10人は必要なんじゃない?」
「まあその辺は何とかするよ。今1番大事なのはメンバーだ!」
「それよりも大事な事聞いて良い?手伝うからには聞いておきたい事あるんだけど」
「ん?あぁ!グループ名か!かっこいいの考えてある!聞いて驚くなよ?その名もエフェクターだ!ほらかっこいいだろ?」
「そうじゃなくて」
みぃは真剣な表情で見つめる
みぃが何を聞きたいのかは予想出来てる。
考えてもみてくれ。
数年間距離を取っていた奴が、いきなりやってきて一緒にネオエイター目指してくれって言うんだぜ?
そんなの誰だって疑問に思うよな?
「何でネオエイター目指そうって思ったの?」
動機が気になるのは当然!
いや、何となく…なんて曖昧な返事はノーサンキューだろうな。
しかし…妹の事は言いたくない。
動機と言うのは絶対に必要だ。
でも妹の事を言うのはフェアじゃない。
逆の立場で考えてみてくれ。
妹の手術代を稼ぎたい!なんて言われたらこの話、断るにも断れなくなるだろ??
それにみぃの事だから給料も要らないとか言い出しそうだし…
そんな事は望んでないんだ。
あくまでも妹は俺の問題。
みぃは俺の問題に巻き込まれただけ!
そんなシナリオじゃなきゃフェアじゃない!
「お金が欲しいんだよ」
迷った挙句そう答えた。
「なんで欲しいの?」
「誰だってお金は欲しいだろ?将来良い暮らしをする為にお金儲けしたいんだよ」
「ふ〜ん」
全然納得してないって顔をするみぃ。
「まあ、お前も知っての通り片親だしさ、、、親孝行も入ってるみたいな?」
「そっか…。とりあえずそう言う事にしといてあげる」
「さんきゅ…」
「じゃあ今後の方針は仲間集めで良い?」
「おう!」
「じゃまた学校で!」
こうして俺達は別れた。
まだ見ぬ仲間を求めて――
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