ラブホテルで働こう!

折葉こずえ

第1話 ラブホテルで働こう!

 ラブホテルで働こう


 私のラブホテル勤務で経験した体験談や裏事情を簡単にまとめたエッセイになります。


 ――副業にラブホテルを選んだ訳――


 私は趣味で小説を書いているのですが、当然そんなもので食っていける筈もありません。

 昼間は普通に民間企業で働いておりますがそれでも生活は苦しく副業をせねばなりませんでした。


 最近は副業が認められる会社も増えて来たと事ですが、弊社はいまいち曖昧でして、完全に禁止されている訳ではないのですが、大々的に堂々と副業をするというのは憚られるというなんとも中途半端な会社なわけです。


 そうは言っても食っていけなきゃしょうがないと言う事で副業を捜す事にしたのです。


 何か会社にバレない副業は無い物だろうかと。家の内職なども検討した訳ですがこれもなかなかにハードルが高く、注意深く探さねば変な詐欺に会いそうなモノもあり、内職は諦めた次第です。


 ふと閃きました。仮に職場の人に見つかっても密告されなければ良いのではないだろうかと。

 むしろ相手の方が私に見つかる事を恐れる職場。そうですラブホテルです。


 副業禁止の会社で働くあなたが彼女、彼氏、愛人(職場内不倫等)、セフレと言った人達とラブホテルで同僚と遭遇してしまったとしましょう。あなたはそれを会社に報告するでしょうか?

 「昨日ラブホであの人見たよ」と言えますか? 私には無理です。

 相手が彼女、彼氏だった場合気にせずに報告する人もいるかもしれません。しかしそうじゃなかったら。

 仮に奥さんやご主人とだったとしましょう。その場合あなたの年齢にもよると思いますが、それなりに歳を重ねた人だった場合、気にせずに報告できるでしょうか? もしいつか、私が40歳、50歳と歳を重ね、伴侶とラブホテルに行ったとしましょう。そもそも夫婦でラブホテルに行くのも変な話ですが、家にお子さんなどが居るのなら解らない話でもないです。

 そして、伴侶と行ったラブホテルで同僚、部下、上司等が働いている姿を目撃したとして、会社に報告出来るでしょうか? 私には無理です。

 それにラブホテルという空間は基本的にお客様と従業員、もしくはお客様同士が鉢合わせない構造になっておりこの点も私にとってはメリットでした。


 以上が副業場所をラブホテルにした理由です。



 ――ラブホテルでの仕事――


 私が副業に選んだラブホテルは全国に数十店舗展開している大手の民間企業が経営するラブホテルでした。

 私は実際にそこで働く迄ラブホテルというのはなにか怪しい方達が経営しているモノだと勝手に思っておりましたので正直驚きました。中には個人で経営されているお店もあるのでしょうが、私が面接に行ったラブホテルはたまたまそういった大手のラブホテルチェーンだったのです。

 面接でも驚いた事があるのですが、勤務時間がかなりアバウトでも問題ないという事です。私の様に昼間は本業で仕事をしておりその傍ら副業をするというOLやサラリーマンが多いのです。当然本業のほうで突発的な残業が入ったりするのですが、そのような場合でも「本業の方で仕事が長引いておりまして……」という電話一本で嫌味を言われることも無く済みますし、それどころか何も連絡しなくても勝手に「本業が長引いているんじゃない?」と判断してくれたりします。普通の職場ならばシフトに穴をあけてしまい迷惑をかけてしまう訳ですが、私の選んだラブホテルは副業で働いていらしゃる方が多く誰かが突発的に遅刻、欠勤してもしっかり回るようスタッフが用意されておりこの点も大変有難かったです。


 ラブホテル内での業務ですが、私のお店は4つの持ち場があります。これは最初の面接の時に希望の配属先を尋ねられ概ね希望通りに配属されます。その4つとは、①フロント ②厨房 ③引き下げ ④ルームメイク の4つです。

 まず①のフロントですが、これは受付ですね。これは女性のみです。対面で鍵をお渡しするので女性のお客様に対する配慮でそうなっています。

 ②の厨房ですが、これは調理スタッフになります。これも驚いたのですが、ラブホテルで働くまで私はラブホテルで出てくる料理など出前かレンチンなのだろうと思っておりましたが、私のお店では厨房でしっかり調理をしておりました。と言ってもファミレスなどで使用する業務用の物ですが。

 ③の引き下げ部隊についてご説明します。これは主に男性が受け持ちます。この部隊の業務内容はお客様が退室された後に真っ先に部屋に飛び込んでベッドのシーツを剥がしたり食事をされた食器やグラスの撤収、ゴミの回収、お風呂の掃除です。何故男性が受け持つかという事ですが、当然シーツを剥がしたり食器の片付けなど力仕事もありますが、一番の目的は所謂ショッキングな”エグイ”物を女性スタッフに見せないという配慮からです。エグイ物も様々ありまして、血まみれのシーツ、やたらと黄色く濡れたシーツ、トイレに撒き散らかされた吐しゃ物、ウ〇チ等です。

 このウ〇チというのが稀にあるらしいのです。トイレで流されていないという程度の物ではありません。主にバスルームに残されている様です。私は幸い見た事がないのですが、これを聞いた時は本当に驚きました。これで男女差が無く時給が同じなのですから引き下げ部隊には頭が上がりません。

 ④のルームメイクです。私の持ち場はここでした。これは文字通り引き下げ部隊が引き下げ終了後にお部屋に入って掃除やベッドメイキングをします。ルームメイクは二人一組でチームを組んで行います。二人一組には理由がありまして、ベッドシーツと言うものは一人ではシワ無くキレイに敷く事が難しいのです。それから掃除箇所も多く一人では時間がかかりすぎてしまう為です。それと、これはルールでは無いのですが、ペアを組む時に男性がいればなるべく男女のペアにします。職場自体は女性スタッフの方が多いのですが男性もいます。これの理由は良く分からないのですが、スタッフ間の噂では女性二人のペアで密室でお互い指摘し合って仕事をすると色々面倒な事が起こるらしいです。掃除終了後お互いが受け持った箇所にやり残しや落ち度が無いかチェックし合います。馬の合わないペアですと不満や陰口に発展するそうです。男女ではあまりトラブルは起こりにくいのだそうです。私達のお店はとにかく掃除を妥協しません。これはお店の経営理念とかサービスに対する信条だとかによると思うのですが、徹底的に掃除をします。細かい備品一つ一つ丁寧にアルコール消毒をし、髪の毛1本残しません。お風呂の排水溝などお客様がカバーを外してまで見ないと思うのですが、そこにも髪の毛1本たりとも残しません。床は箒、掃除機の後コロコロで細かい埃まで完全に排除いたします。そして最後にペアの片方が相方が受け持った掃除箇所をチェックします。埃が落ちてれば指摘します。

 私はラブホテルで働くまでは掃除なんてもっと適当にやってるんだろうなあと思っておりましたので、これは良い意味で驚きでした。勿論経営する会社によって差があると思うのですが、もしいつか私がラブホテルに客としていくことがあれば私達のグループのホテルに行きたいと言うと思います。そのくらい清潔さに拘っておりましたので。


 4つの持ち場のうち厨房、引き下げ、ルームメイクはシフト制になっており週の決まった曜日に休暇を取るのですが、フロントだけは勤務体制が異なりいわゆる1勤2休になっています。24時間働いて2日休みです。当然休憩時間はあります。


 お部屋の状況はスタッフルームのモニターである程度把握出来る様になっております。壁に大型モニターが設置されていて各客室の状況が色や点滅や文字等で表示されています。入室してから何分経っているか。休憩利用か宿泊利用か。引き下げ中か掃除中か。会計中との情報も表示されます。


 ――ラブホテルの裏事情――


 皆さんは恋人と胸を躍らせながらラブホテルに行ったら『満室』だっという経験はありませんでしょうか。そしてこう思う人もいるでしょう、『みんなどんだけ盛ってんだ』。

 しかしこの『満室』。これは正しい表現ではありません。『満室』と聞くと全ての客室にお客様が入っている物と思われがちですがこれは間違いです。便宜上『満室』としていますがお客様が入っている客室は多い時でもせいぜい7割程度です。では残りの3割は何をしているのかと言うと掃除やお風呂の乾燥、スタッフの休憩中もしくはスタッフが間に合わない時に空き室をワザと閉じて回転を下げる時もあります。またマネージャーが一部屋借り切って寝泊まりしている時もあります。とくにお風呂の乾燥には時間がかかりまして、引き下げ部隊が真っ先に部屋に飛び込んでお風呂の掃除をするのもこのためです。掃除後床やバスタブ、天井に至るまでウエスで除水をするのですが拭くだけでは完全に除去しきれません。

 皆さんの中でラブホテルに入ったらお風呂が濡れていたという経験のある方はいらっしゃるでしょうか。きっといらっしゃらないと思います。もし濡れていたら不快な気分になるでしょう。そのくらい除水は徹底的に行うのです。

 ラブホテルの『満室』は『準備できるお部屋が現在ありません』という表現が正しいと思います。

 夜ラブホテルに到着して『満室』だったとしても諦めてはいけません。掃除が終われば部屋は空くのです。


 私達のお店のグループ企業は所謂ホワイトでした。スタッフの誰かが急に体調を崩して欠勤しスタッフが足りない日もあります。そうした場合は空き室をワザと閉じてお客様の回転を下げてくれたりと従業員に配慮されておりました。

 賄いもありました。ご飯食べ放題なのは有難かったです。


 こんな都市伝説を知っていますでしょうか。『客室に隠しカメラが設置してある』。こんなことは絶対にありません。玄関の出入り口や廊下通路には確かに防犯カメラが設置されておりますが、客室にまでカメラが設置してあるのという噂は完全に都市伝説です。


 忙しい時間帯ですが、これはやはり夕方から深夜にかけてです。この時間帯は休憩利用のお客様が非常に多いです。普通のカップルであれば2~3時間は利用していただけるのですが、デリヘル使用のお客様は1時間、早い方(色んな意味で)ですと30分程で退室されます。2時間かけて掃除したお部屋を30分で出て行かれるのですからスタッフは大変です。

 逆に真夜中はかなり暇になります。宿泊利用のお客様が多いからです。部屋に入ってしまえば翌朝まで出てこないのですから当然ですね。

 この暇な時間何をするのかと言いますと、リネンを畳んだり、洗濯機や乾燥機でフェイスタオルやバスタオルやピローカバーを洗ったりします。これも地味に大変でして、リネンやシーツが指の油を吸収し手荒れが酷いのです。冬場は手袋を着けて作業をしておりました。


 使用されたお部屋にも様々ありまして、お風呂を使用されていないお部屋。ベッドが使用されていないお部屋もありました。何をしに来たんだって感じですがたまにあります。お客様も様々で、男性お一人で入室されたのに結局そのままお帰りになるお客様。後に判明するのですが、出張中のサラリーマンがビジホ代わりに使用される事もあると知りました。その他、女性2名で入室されるお客様。(ちなみに男性のみの2名は入室をお断りしておりました。理由不明) 女性4名でお泊りされるお客様。これは想像ですが観光旅行の宿代わりにされたのではないかとスタッフ間で話した事があります。お部屋に『女子会』と銘打って簡単なパーティが出来るプランも用意されていましたので不思議な事では無いです。明らかに未成年。しかしこれは学生服や制服を着ていない限り身分証の提示を求める事は無いのだそうです。

 私のお店ではコスプレ衣装の無料貸し出しサービスもありました。それなりに利用されるお客様が多いです。人気は網タイツやガーター、バニー等の物ですがセーラー服やメイド服もそれなりに需要があるようです。


 私のお店ではお客様が退室される際フロントに退出する旨の電話をするのですが、これの伝え方にもお客様によって様々でして通常は『会計お願いします』や『退出します』と言われるらしいのですが、『終わりました』と連絡したお客様がいたとの事でそれを聞いたときは笑ってしまいました。お客様笑ってしまってゴメンナサイ。


 ――職場の雰囲気――


 私は元々下ネタと言うものが得意ではありませんでした。同性間で話す位なら多少はいけたのですが、異性も混ざるとちょっと抵抗があります。

 しかしラブホテルで働きだしてからすっかり変わってしまったようです。仕事中、「コンドーム」「バイブ」「ローター」「ローション」「おもちゃ」「喘ぎ声が廊下に漏れている」等の言葉がスタッフ間で飛び交います。こんな職場で働いていたら多少の下ネタなど気にならなくなってしまいました。職場の忘年会や新年会は圧巻です、居酒屋で老若男女20名以上のスタッフが下ネタを大声で会話するのです。周りのお客さんがドン引きでした。

 働く人達ですが、これは本当に様々な人が居ました。お店を本業で働くパートさんも勿論いらっしゃるのですが、副業の方が多数おられまして、個人の居酒屋さんのオーナーさん、大学生さん、OL、サラリーマン、中には大手企業の課長さんや部長さんといった地位のある方々もおられました。

 普通に生活をしていたら中々出会えない人々です。みなさん様々で事情で働いていらっしゃり、こういった方々との出会いは大変貴重な体験でした。


 いかがでしたでしょうか。ものすごく簡単に纏めましたがラブホテルでの仕事はとても楽しいものでした。皆さんも働いてみませんか?


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